桜の花が春爛漫に咲き誇るなか、今日、神戸大学に入学される皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。また、今日まで皆さんを温かく支え、励ましてこられた保護者ならびにご家族の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。
本日、皆さんの輝かしい希望に満ち溢れた笑顔を拝見しながら、この入学式を迎え、共にお祝いできることを、大変うれしく思っております。
そして、皆さんが、これまで長きにわたり、勉学に励まれ、厳しい入学試験を乗り越え、今日、神戸大学への入学の良き日を、迎えられたことに、改めて心より敬意を表します。

この春、神戸大学には、学部に2,655名、大学院博士課程の前期課程に1,288名、後期課程に363名、法科大学院と経営学 専門職 学位課程に151名、編入・転入学生として106名、うち海外からも286名の皆さんが入学され、計4,563名を迎えることができましたことを、神戸大学として大きな誇りと喜びを、感じています。
皆さんが入学された神戸大学は、豊かな自然に恵まれた六甲の山並みと、光り輝く瀬戸内の海に囲まれた、異国情緒豊かな港町神戸に位置し、1902年に創立された歴史と伝統のある、素晴らしい総合研究大学です。開学以来、「学理と実際の調和」という理念を掲げ、「真摯・自由・協同」の精神のもと、普遍的価値を有する「知」を創造するとともに、人間性豊かな指導的人材を、養成することを、使命としてきました。
これまで、本学からは、多くの優れた人材が巣立ち、教育、研究、政治、経済、医療、文化など、社会のさまざまな分野で活躍されています。日本の憲政史上、初の女性総理大臣となられた、経営学部出身の高市 早苗氏、iPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を、受賞された医学部出身の山中 伸弥博士、さらに『藍を継ぐ海』で直木賞を受賞された、理学部出身の伊与原 新氏をはじめ、多くの卒業生が世界に誇る業績を、残してこられました。こうした先人たちの歩みは、本学の大きな誇りであり、皆さんの未来の可能性を、示すものでもあります。
本日も、神戸大学経営部のご卒業で、株式会社刀 代表取締役CEOでいらっしゃいます森岡 毅さまに『Harder Right』という題目で、ご講演いただけることになっておりますので、楽しみにしてお待ちください。
現在、神戸大学は、11の学部と14の大学院、法学と経営学の二つの専門職大学院、経済経営研究所、医学部附属病院、さらに多くの教育研究に関わるセンター群と、複数の図書館で、構成されています。
本学のキャンパスは、六甲台、楠、名谷、深江、ポートアイランドの5つの地区に広がっています。
学術領域として、六甲台と深江地区に、人文・人間科学系、社会科学系、自然科学系、 楠地区と名谷地区には、生命・医学系があり、それぞれが優れた特色と強みを持ち、お互いに密な連携をして、新規性の高い独創的、学際的な教育・研究を行ってきており、国際的にも高く評価されています。また、ポートアイランドの、神戸医療産業都市地区にも、統合研究拠点、国際がん医療・研究センター、メドテックイノベーションセンター、バイオものづくり共創拠点、光ものづくり拠点、神戸大学発のベンチャー企業など、様々な大学の研究開発拠点が着々と集積しており、『デジタルバイオ&ライフサイエンス・リサーチパーク』として、神戸大学の革新的な科学技術基盤を形成し、発展してきています。今後も、世界に誇れる最先端技術の研究・開発とともに、新しい価値を創造し、産官学連携により社会実装に取り組み、新たな神戸大学発のスタートアップや、新規産業を創出して、地域社会に貢献して参ります。
さて、日本社会は今、人口減少と急速な技術革新という、大きな転換点に立っています。昨年度の出生数は、約70万人となり、2040年には、今の18歳人口は3割減少し、高等教育も、大きく変化しようとしています。このような時代において、国の発展を支える、最も重要な基盤は、教育によって育まれる、優秀な人材であります。社会を前進させるのは、新しい価値を創造し、未知の課題に挑戦できる高度専門人材です。そのような人材を育てることこそが、大学に課せられた重要な使命です。
神戸大学では、学部・大学院教育改革に取り組み、時代ニーズにあった魅力あるカリキュラムを整備し、未来を思考する鋭い感性、判断力と思考力、そして高度な実践力を養い、社会に立ち向かい、挑戦できる能力の涵養に注力してきています。また、文理の枠を超え教育ネットワークを形成して、より一層、総合的、複合的な思考力、創造力を養うための異分野共創型教育を推進するとともに、学部・大学院一貫教育や社会との連携を強固にした教育を構築し、それぞれの分野で専門性と多様性を持った優秀な人材の育成に取り組んでいます。皆さんには、これからの学生生活において、さまざまな環境に身を置き、多様な学びを深めながら、自分とは異なる価値観を持つ、人々の考えや行動にも真摯に向き合い、それらを受け止めつつ、自らが誇りをもって歩む道を、切り拓いていってほしいと願っています。学生時代ほど、時間の余裕をもって、自分自身と向き合える時は、これからの人生において、そう多くはありません。目先のことにとらわれず、この大学で、自分は何に心が動くのか、本当に学びたいものは何か、を自分自身とじっくり向き合って考えて、よき師、よき友とともに、学を究めてほしいと思います。皆さん一人ひとりが、その答えを、神戸大学できっと見つけることができるでしょう。そして、その答えは、やがて皆さん自身の人生を支える、大きな軸となることでしょう。
皆さんの将来の目標は、何でしょうか。学部を卒業した後、早く社会に出て、自分が志す分野で実務を通じて活躍したいと、考えている人も多いことでしょう。
しかし、大学院へ進み、研究者として未知の世界を探究する道、あるいは高度な専門性を身につけ、実践的な博士人材として、社会に踏み出し、新しい価値を生み出していく道もあります。そうした道も、また、皆さんの未来を大きく拓く、魅力ある人生の選択肢です。今日も、大学院博士課程の、前期課程、後期課程に多くの方々が入学されました。大学院とは、研究を通して真理を探究し、新しい知を見いだす冒険の出発点であると同時に、知を社会に還元し、広く人類社会に貢献していく視座を培う、崇高な学びの場でもあります。その過程は、確実な正解があって進む道ではなく、仮説と実証を繰り返し、らせん階段を少しずつ上りながら、高みに近づいていくものです。仮に、実証により仮説と違った結果が出ても、諦めずその結果がでた理由を、じっくり考える過程を楽しむことが大切です。そうした姿勢のなかで、偶然に価値ある産物の発見、いわゆるセレンディピティが、生まれることもあるでしょう。大学院で身につける先端的で、高度な知識や技術は、最初は小さな「点」にすぎず、その価値にすぐには、気づかないこともあるでしょう。しかし、その点はやがて多くの人と出会い、様々な知や経験と結びつき、「面」となり、大きな力となって、皆さん自身の成長を支え、社会に新しい価値をもたらす源となるはずです。
私自身も、大学院、そして、海外留学を経験し、一時期、基礎医学の研究に没頭する日々を送りました。
そのため、当初、目指していた外科系医師としての研修は、同期よりかなり遅れ、「遠回りをしてしまったのではないか」と不安に思ったこともありました。けれども、今振り返ってみると、その遠回りこそが、多くの人との出会いをつくり、私の研究力と人間力を大きく成長させ、結果として人生において最も確かで近い道を、歩ませてくれたと思っています。
皆さんもこれからの長い人生の歩みにおいて、迷いや不安、そして、先の見えない時期に直面することがあるでしょう。しかし、そのような時こそ、焦ることなく、むしろ貴重な機会であると前向きに受け止め、自分自身と向き合い、挑戦し続ける心をもって乗り越えてください。
また、自ら選んだ道であるならば、その道に無駄はないと信じ、若い時にこそ、できる限り様々な先端研究や卓越した教育に接し、豊かな知識と技術、広い視野を身につけ、自らを磨き続けてください。
そして、まだ誰も見たことのない、新しい価値を生み出し、社会に貢献する人材へと、成長していかれることを、心から願っています。
今、神戸の街は、駅周辺やハーバー周辺において、再整備が急速に進み、新しい発展の時代を迎えています。皆さんが今、おられるGLIONは、昨年の4月に建設され、スポーツや、コンサートなど様々なイベントが、行われています。神戸大学として今年、初めて入学式をこの場で行い、皆さんをお迎えしています。また、神戸空港が昨年、国際化され、神戸は、国際都市神戸、大学都市神戸として、さらに発展していくものと期待しています。是非、この魅力ある神戸において、勉学のみならず多くの人との出会いや経験を通して、豊かな学生生活を送っていただきたいと思います。
皆さんの未来は、夢と希望に満ち溢れています。夢を見れば見るほど、人生は輝きます。夢なきところに成功は、ありません。大きな志をもって夢を見続ければ、きっとそのひとしかたどり着けない、素晴らしい最高の景色に出会うと思います。神戸大学、そして私たちすべての教職員は、皆さんが安心して自らの能力を最大限に伸ばすことができるよう、教育・研究の質をさらに高める努力を続けてまいります。そして、一人ひとりに愛情と優しさ、そして厳しさをもって寄り添いながら、皆さんの輝かしい未来を、ともに創り上げていきたいと思っています。
いつの日か、皆さんが神戸の街と六甲の丘を、ふと振り返ったとき、静かにこう思っていただけることを心から願っています。
「あの日、神戸大学に入学して本当によかった」と。
最後に、学長として、お願いがあります。皆さんの前には、今日から今までと違った新たな魅力的な世界が広がっていくと思います。一方で、社会は急速に変化し、複雑さを増し、生成AI・SNSによって、さまざまな情報が氾濫して、時には人々を混乱に陥れています。是非、情報の発信元をしっかりと確認・検証して、その信頼性を見極めるとともに、同調性の高い生成AIに、過度に依存することなく、神戸大学生として、そして人間としての気高い品格と誇り、優れた知性、高潔な倫理観と道徳観をもって、自らを律し社会のなかで行動していってください。そして、何よりも、大切な健康に十分留意され、これからの学生生活が、皆さんを真に豊かで輝かせるものになることを祈念し、入学のお祝いの式辞とさせていただきます。
本日、誠におめでとうございました。
令和8年4月2日 神戸大学長 藤澤 正人