神戸大学環境保全推進センターの牧秀志准教授、同工学研究科応用化学専攻博士課程前期課程の坂田元気さん (現・セントラル硝子 (株))、水畑穣教授らの研究グループは、水道水の浄化などに使用されるアルミニウムの濃度を、磁場を用いて迅速かつ正確に計測する新たな分析手法を開発しました。今後、浄水処理過程で使用する高性能・低環境負荷型の凝集剤の開発への貢献が期待されます。

この研究成果は、5月29日に第76回分析化学討論会で発表されました。

研究の内容

水道水を濁りのない安全な状態で供給するためには、原水に含まれる「コロイド」と呼ばれる1ナノメートルから1マイクロメートルの粒子を取り除く必要があります。コロイドを凝集して除去するため、浄水処理の過程でアルミニウムイオンを主成分とするポリ塩化アルミニウム凝集剤が使用されます。しかし、アルミニウムイオンは魚毒性や植物の生育阻害要因となり得るため、水道法の水質基準ではアルミニウム濃度を0.1ppm (1000万分の1) 未満に抑えることが求められます。

水中にはさまざまな構造のアルミニウムイオンが溶けており、これまでは色素と吸光度計を用いる「フェロン法」により濃度を計測するのが一般的でした。しかし、この方法では分析に数時間要することや、分析結果に誤差が生じやすいなどの欠点がありました。

牧准教授らの研究グループは、保有するNMR装置※1を最適化し、アルミニウムイオンの構造ごとの正確な存在割合を計測する「定量27Al NMR法」という分析手法を開発しました。この分析手法の特徴として、3分程度で計測が可能で、全てのpH領域を僅かな誤差で測定できる点が挙げられます。

定量27Al NMRによる分析

1つ1つのスペクトルはわずか3分で測定できる。

アルミニウムイオンの反応

溶液調製後、数分後から測定を開始。非破壊測定のため、長時間にわたって同じ溶液を測定することができる。

アルミニウムイオンを含む汚泥が凝集する仕組みを分析したところ、アルミニウムイオンの濃度が高いと、約100分後にはケギン型13量体クラスター(K-Al13)が生成され、数ヶ月後にはポリマー化することがわかりました。

今回開発した分析手法により、水中のアルミニウムイオン濃度の計測が容易となるだけでなく、時間が経過するにつれてアルミニウムイオンがどのような構造変化を起こすのかということが明らかになったことで、より効率的にコロイドを凝集することのできる高性能・低環境負荷型の凝集剤の開発に大きく貢献することが期待されます。

用語解説

※1 NMR法

Nuclear Magnetic Resonanceの略。原子核を磁場に入れ、共鳴現象を観測することで分子構造を原子レベルで解析する手法。カーボンやプロトンなどの「双極子核」を用いたものが一般的だが、今回の手法では「四極子核」のアルミニウムを使用した。四極子核の定量NMR法は世界でも報告事例がない。

発表内容

タイトル

“定量27Al NMRを用いたアルミニウム多核錯体の加水分解反応とその凝集プロセスの解析”

発表者

坂田元気, 牧秀志, 水畑穣

学会

第76回分析化学討論会 (5月28-29日)

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研究者

SDGs

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