神戸大学大学院医学研究科疫学分野の篠原正和准教授らは、同医学研究科循環器内科学分野の平田健一教授と共同で、炎症を抑える働きを持ち「善玉」とも呼ばれる「高比重リポ蛋白(HDL)」が、動脈硬化症例では「悪玉」になっていることを見出しました。

動脈硬化症例では、HDLに含まれる蛋白の種類が変化し、強力な炎症性脂質ロイコトリエンB4(LTB4)が産生され、周りのマクロファージに悪影響を及ぼしていることが、質量分析計を用いた解析(リピドミクス解析)から明らかになりました。マクロファージは様々な炎症反応・生体防御に重要な役割を担う細胞です。今回の発見は動脈硬化疾患のみならず、慢性炎症が関わると考えられている生活習慣病や癌の新たな病態の理解・予防・治療法の開発に貢献することが期待されます。

この研究成果は、10月11日 (現地時間) に英国科学雑誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

研究の背景

HDLは末梢組織で余剰になったコレステロールを肝臓へ運ぶコレステロール逆転送系に関与し、また抗炎症作用を発揮することで動脈硬化の予防に重要な役割を果たします。そのためHDL機能が低下すると、動脈硬化疾患を起こしやすくなることが知られています。しかし、様々な疾患においてHDL機能が低下する原因は十分に分かっていません。

本研究では健常人と動脈硬化症例の血液から超遠心法によってHDLを分取し、それぞれのHDLを構成する蛋白や脂質の質に違いが見られるか、またHDL機能を悪化させる因子について質量分析計を用いて探索しました。

研究の内容

篠原准教授らは、様々な炎症反応・生体防御に重要な役割を担うマクロファージとHDLとの相互作用を検討しました。この結果、健常人のHDLはマクロファージへ取り込まれ(図1:赤色に染めたHDLがマクロファージに取り込まれています)、活性化されたマクロファージで発現が増加するLTB4産生酵素5-リポキシゲナーゼ (5-LO) を分解し、炎症性脂質LTB4産生を抑制することが分かりました (図3左)。一方、動脈硬化症例のHDLには5-LOを始めとするLTB4産生酵素ユニットが含まれており、HDL自らがLTB4を産生します (図2)。このLTB4の影響で、HDLがマクロファージへ取り込まれなくなり、活性化したマクロファージの5-LOが分解されず、LTB4産生が持続してしまうことが分かりました (図3右)。

今後の展開

機能不全 (悪玉) HDLから放出されるLTB4の働きを阻害することで、周囲のマクロファージに与える悪影響を無くし、健常人のHDLのように抗動脈硬化作用を取り戻す効果が期待されます。今回の研究の結果、HDLから産生される生理活性脂質が周囲の細胞に影響を与えるという、新たな「HDL-細胞間相互作用」が明らかになりました。今回の発見は動脈硬化疾患のみならず、慢性炎症が関わると考えられている生活習慣病や癌の新たな病態の理解・予防・利用法の開発に貢献することが期待されます。

論文情報

タイトル
Novel mechanism of regulation of the 5-lipoxygenase/leukotriene B4 pathway by high-density lipoprotein in macrophages
DOI
10.1038/s41598-017-13154-0
著者
Shigeyasu Tsuda, Masakazu Shinohara, Toshihiko Oshita, Manabu Nagao, Nobuaki Tanaka, Takeshige Mori, Tetsuya Hara, Yasuhiro Irino, Ryuji Toh, Tatsuro Ishida and Ken-ichi Hirata
掲載誌
Scientific Reports

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研究者