神戸大学海洋底探査センター (KOBEC) では平成27年のセンター設置以来、神戸大学大学院海事科学研究科附属練習船の「深江丸」を用いた3回の探査航海を「鬼界海底カルデラ」で実施しました。その結果、7300年前の巨大カルデラ噴火以降の短期間に、32km3を超える地球上で最大クラスの巨大な溶岩ドームが形成されたことを確認しました。またこの溶岩は、巨大カルデラ噴火を起こしたマグマとは異なり、現在の薩摩硫黄島などの後カルデラ火山と同じ化学的特性を示します。現在も鬼界カルデラの地下に巨大なマグマ溜りが存在している可能性があります。
この成果は、2月9日 (イギリス時間午前10時)、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
ポイント
- 日本列島で最も直近 (7300年前) に巨大カルデラ噴火を起こした「鬼界海底カルデラ」内に、この噴火以降に大規模な溶岩ドームが形成されたことが分かりました。
- その体積は32km3以上で、世界最大級の規模です。
- この溶岩は、7300年前の巨大カルデラ噴火の噴出物とは化学的特性が異なります。
- このことは、鬼界カルデラには7300年前以降に大規模なマグマ溜りが存在し、そして現在も存在している可能性を示唆します。
- 溶岩ドーム上には水柱音響異常が認められ、活発な海底熱水活動の存在が予想されます。
研究の背景
40km3以上のマグマを一気に噴出する「巨大カルデラ噴火」は、日本列島で今後100年間に約1%の確率で発生し、ひとたび起きると甚大な被害が予想されます。従ってその発生メカニズムの解明と噴火予測の検討が喫緊の課題です。
KOBECでは「深江丸」に最新の観測装置を装着し、鬼界海底カルデラの探査を実施しています。この火山を対象とした理由は、1) 陸上火山では人口密集のために人工地震を用いた大規模な観測が困難であり、比較的大深度 (約10km) に存在する可能性が高い巨大マグマ溜まりを高精度可視化することは難しいこと、2) 鬼界カルデラは日本列島で最も直近 (7300年前) に巨大カルデラ噴火を起こした火山で、現在も巨大マグマ溜りが存在する可能性が高いこと、です。
KOBECではこれまで3回の探査航海を通して、精密海底地形調査、反射法地震探査、海中ロボットによる観察、岩石試料の採取と分析、海底地震計・電位差計などを用いた観測などを行ってきました。
今後の展開
3月の探査航海では、これまでの探査で明らかになった2重のカルデラについて、その形成プロセスを巨大カルデラ噴火の発生メカニズムと合わせて明らかにするための反射法地震探査、海中ロボットによる観察を行う予定です。
さらに、地震学的・電磁気学的手法で巨大マグマ溜りの存在を確認し、海洋研究開発機構などと連携して大規模地下構造探査を実施し、地殻下部 (深さ約30km) に至る全マグマシステムに対する高解像度の可視化に挑戦します。その結果を元にモニタリングを行うことで、巨大カルデラ噴火予測への道を切り開きたいと考えています。
また、海底熱水活動に伴って金属鉱床の形成が予想されるため、今後この海底資源の評価を行う予定です。
用語解説
- ※1 カルデラ
- 火山噴火に伴って形成された窪地地形。
- ※2 巨大カルデラ噴火
- 大量のマグマ (>40km3) を一気に噴出して大規模なカルデラを形成する噴火。日本列島では過去12万年間に10回起きている。巨大カルデラ火山は九州と北海道に集中している。
- ※3 反射法地震探査
- エアガンなどで人工地震を発生させて地下で反射や屈折した地震波を受信し、地下構造を推定する探査。
論文情報
- タイトル
- “Giant rhyolite lava dome formation after 7.3 ka supereruption at Kikai caldera, SW Japan”
- DOI
- 10.1038/s41598-018-21066-w
- 著者
- 巽好幸1、鈴木桂子1、松野哲男1、市原寛2、島伸和1,3、清杉康司1,4、中岡玲奈1、中東和夫1,5、滝沢秀明6、林和輝3、千葉達朗7、清水賢1,8、佐野守1,8、井和丸光1,8、両角春寿1,9、杉岡裕子1,3、山本揚二朗10
1神戸大学海洋底探査センター、2名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター、3神戸大学大学院理学研究科、4神戸大学先端融合研究環、5東京海洋大学海洋資源エネルギー学部門、6ジャニーズ事務所、7アジア航測、8日本海洋事業、9石油天然ガス・金属鉱物資源機構、10海洋研究開発機構 - 掲載誌
- Scientific Reports (Nature Publishing Group)