オントンジャワ海台は西太平洋の赤道付近に位置する巨大な海底の高まりで、広さは日本国土の4倍以上に及びます。約1億2千万年前に極めて激しい海底火山活動によって形成され、当時の地球環境を激変させたと考えられています。しかし、海台の地下構造が調査されていなかったため、火山活動の原因は未解明でした。

東京大学地震研究所の一瀬助教、海洋研究開発機構の末次上席研究員らの研究グループは、海台の地下構造を推定するためにオントンジャワ海台を含む海域で実施された海底地震観測 (図1) のデータを使用して、オントンジャワ海台下でプレートの底が周囲より40km深いことを明らかにしました (図2)。さらにオントンジャワ海台の岩石学的な研究結果を考え合わせて、オントンジャワ海台の火山活動は地球深部から上昇してきた熱組成プルームによることを提案し、地表に噴出したマグマの融け残りが海台に貼り付いてプレートが厚くなったことを世界で初めて示しました (図3)。この成果は白亜紀の地球環境変動の理解を深めるだけでなく、将来発生する巨大火山活動の発生メカニズムや地球環境変動への影響を予想するための指標となるものです。

ポイント

  • 世界最大の海台であるオントンジャワ海台のプレートの底が周囲より約40km深いことを明らかにし、これが海台形成時の熱組成プルーム (注1) の融け残りが付加したものであることを示した。
  • オントンジャワ海台で海底地震観測を実施し、海台のプレートの底が周囲より深いことを明らかにし、さらに岩石学的証拠を基に、海台の成因が熱組成プルームの上昇に起因することを示した。
  • オントンジャワ海台の成因の解明は、白亜紀の地球変動の要因への理解を深めるだけでなく、将来発生する巨大な火山活動によってもたらされる地球環境変化の大きさとメカニズムを予想するための指標となる。

研究の背景

オントンジャワ海台は西太平洋の赤道付近に位置する世界最大の海台で、面積は約160万km2 (日本の国土面積の4倍強) です。約1億2千万年前の白亜紀に極めて激しい火山活動によって多量の溶岩が噴出してできた巨大な海底火山であり、この火山活動によって地球環境が大きく変化し、地球が温暖化すると共に海洋生物の大量絶滅が引き起こされたと考えられています。大規模な火山活動の原因、すなわちオントンジャワ海台の成因については 1) 地球深部の巨大な高温のマントル上昇流 (プルーム) が地表付近まで到達して、火山活動を引き起こした 2) マントル内に存在する過去の海洋地殻物質のかけらが海嶺付近の強いマントル上昇流に乗って上昇して融け、火山活動を引き起こした 3) 小惑星が地球に衝突して、地表での火山活動を引き起こした。という説が提案され、研究者の間でも長い間議論されてきました。また、オントンジャワ海台は海面下で形成されたことが分かっていますが、他の多くの海台は海面上で形成されており、この違いの原因も不明でした。

図1:本研究で使用した地震観測点とオントンジャワ海台の位置

▲△は既存の陸上及び海底地震観測点。“黄色の▲” は本研究で新たに設置した地震観測網 (OJP array) のうち解析に使用した地震観測点。機器の不調により25観測点のうち19点を使用した。

オントンジャワ海台の成因について決着がつかなかった大きな理由は、海台の地下構造がよく分かっていなかったことです。そこで、東京大学地震研究所、海洋研究開発機構、神戸大学は、最新鋭の機動型広帯域海底地震計23台と2点の島上地震観測からなるオントンジャワ海底地球物理観測網 (OJP array) を構築し (図1)、2014年終わりから2017年始めにかけて、オントンジャワ海台直上およびその周辺海域での広帯域地震観測を世界で初めて実現し、オントンジャワ海台とその周辺の上部マントルの地震波構造を解明しました。

研究内容

図2:本研究で推定されたプレートの底の深さ

オントンジャワ海台 (赤線内) の中央部でプレートの底の深さが約130kmであり、隣接するナウル海盆での深さ約90kmと比べて明らかに深いことが明らかになりました。

本研究では、地球表層を伝わる表面波 (注2) という地震波を解析に使用しました。海底地震観測では、海流の影響で地震計のノイズレベルが高いため、振幅の大きな表面波が最も解析しやすいという利点があります。共同研究者である北海道大学の吉澤准教授により開発された表面波解析手法を用いて、地表から深さ約300kmまでの上部マントルの3次元S波構造を決定しました。

その結果、オントンジャワ海台中央部のプレート (S波速度が速い領域) が約130kmの深さまで存在することが初めて分かりました (図2)。オントンジャワ海台の北東に隣接するナウル海盆ではプレートが約90kmの深さまで存在しており、太平洋プレートの典型的な特徴を示しているのとは対照的でした。オントンジャワ海台の地殻の厚みが30-40km、ナウル海盆は約10kmであることを考慮すると、オントンジャワ海台下でプレートのマントル部分が20km以上厚いことを意味しています。地震波速度からこの分厚いプレートは化学組成の異なるマントル物質によるものであると考えられます (図3)。

異常に厚いプレートの存在を地震波解析から明らかにしたのは本研究が初めてですが、共同研究者である東京工業大学の石川晃准教授らは、オントンジャワ海台の縁辺に位置するマライタ島に産するマントル捕獲岩 (注3) の研究から、オントンジャワ海台下に厚いプレートがあることを提唱していました。彼らの研究では、オントンジャワ海台のマントルは深さ約90kmまでにはオントンジャワ海台形成前に存在していたプレートがあり、その下深さ120kmまでの部分には熱組成プルーム物質の融け残りが付加して分厚くなっていることが示されていました。本研究結果は、この分厚いプレートの存在を全く独立に明らかにしたことになります。

図3:本研究で得られた成果の模式図

オントンジャワ海台形成時の熱組成プルームの融け残りの水に乏しいマントル物質が、オントンジャワ海台のプレートの底に貼り付き、オントンジャワ海台の厚いプレートを形成しました。

さて、オントンジャワ海台の成因ですが、3) の仮説は、証拠となる小惑星衝突の痕跡が発見されていないため可能性は低く、2) の仮説はオントンジャワ海台下のプレートが厚くなる理由が説明できません。1) の高温プルーム仮説では、プレートが厚くなることは説明できますが、オントンジャワ海台生成時の火山活動が海面下で起きたことが説明できません。本研究で提案する熱組成プルーム説は、地球内部から高温のマントル物質が上昇するという点では 1) の仮説に似ていますが、1) では上昇するマントル物質は均質で周囲のマントル物質と同じであるのに対し、熱組成プルームでは融けやすい地殻由来物質が含まれたマントル物質から成る点が異なっています。オントンジャワ海台が形成された時、プルームのマントル物質のうち融けたマグマが固まって地殻を形成しますが、この時プルームに含まれていた水はマグマに集中し、融け残ったマントル物質は水に乏しく硬くなります。この水に乏しい硬い物質がプレートの底に貼り付き、オントンジャワ海台の厚いプレートを形成したと考えらます。また、混入している地殻物質の密度が高く、融け残ったマントル物質の密度も高く、オントンジャワ海台は海面上に顔を出すことができませんでした。

社会的意義

オントンジャワ海台が地球深部からの熱組成プルーム上昇によって生成され、地球温暖化を引き起こしたことは、地球深部活動も大規模な環境変動を起こしうることを示しています。本研究の成果は、白亜紀の地球変動の要因への理解を深めるだけでなく、将来発生するかもしれない巨大なマグマ活動によってもたらされる地球環境変化の大きさやメカニズムを予想するための重要な指標となるものです。

用語解説

(注1) 熱組成プルーム
マントル内の上昇流 (プルーム) の一種で、周囲より高温であるとともにプルームを構成するマントル物質が周囲の普通のマントルと異なり、地球内部に沈み込んだ古い海洋地殻由来物質などを含んでおり、化学的特徴が異なるという特徴がある。
(注2) 表面波
地震波のうち、地球の表層を2次元的に伝播するという特徴を持った波。P波やS波に比べ振幅が大きく遠くまで伝わる。数秒から数百秒の広い周期帯で観測される。
(注3) マントル捕獲岩
マントル内で発生したマグマが上昇中に取り込み、地表まで運び上げたマントル由来岩石の総称。その多くはかんらん石を主要構成鉱物とする「かんらん岩」に分類されるが、オントンジャワ海台由来のマントル捕獲岩には輝石を主体とする岩石に富む傾向がある。

論文情報

タイトル
Seismic evidence for a thermochemical mantle plume underplating the lithosphere of the Ontong Java Plateau
DOI
10.1038/s43247-021-00169-9
著者
Takehi Isse*, Daisuke Suetsugu*, Akira Ishikawa*, Hajime Shiobara, Hiroko Sugioka, Aki Ito, Yuki Kawano, Kazunori Yoshizawa, Yasushi Ishihara, Satoru Tanaka, Masayuki Obayashi, Takashi Tonegawa, Junko Yoshimitsu

一瀬 建日 (東京大学地震研究所 附属海半球観測研究センター 助教)
末次 大輔 (海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 上席研究員 (シニア) )
石川 晃 (東京工業大学 理学院 地球惑星科学系 准教授)
塩原 肇 (東京大学地震研究所 附属海半球観測研究センター 教授)
杉岡 裕子 (神戸大学 海洋底探査センター・大学院理学研究科 教授)
伊藤 亜妃 (海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 副主任研究員)
川野 由貴 (東京大学大学院理学系研究科 博士課程3年)
吉澤 和範 (北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門 准教授)
石原 靖 (海洋研究開発機構 海域地震火山部門 准研究主幹)
田中 聡 (海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 主任研究員)
大林 政行 (海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 主任研究員)
利根川 貴志 (海洋研究開発機構 海域地震火山部門 地震発生帯研究センター 副主任研究員)
吉光 淳子 (海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 准研究副主任)

掲載誌
Communications Earth & Environment

研究者