神戸大学大学院医学研究科細胞生理学分野分子代謝医学部門の清野進特命教授、オケチ・オドゥオリ研究員らと福島県立医科大学の下村健寿教授、オックスフォード大学のパトリック・ロスマン教授らの研究グループは、糖尿病治療薬であるインクレチン関連薬※1が効くメカニズムを世界で初めて解明しました。

インクレチン関連薬は世界中で使用され、日本国内でも現在7割近くの糖尿病患者に服用されていますが、これまでインクレチン関連薬が血糖値を改善させるメカニズムは不明でした。

この研究成果は、11月16日(現地時間)に米国科学誌「Journal of Clinical Investigation」にオンラインで掲載されました。

ポイント

  • 糖尿病治療薬であるインクレチン関連薬が血糖値を改善させるメカニズムを世界で初めて突き止めた。
  • 糖尿病患者の膵(すい)臓ではインスリン分泌を促進するシグナルであるGsがGqに変換されており、インクレチン関連薬はこのGqに働きかけることでインスリン分泌を促進し、血糖値を改善していることを解明した。

研究の内容

インクレチンは、食事摂取後に腸内分泌細胞から分泌され、膵(すい)臓のβ細胞※2を刺激することでインスリン分泌を促進するなどの働きをもつ消化管ホルモンの総称で、GLP-1とGIPが知られています。2型糖尿病患者はインクレチンが十分に働いていないことが分かっており、これを改善するために用いられているのがインクレチン関連薬です。現在インクレチン関連薬は世界中で使用され、日本でも7割近くの糖尿病患者が服用していますが、これまでなぜこれらの薬が効くのかはよく分かっていませんでした。

本研究では膵臓β細胞で働くGタンパク質※3に着目し、正常なβ細胞と糖尿病患者のβ細胞でのインスリン分泌機構を調べました。これまでに、正常なβ細胞ではGタンパク質のGsと呼ばれる分子がインスリン分泌を促進するシグナルとして働いていることが知られていました。本研究グループは新たに、糖尿病患者の膵臓ではβ細胞が興奮※4し続けるためにシグナルがGsからGqに変換されていること、また、インクレチン関連薬はこのGqに作用することでより強力にインスリン分泌を促進して血糖値を改善していることを解明しました。

図.本研究成果の概要

cAMP ( サイクリックAMP ): 細胞内のシグナル伝達物質で、細胞外のシグナル分子により生成されるセカンドメッセンジャーの一つ。
PKC ( プロテインキナーゼC ): タンパク質にリン酸を付加する酵素の一つで、細胞内の様々なシグナル伝達を制御する。

研究の意義

本研究成果は、糖尿病メカニズムの解明に重要であるばかりでなく、新しい治療薬の開発につながることも期待される意義の深い成果です。

用語解説

※1 インクレチン関連薬
インクレチンの血糖依存性インスリン分泌作用を利用して開発された糖尿病治療薬で、現在DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬が使用されている。
※2 β(ベータ)細胞
膵臓ランゲルハンス島に存在し、血糖値を調節するインスリンを分泌する細胞。
※3 Gタンパク質
細胞内のシグナル伝達物質でGs, Gq, Giなどが知られている。
※4 細胞の興奮
β細胞、神経細胞、筋細胞などは電気的に興奮することが知られている。

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論文情報

タイトル
Gs/Gq signaling switch in β-cells defines incretin effectiveness in diabetes
DOI
10.1172/JCI140046
著者
Okechi S. Oduori, Naoya Murao, Kenju Shimomura, Harumi Takahashi, Quan Zhang, Haiqiang Dou, Shihomi Sakai, Kohtaro Minami, Belen Chanclon, Claudia Guida, Lakshmi Kothegala, Johan Tolö, Yuko Maejima, Norihide Yokoi, Yasuhiro Minami, Takashi Miki, Patrik Rorsman, and Susumu Seino
掲載誌
Journal of Clinical Investigation

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