神戸大学大学院農学研究科の藤本龍准教授、宮路直実 (博士後期課程修了)、株式会社 渡辺採種場(以下、渡辺採種場)、宮城県農業・園芸総合研究所の研究グループは、根こぶ病に強度に耐病性を示す白菜の新品種の開発に成功しました。
今後、白菜の減農薬栽培、安定生産への貢献が期待されます。
ポイント
- 複数の根こぶ病抵抗性遺伝子を有する白菜品種を開発した。
- DNAマーカー※1 を利用することで品種育成にかかる労力と時間の削減に成功した。
研究の背景
国内において重要な野菜である白菜の生産現場では、長年の連作(同じ場所で同種の作物を毎年栽培すること)、更には、近年の異常気象や環境変動により、病害が多発し問題となっています。
中でも根こぶ病は全国どこの産地でも問題となっており、発病すると根が「しょうが」の形のように肥大し、水分や肥料分が吸えなくなり、枯死してしまいます (図1)。根こぶ病は土壌を媒介して伝染する病害であり、土壌改良資材や殺菌剤により対処されていますが、防除におけるコストと労力がかかる上に、根こぶ病菌の発生を完全に防ぐことが困難です。そのため、白菜自身に根こぶ病菌に対する抵抗性を持たせることが重要となります。しかし、根こぶ病菌には複数の病原型があり、それぞれの病原型に対する抵抗性遺伝子が異なります。このことから、強い根こぶ病抵抗性品種を開発するためには、複数の根こぶ病抵抗性遺伝子を持たせる必要があります。
根こぶ病抵抗性品種を開発するためには、白菜に根こぶ病菌を感染させて抵抗性を示す個体を選抜する必要があります。この従来型の方法 (接種試験) では、一つの集団に対して一つの病原型株しか選抜することができず、複数の病原型株に対するそれぞれの接種試験が必要になります。また、根こぶ病菌の感染力は土壌温度などの環境による影響を受けることから、複数回の接種試験を実施する必要があり、多大な時間と労力を要します。そのため、複数の抵抗性遺伝子について、接種試験による従来型の選抜で抵抗性遺伝子を有しているかを判定するには限界があります。一方、DNAマーカー選抜は、環境による影響を受けず、幼植物の段階 (大量サンプルでの試験が可能)で実施でき、かつ複数の病原型について抵抗性を有しているかを同時に判定することができます。そこで、DNAマーカーを利用して複数の根こぶ病抵抗性遺伝子を有する個体を選抜し、さらに従来法の育種の専門家による外観形質を基準にした選抜と組合せることで、新品種の開発を行いました。
研究の内容
複数の根こぶ病抵抗性DNAマーカーを個体選抜に導入することで、新品種「TC9112」を開発し、品種登録出願を行いました (図2)。
TC9112と、渡辺採種場の既存品種「秋の祭典」、他社品種を、根こぶ病に汚染された圃場で栽培したところ、調査した品種の中でTC9112が最も強い抵抗性を示しました (図3)。
また、通常の栽培条件で、TC9112の品種特性について、調べました (表1)。
栽培試験の結果、TC9112の特性として以下の5つが見出されました。
① 根こぶ病の幅広い病原型に対して耐病性を持ち、播種後70日位で収穫期に達する中早生品種で球肥大性が優れている。
② 外葉は極濃緑、玉は浅巻包頭形で尻張りと形状がよく、一球2.5~3.0kgである。
③ べと病などの各種病害にも強く、在圃性※2 が優れ栽培容易である。
④ 球内の黄色は極良好で、ゴマ症などの生理障害が少なく、秀品率が高い。
⑤ 結球葉枚数が多く、歯切れ良い肉質のため、キムチや浅漬けなどへの加工適性が優れている。
今後の展開
今回の成果から、DNAマーカー選抜の有用性が確認されました。既存の品種で根こぶ病に対する抵抗性が十分でないものには、今回の選抜法を利用することで、根こぶ病抵抗性を付与することが期待できます。また、白菜と同じ種のアブラナ科野菜である小松菜や蕪にも応用することができ、これらの野菜についても強度根こぶ病抵抗性品種の開発が期待できます。
用語解説
- ※1 DNAマーカー
- ゲノムDNAの塩基配列は品種や系統、個体間で違いがあるため、塩基配列の違いを目印 (マーカー) に、個体や遺伝子を識別する。病害抵抗性遺伝子マーカーの場合は、塩基配列の違いにより、病害抵抗性の有無を推定することができる。
- ※2 在圃性(ざいほせい)
- 長期間収穫されずに畑などへ置かれたままでも、品質などに影響しにくく、収穫期が長い性質
謝辞
本研究は、以下の支援を受けて行われました。
生研支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業 (30029C)
種子の販売について
種子の販売は(株)渡辺採種場 より令和4年6月の品種発表と同時におこないます。