神戸大学大学院農学研究科博士課程後期課程 (研究当時) の宮路直実 (現在は岩手生物工学研究センター研究員) と同研究科博士課程後期課程のMst. Arjina Akterらは、白さび病菌がコマツナに感染した際に生じる遺伝子発現の変化が病害抵抗性品種と罹病性品種で異なることを明らかにしました。本研究成果は今後のコマツナにおける白さび病抵抗性メカニズムの解明へと発展することが期待されます。

本研究は、神戸大学大学院農学研究科の藤本龍准教授、帯広畜産大学人間科学研究部門の中馬いづみ准教授、岩手生物工学研究センター、シレット農業大学 (バングラデシュ)、オーストラリア連邦科学産業研究機構 (CSIRO) らの共同研究により行われました。

この研究成果は、5月26日に、Scientific Reportsにオンライン掲載されました。

ポイント

  • コマツナにおいて、白さび病菌の感染によって発現状態が変化する遺伝子を発見しました。
  • 白さび病菌の感染により発現が変化する遺伝子は、白さび病抵抗性品種と罹病性品種で異なることが分かりました。
  • 抵抗性品種では、防御応答やサリチル酸に関連する遺伝子の発現が誘導された一方で、罹病性品種ではこのような傾向は見られませんでした。

研究の背景

白さび病は、コマツナやハクサイ (Brassica rapa L.) などのアブラナ科野菜の重要病害の一つです。白さび病菌Albugo candidaによって引き起こされる病害で、葉、葉柄、茎、花などに白いかさぶたのような病斑を生じるのが特徴です (図1)。コマツナやハクサイなどの葉菜類では、発病により野菜の見た目が悪くなるなど品質が低下して商品価値が大きく下がることが問題となっています。白さび病の防除法としては農薬散布などの方法がありますが、特に効果的な方法は白さび病に強い品種 (抵抗性品種) を利用することです。そのため、抵抗性品種を開発することが農業の現場で求められています。

図1. 白さび病菌が感染したコマツナ葉の様子

植物はさまざまな遺伝子の発現を制御することで、成長し、環境に応答・適応しています。これまでにさまざまな植物種において、遺伝子の発現を制御することで病害に応答し、抵抗性を誘導していることが明らかにされてきました。一方で、白さび病菌がコマツナに感染した際の遺伝子発現については明らかにされておらず、白さび病に強い品種 (抵抗性品種) と弱い品種 (罹病性品種) で遺伝子発現に違いがあるのか分かっていませんでした。

研究の内容

図2. 白さび病菌の観戦により発現が変動した遺伝子の数

白さび病抵抗性品種と罹病性品種に白さび病菌を接種し、感染前後で発現している遺伝子を明らかにしました。白さび病菌の感染によって発現量が増加・減少した遺伝子を品種ごとに選抜し、これらの遺伝子が品種間で共通するかを調べました (図2)。その結果、両品種で共通した遺伝子がある一方で、各品種に特異的な遺伝子も多数見出されました。

次に、白さび病菌の感染により発現が変化した遺伝子を既知の情報を元に分類することで、各品種においてどのような発現応答が起こっているか予測しました。抵抗性品種で発現が変化した遺伝子の多くは、防御応答に関連するカテゴリー (全身獲得抵抗性、プログラム細胞死など) やサリチル酸に関連するカテゴリーに分類されました。一方、罹病性品種で発現が変化した遺伝子には、これらのカテゴリーに分類される遺伝子はあまり含まれていませんでした (図3)。

以上の結果より、白さび病菌の感染により発現が変化した遺伝子にはサリチル酸に応答するものが含まれる可能性が考えられました。私たちはコマツナにおいてサリチル酸に応答する遺伝子を同定していたため (Miyaji et al. Plant Cell Reports, 2021)、白さび病菌の感染時に発現が変化した遺伝子にサリチル酸応答遺伝子が含まれているか調べました。その結果、抵抗性品種と罹病性品種の両方で、サリチル酸応答遺伝子の約30%が白さび病菌の感染により発現が変化したことが分かりました (図4)。しかし該当した遺伝子は抵抗性品種と罹病性品種で異なっており、抵抗性品種に特異的な遺伝子は抵抗性の発揮に重要な遺伝子である可能性が考えられました。

図3. 白さび病菌の感染により発言が変化した遺伝子の分類白さび病菌感染後48時間(48HAI)または72時間(72HAI)に発言が増加(Up)または減少(Down)した遺伝子を分類した。
図4. 白さび病菌の感染により発現が変化したサリチル酸応答遺伝子の割合サリチル酸応答遺伝子のうち、白さび病菌観戦後48時間(48HAI)または72時間(72HAI)に発現が変化した遺伝子の割合を示した。「Total」はコマツナに存在する全遺伝子のうちサリチル酸応答遺伝子の割合を示す。

本研究により、白さび病菌の感染時において、遺伝子発現が白さび病抵抗性品種と罹病性品種で異なることを明らかにしました。また、サリチル酸応答遺伝子の発現が白さび病菌の感染時に変化することが分かりました。

今後の展開

今回の研究で得られた白さび病抵抗性の発揮に重要な遺伝子候補について、病害応答における機能を調べることで、白さび病抵抗性の分子機構の解明を目指したいと考えています。また、白さび病抵抗性遺伝子を同定し、白さび病抵抗性品種を育成したいと考えています。

用語解説

白さび病

コマツナやハクサイ (Brassica rapa L.) などのアブラナ科野菜の重要病害の一つで、白さび病菌Albugo candidaによって引き起こされる。葉裏、葉柄、茎、花などに白いかさぶたのような病斑を生じるのが特徴。コマツナなどの葉菜類での発病は収穫部位で見られることが多く、商品価値が大きく下がり出荷不能になることが問題となっている。

遺伝子発現

遺伝子は、アデニン (A) 、チミン (T) 、グアニン (G)、シトシン (C) の4種類の塩基で構成されるDNAにコードされている。RNAポリメラーゼがDNAの遺伝子領域を鋳型にmRNAを生成 (転写) することで遺伝子が発現する。タンパク質はmRNAが翻訳されることで生産される。

サリチル酸

植物ホルモンの種類の一つ。免疫応答や老化などのストレス応答や発達プロセスの制御に幅広く関わる。

謝辞

本研究は、以下の支援を受けて行われました。
生研支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業 (JPJ007097)
日本学術振興会 外国人招へい事業 外国人招へい研究者 (長期) (L19543)
日本学術振興会 特別研究員 特別研究員 (DC1) (18J20027)
神戸大学 国際共同研究強化事業B型-国際共同研究育成型-
公益財団法人G-7奨学財団 研究開発助成事業

論文情報

タイトル

Differences in the transcriptional immune response to Albugo candida between white rust resistant and susceptible cultivars in Brassica rapa L.

DOI

10.1038/s41598-023-35205-5

著者

Naomi Miyaji+, Mst. Arjina Akter+, Motoki Shimizu, Hasan Mehraj, Md Asad-Ud Doullah, Elizabeth S. Dennis, Izumu Chuma, Ryo Fujimoto

  • These authors equally contributed to this work

掲載誌

Scientific Reports

研究者

関連プロジェクト

SDGs

  • SDGs2