国立大学法人神戸大学(以下、神戸大学)と株式会社島津製作所(以下、島津製作所)は、ロボットとデジタル技術、AI(人工知能)などを活用した自律型実験システム『Autonomous Lab』プロトタイプの有用性検証を12月10日より開始しました。
本システムのスマートセルインダストリー分野向けプロトタイプを、バイオ実験の自動化を検討する企業や大学などの研究者に向けて、バイオファウンドリー実験室(神戸大学統合研究拠点内)で公開します。
本連携において、神戸大学は、有用物質生産のためのスマートセル構築の一層の効率化に向けた先端バイオ工学研究の推進を、また、島津製作所は、バイオ・製薬・新素材開発などにおける自律型実験システムの社会実装を目指していきます。
研究の背景
神戸大学先端バイオ工学研究センター・蓮沼誠久教授らと島津製作所は2018年度から3年間にわたり「スマートセル」(先端バイオ工学を用いて人工的に遺伝子を変化させた細胞)の研究に産学共同で取り組んできました。従来は大量生産が困難だった物質をスマートセルによって生産可能にすることは、医薬品や食品、新素材、石油化学製品代替素材などの開発や安定供給、環境問題への対策など様々な領域で技術革新をもたらすといわれています。しかし、新たなスマートセルの開発や大量生産に道筋をつける実験デザインは非常に複雑です。そのため、生産工程の最適化には時間がかかっていました。
研究の内容
蓮沼教授らの研究グループと島津製作所は、神戸大学産官学連携本部共同研究・オープンイノベーション推進部門の支援を受け、2021年6月から自律型実験システムの構築に向けて強力に連携し、本システムにて、Design(代謝設計/遺伝子設計)→ Build(宿主構築)→ Test(生産性評価/メタボローム解析)→ Learn(実験結果の解析)という「DBTLサイクル」の効率化の検証に取り組んでいます。具体的な研究テーマは「高機能物質生産に繋がる代謝経路でボトルネックとなっている酵素機能の改善」および「目的生産菌の培養条件の自動最適化」です。分析機器から得られるデータを基に、次の実験条件を策定するAIを活用し、迅速な高生産菌株の構築および培養条件の最適化を図っています。
本産学連携研究グループは、本システムを神戸大学統合研究拠点内バイオファウンドリー実験室(神戸市中央区港島南町)に設置し、バイオ・製薬・新素材開発などの分野への展開や、それらの社会実装を目的とした実証実験を進め、同時に、合成生物学、酵素機能工学、高精度メタボロミクスなどの先端バイオ工学研究を強力に推進していきます。
自律型実験システム(Autonomous Lab)プロトタイプの特長
1.世界初となるロボット対応液体クロマトグラフ
島津製作所は、スカラ型ロボット(水平多関節ロボット)による検体プレートの移動に対応する機構を備えた液体クロマトグラフ(LC)を開発済みです。実験用ロボットの導入によって、従来は手作業工程だったプレートの設置・交換を自動化できます。LC内部の温度に影響を与えないスムーズな移動も可能です。
2.ビジュアルプログラミングによる簡便な実験プロトコルの設計
専用の管理アプリは実験全体の流れを視覚的に表現しており、クラウド経由で手順を指示する際も直感的かつ簡便な操作が可能です。複雑なプログラミング言語の入力は不要です。
3.実験の立案から結果の管理までを統合管理
前述の専用アプリが検体ごとに使用した容器・装置・試薬、分析手法、実験結果などをデータベースで管理するため、高いトレーサビリティを実現します。実験に関わる全データをアプリで解析・閲覧できます。
4.実験結果から新たな実験条件を立案するAI
「Autonomous Lab」は、ベイズ最適化(未知の関数を推定する機械学習の手法)などによって実験結果から次の実験条件を立案するAIと連携した自動実験システムです。研究者の勘や経験に拠らず、効率的に研究を進められます。
自律型実験システム(Autonomous Lab)のコンセプト
島津製作所は未来のラボのビジョンとして「ロボットとAIが自律的に科学的な発見をするプラットフォーム」を掲げ、島津社の基盤技術研究所が中心となって、その実現に向けた自律型実験システムを開発しています。本システムでは、まず研究者がクラウドサービス経由でプロトコル(実験手順)を入力します。次にロボットが実験を実行し、クラウドを介して実験結果を研究者に伝えます。データをAIで解析することで分析を支援したり、計画を自動で設定して実験を自律的に進めたりする未来のラボを目指しています。
*関連情報: 島津製作所プレスリリース 世界初のロボット対応LCおよびLC-MSを含む自律型実験システムの有用性を神戸大学と検証 自動化を検討する研究者向けにプロトタイプを公開