神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野の吉田尚史医学研究員、山下智也准教授、平田健一教授らの研究グループは、健康な日本人の平均的な腸内細菌叢を解明し、年齢やBMIによって腸内細菌間の相互作用が異なることを発見しました。今後、病気のある方の腸内細菌叢を解析する際の比較対象として用いられることで、腸内細菌叢への介入による疾患の治療等、新たな治療法の実現が期待されます。この研究成果は、12月7日に、国際科学誌「Bioscience of Microbiota, Food and Health」に掲載されました。
ポイント
- 年齢及びBMIで9つに層別化した健康な日本人の平均的な腸内細菌叢を解明した。
- 腸内細菌—腸内細菌間の相互作用が、年齢及びBMI毎に異なることが示唆された。
研究の背景
腸内細菌叢はヒトの健康維持ならびに数多くの病気の発症に関与することが知られています。しかし、我が国に住む若年から高齢者までの平均的な腸内細菌叢に関する研究報告は限られており、日本人の菌叢に見られる特徴がどのようなものかについては不明な点が多くありました。
今回、山下らは、株式会社サイキンソー(本社:東京都渋谷区、代表取締役:沢井悠、以下、サイキンソー)と共同して、同社のMykinso(マイキンソー。腸内細菌叢の解析並びにその解釈をレポートしてくれるサービスで、これまで5万人以上が参加している)サービスを利用し、日本有数の腸内細菌叢データを用いて、日本人の平均的な腸内細菌叢を明らかにしました。また、腸内細菌—腸内細菌間の共存関係が年齢やBMIによって異なるかどうかについて検証しました。
研究の内容
2017年1月から2020年4月までの間に、Mykinsoに参加した10,063人のうち、質問票に基づいて6,101人の健常者を対象に腸内細菌叢を解析しました。まず対象者を年齢別に3群(若年(20≦年齢<40)、中高年(40≦年齢<65)、高齢者(65≦年齢))に分けた上で、さらにBMI毎に3群(やせ BMI<18.5 kg/m2、正常 18.5 kg/m2≦BMI<25 kg/m2、肥満 25 kg/m2≦BMI)に分けて解析を行いました。その結果、年齢とBMIで計9群に分けた健常者の腸内細菌叢の多様性や菌叢構造はそれぞれ異なっており、各ライフステージや代謝状態に応じた腸内細菌叢が存在することが分かりました。また、腸内細菌の存在割合が9群間で異なっており、腸内細菌—腸内細菌間の相互作用が、年齢及びBMI毎に異なることが分かりました。
今後の展開
今回の研究で、健康日本人の平均的な腸内細菌叢を明らかにすることができました。今後、「若年・中高年における肥満」や「高齢者におけるやせ」と腸内細菌の関連性について解析を進めることで、生活習慣病やフレイルなど実臨床でも問題となっている病態の解明に繋がる研究への発展が期待できます。また、腸内細菌—腸内細菌間の相互作用の一端が明らかになったことは、腸内細菌叢への介入による疾患の治療等、新たな治療法の実現に向けた大きな一歩と考えられます。
用語解説
- BMI; Body mass index
- 体重(kg)を身長(m)で2回割ることで算出できる体格の指数で、肥満度を示す指標として国際的に使用されています。18.5未満でやせ、25以上で肥満と判断されます。
謝辞
本研究にご参加いただいたみなさまとサイキンソーの研究者のみなさまに感謝いたします。
論文情報
- タイトル
- “Average gut flora in healthy Japanese subjects stratified by age and body mass index”
- DOI
- 10.12938/bmfh.2021-056
- 著者
- 吉田尚史、渡辺諭史、山﨑広之、佐久間啓、竹田綾、山下智也、平田健一
- 掲載誌
- Bioscience of Microbiota, Food and Health