アジアの都市調査から見えてきたこと

都市とは何か。人口が集中する地域にはどんな地理的条件や社会的要因があり、どのように都市化は進むのだろう。そして、多様化する人びとの暮らしやニーズにこたえる都市環境をつくっていくために、これから何が必要だろうか──。

内山愉太 助教

神戸大学国際人間科学部環境共生学科の内山愉太助教は、人や人工物、生物や無機物が複雑に入り組む現代都市の構造を「生態系」に見立て、まるで生きているような変化の動態を都市の「ふるまい」と捉えて、解明を試みる。主に研究対象とする地域は、日本を含むモンスーンアジア (季節風の影響を受ける東アジア・東南アジア・南アジア)。インドネシアをはじめ、各国の都市で現地調査やGIS (Geographic Information System=地理情報システム) を使ったデータ分析を行ってきた。

「アジアの都市はヨーロッパや北米と比べて農村部との混在度が高い、つまり都市と農村の距離が近く、明確に分かれていないのが特徴です。19世紀後半のイギリスから始まった近代都市計画の観点では無秩序だと批判的に見られますが、アジアでは古くから稲作が普及したために農村人口がもともと多かった。都市圏域が拡大する過程でこれを取り込み、複雑な景観にならざるを得なかったという事情があります。このように、都市の成立過程は国や地域によって異なり、それぞれに歴史的経緯や文化的背景がある。そこをきちんと見ていく必要があると思っています」

たとえば、インドネシアの首都ジャカルタ。世界有数の人口過密都市であり、古く狭い住宅がぎっしりとすき間なく建ち並ぶスラムも多い。一見すれば無秩序そのものだ。ところが、建物や生活空間を実際に計測してみると、通路や共同水場などの公共的領域はしっかり確保され、住民たちがローカルルールによって管理している所も少なくないという。

先述したように農村部に近く、農地や森林、河川などの自然が多く残るアジアの都市景観は、近年の都市研究や政策の中で再評価されている。日本では数年前、都市部の農地を積極的に保全・活用する関連法の施行や改正が行われた。

「以前は都市部の農地や自然といえば、いずれ住宅に転用され市街化する予備地のような位置付けでしたが、現在では住民の快適性、温熱管理、生物多様性など、さまざまな面から都市になくてはならないものと見直されています。市民農園として活用すれば人同士や人とその他の生物等との交流拠点になり、規模の大きい緑地なら空気の浄化や騒音をやわらげる効果もある。水田や山林には貯水機能があり、災害への備えにもなります」

こうした自然の恩恵、いわば地域共有の社会的資源を住民が公平・公正に享受できるよう都市計画やマネジメントの手法を考えていくことも、内山助教の重要な研究テーマだ。

地域も学問分野も横断する学際的視点

調査・分析などの理論的研究だけでなく、学生とともに地域社会に入り、都市と農村の関係を実践的に学ぶ場もつくっている。拠点は兵庫県の丹波篠山市。大学のある神戸市灘区から50㎞ほど離れた自然豊かな地方都市の古民家を拠点として活用する。

「壁や床を張り直す改修作業を学生たちと手伝い、住宅の材料や構造を学ぶことから始めました。神戸だけでなく京都や大阪にも近いので、複数地点居住やテレワークなど都市と農村地域を横断し、行き来する日常生活や活動を実践し、発信していきたい。今はまだまだ地元の方々から学ばせてもらっている段階ですが、将来的には地域で活動するさまざまな関係者と連携し、住民に開かれた場所にしていけたらと考えています」

拠点となっている兵庫県丹波篠山市の古民家地域の大工さん、左官屋さん、建具屋さんから指導を受けながら、学生も古民家の改修作業にかかっている。

都市の生態系を深く理解し、その変化や機能をマネジメントすること。さまざまな属性や生活スタイルを持つ人びとが共存する持続可能な都市環境を模索・提案すること。その成果をリアルな地域活動の中で実践していくこと──内山助教の研究は「都市地域環境学」と「地理情報科学」という異なる学問分野をまたぎ、双方の手法を統合的に用いるのが特徴だ。

こうした学際的研究の視点は、「住み続けられるまちづくりを」が目標の一つであるSDGsの見方にも表れる。

「SDGsの17ある目標のうち、『私はこの番号に貢献します』という言い方がよくありますが、環境・経済・社会という異なる領域に同時的にアプローチすることが、問題解決には重要なのではないかと思います。それぞれの人が個々のテーマだけに取り組むのではなく、複数の目標に関わって活動することで、1+1が2以上の効果になる。環境にやさしく、ローカルな経済循環に関わり、社会的包摂性もあるような技術や方法を組み合わせて空間的に体現することを、建築でも都市計画でも農業でも、いろんな分野で模索していくのが理想だと思います」

研究において専門性を深めることはもちろん重要だが、課題が複雑化し、互いに連関し合うグローバル化の時代には、多分野の知見と手法を取り入れて統合する学際性がこれまで以上に求められる。国際人間科学部は、複眼的視点と柔軟な姿勢で境界線を越えてゆく「協働型グローバル人材」の育成を掲げている。内山助教の視点と手法はまさに学部が目指す教育の体現といえるかもしれない。

内山愉太助教 略歴

2008年3月千葉大学 工学部 デザイン工学科 建築系 卒業
2010年3月千葉大学大学院 工学研究科 建築・都市科学専攻 修士課程 修了
2013年3月千葉大学大学院 工学研究科 建築・都市科学専攻 博士後期課程 修了
2013年4月人間文化研究機構 総合地球環境学研究所 プロジェクト研究員
2015年4月金沢大学 人間社会研究域 人間科学系 博士研究員
2016年10月東北大学大学院 環境科学研究科 産学連携研究員
2017年9月東北大学大学院 環境科学研究科 助教 
2019年4月名古屋大学大学院 環境学研究科 特任講師
2021年10月神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 助教 (現在に至る)

研究者

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