初めて挑んだウインドサーフィンの国際大会で、準優勝に輝いた。国際人間科学部4年の里村香奈さんは、今年7月、ハンガリー・バラトン湖で開催されたテクノクラス世界選手権19歳以上の部で日本チーム女子最高位となり、この1年間休学、部活動に専念し挑んだ執念が大きく結実した。

逆風の序盤、後半の猛追実る

里村香奈さん

世界選手権は、使い慣れない道具の扱いに苦しみ、精神的にもアウェー感を感じる大会になった。昨年9月のジャパンカップで日本代表の座をつかみ取り、臨んだ大会だった。しかし、序盤の2日間は、暫定順位が13―15位と低迷。日本代表選手4人の中でも最後尾を走る屈辱を味わった。

流れが変わったのは、2日目の終了後だった。留学先のスイスから神戸大学の同じ体育会に所属した同級生が駆け付け再会、それがいい契機になった。合わせる顔がないと思っていた友人から、「まだ、終わったわけではないよ」と優しく声を掛けられた。目が覚めた。「何で自分はウインドサーフィンを続けてきたのだろう」。自問自答する。国際大会といえども、日本人選手に負ける訳にはいかない。再び闘志がわいてきた。

レースは5日間で15レースを競技し、そのポイントで順位を争う。風が強くなった3日目以降は、徐々に順位を上げた。会場のバラトン湖は2日目までは風が弱く、セール(帆)も国内で乗るボードよりも大きめだったため、うまく風をつかみ切れなかった。同じレースに出場する仲間から「いつもと同じだよ」と思いもよらないアドバイスを受け、「気持ちが明るくなった」。後半は、がむしゃらにレースに臨んだ。終わってみれば、チェコの選手に続く準優勝だった。

「出場した他の日本選手には負けられない。まずは、その目標を達成できて、ほっとしている。準優勝は本当にうれしい。ただ、海外の若い選手は、半分プロのような子もいて、レベルの差も肌で感じることもできた」と、初の国際大会を振り返り、日に焼けた顔に笑みを浮かばせた。

ハンガリーでのテクノクラス世界選手権で準優勝し表彰される里村さん(左端)(里村さん提供) 

目標は「日本一」 大学2年で入部

里村さんは、広島県呉市出身。子供の頃から大のスポーツ好きで、多くのスポーツに慣れ親しんだ。水泳、タグラグビー、陸上、器械体操、ドッジボール、サッカー。バスケットボールは、幼稚園から高校生まで続け、大学でも体を動かす部活動に入ろうと希望に胸を膨らませた。

しかし、大学に入学した2020年は、コロナ禍真っ只中。1年目はリモート授業が中心だった。大学に通えず、キャンパスの地を踏んだのは、1年生秋になってからだった。

ウインドサーフィンという競技は、国内では、高校生以下にはまだまだマイナーな競技。大学生から始める競技者が9割を超えるといい、里村さんも例外ではなかった。大学に通い始めて競技の存在を知り、未知の競技の門を叩いた。

その時の思いは、「スタートが同じだったら、私も日本一になれる。なってやろう」

部活動の公式練習は、土・日曜日の終日、西宮市の甲子園浜で行う。神戸大学のウインドサーフィン部の30人に加え、大阪大、関西学院大、甲南大のライバルとも、腕を競い合う。体育会といえども、専任のコーチがいるわけではない。代々、先輩から乗り方を教わり、それをまた後輩につないでいく。他大学のライバルの選手から教わることも多い。技術の多くは、レースで経験したことを自分の体に覚え込ませ、4年間でここまで成長するに至った。2023年11月のインカレ(全日本学生ボードセーリング選手権大会)で初めて6位入賞を果たし、神戸大学の学生表彰にも輝いた。関西の年間ランキングでトップの座にも就いた。

1年休学してまで。競技への執念

2年生で入部した里村さんの同期は1年生。2023年6月頃に「ウインドサーフィンを3年間で終えるのは、中途半端。同期の皆と同じように、4年間やりたい」との思いが強くなった。4年生になり就職のことも頭をよぎったが、まだまだできることがある。4年やれば、もっと上を目指せる。親にも相談し、2023年10月から1年間、休学を決心した。それからは、ウインドサーフィンに打ち込んだ。公式戦があれば、自ら積極的にエントリーし、関東から九州まで転戦した。全国のライバルと競うことで、めきめき実力を上げた。

7月の世界選手権は、当初から目標にしていたわけではなかったが、出場するからには、国内のライバルの後塵を拝すわけにはいかない。結果的には、自分へのいいご褒美となった。

休学してまで続けたウインドサーフィン。何がそこまで、彼女を惹きつけたのか。

浜名湖MIDカップで1位フィニッシュする里村さん(17―23)(里村さん提供) 

「ウインドサーフィンの魅力は、レースごとに同じ環境ではなく、風の強さや波のうねりも違う。毎回毎回、毎秒毎秒、環境が変わり、正解が見つからないのが、大きな魅力です。また、大学で始められるスポーツで、選手皆のスタートが一緒なので、十分に競い合える。やればやるほど、やれなかったことができるようになり、努力が報われるのが楽しい」

一つの国際大会が終わっても、ウインドサーフィンの季節はまだ終わらない。秋にはピークを迎え、公式戦の日々が続く。国民スポーツ大会に、世界選手権代表選考を兼ねたジャパンカップ、全日本選手権の予選・本選と大会は目白押し。昨年初入賞した11月のインカレを集大成の大会と位置づけ、初優勝に照準を合わせる。来年2月のインカレ団体戦まで、神戸大学ウインドサーフィン部員としての競技生活は、まだまだ続く。

略歴

さとむら・かな 2001年、広島県呉市出身。2020年、神戸大学国際人間科学部子ども教育学科入学、2年生から体育会ウインドサーフィン部へ。社会人になっても、海が近いところに赴任したら、「ウインドサーフィンをやりたい」。根っからのアウトドア派。神戸市在住。

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