神⼾⼤学⼤学院⼯学研究科の⽥中勉准教授、⽚野皓敦⼤学院⽣らと、神⼾⼤学⼤学院科学技術イノベーション研究科の野⽥修平特命准教授(JSTさきがけ専任研究者)の研究グループは、代謝改変した⼤腸菌を⽤いて、バイオマスからPET代替原料となる100%バイオ由来2,5-PDCAを⾼効率に⽣産することに成功しました。今後、⽯油由来に依存しない新しい⾼機能性プラスチック原料の実⽤化が期待されます。この研究成果は、2025年8⽉25⽇に、『Metabolic Engineering』に掲載されました。

ポイント
- 先に窒素を組み込むという独⾃の代謝デザインで副⽣成物の問題を解決し、⼤腸菌を⽤いた⾼効率
な2,5-PDCA の⽣産に成功。 - バイオリアクターで 10.6 g/L の2,5-PDCA を⽣産し、100%バイオ由来のPET 代替原料を取得。
- ⽯油に頼らない持続可能なプラスチック開発につながり、環境にやさしいペットボトルや⽇⽤品、
さらには⾃動⾞・建築・電⼦材料にも応⽤可能。
研究の背景
飲料ボトルや繊維に広く利⽤されるPET(ポリエチレンテレフタレート)は、⽯油由来のテレフタル酸を原料としており、CO₂排出や廃棄物処理の問題につながっています。そのため、⽯油に頼らない新しい原料の開発が世界的に求められています。
研究チームが注⽬した 2,5-ピリジンジカルボン酸(2,5-PDCA) は、窒素を含む新しいタイプの分⼦で、テレフタル酸の代替となる可能性があります。これを⽤いれば、従来のPET と同等かそれ以上の性能を持つプラスチックをバイオマス由来の資源から⽣み出すことができます。しかし、従来の化学合成法では効率が低く、副⽣成物が多いため、⼤量⽣産には課題が残っていました。
研究の内容
本研究では、これまでの課題であった副⽣成物の発⽣を解決するため、「先に窒素を酵素反応で組み込む」という独⾃の代謝デザインを考案しました。さらに、複数の代謝モジュールを組み合わせる新しい⼿法で⼤腸菌を改変し、⽣産効率を⼤幅に向上させました。
その結果、バイオリアクターを⽤いた培養で10.6 g/L という世界最⾼⽔準の⽣産量を実現しました(図1)。培養液から分離・精製を⾏うことで、100%バイオ由来の2,5-PDCA の取得にも成功しました。この物質は、PET の代替原料や⾼機能プラスチック原料として活⽤でき、⽯油に依存しない持続可能な材料開発に直結する成果です。

今後の展開
本研究によりバイオマスを原料とした⾼機能プラスチックを循環的に⽣産できるようになり、⽯油資源への依存を減らすと同時にCO₂排出の削減にもつながります。さらに、⾃動⾞部品や建築資材、電⼦材料といった産業分野だけでなく、将来的には環境にやさしいペットボトルや⾷品包装、⽇⽤品など、⾝近な製品にも広く利⽤されることが期待されます。
謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究事業さきがけ「持続可能な材料設計に向けた確実な結合とやさしい分解」研究領域(研究総括:岩⽥忠久)における研究課題「剛直成分含有ポリマーの完全バイオ循環空間デザイン」(研究者:野⽥修平)の⼀環として⾏われ、JSPS 科研費(課題番号:25K00054, 23H04565, 25H01701, 25K01594, 25H00819)の⽀援により実施されました。
論文情報
タイトル
“Biosynthesis of 2,5-pyridinedicarboxylate from glucose via p-aminobenzoic acid in Escherichia coli”
DOI
10.1021/acssuschemeng.3c07662
著者
Akinobu Katano, Ayana Mori, Daisuke Nonaka, Yutaro Mori, Shuhei Noda*, Tsutomu Tanaka*
*責任著者
掲載誌
Metabolic Engineering