神戸大学大学院人間発達環境学研究科の佐賀達矢助教は、兵庫県立明石北高校の中谷絢子さんらとともに、豆苗を用いた実験により、肥料を与えた場合にアブラムシの個体数が予想に反して減少すること、また2種の競争関係にあるアブラムシが同じ植物上で共存する場合、資源が豊富になっても採餌戦略の違いにより、幅広い植物種を餌にする種(ジェネラリスト型)が特定の植物のみを餌にする種(スペシャリスト型)を完全に排除することを明らかにしました。今後、農業における総合的な昆虫管理の重要性への理解が深まることが期待されます。

この研究成果は、12月17日に国際学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。なお本研究は、神戸大学と県内の大学で行う中・高校生研究支援プログラム(国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の事業、神戸大学ROOTプログラム※1)を通じて行われました。高校生が第一線の研究に参加して学術的な成果を挙げ、次世代研究者教育の重要性を示しています。

ポイント

  • 肥料をあげると植物がよく育ち、その分その植物を摂食する昆虫も増えるという予想に反して、豆苗での実験ではアブラムシは逆に減少することを発見。
  • 餌となる植物に肥料を与えた場合、与えなかった場合、いずれにおいても、ジェネラリスト型とスペシャリスト型を同じ餌の上で飼育すると、スペシャリスト型が競争に負けて全滅した。
  • ジェネラリスト型は宿主植物を枯死させるが、スペシャリスト型(施肥条件下)は植物を生存させたまま栄養を得ており、スペシャリスト型の方が宿主への影響が小さい可能性が示された。

研究の背景

農業においては収量向上のために肥料が与えられますが、植物が大きく育つと植食性昆虫も増え、作物への被害が増大するのではないかという懸念があります。また複数の昆虫種が同じ植物上で競争する場合、資源が豊富になれば競争が緩和され、複数種が共存できるとも考えられてきました。しかし、肥料を与えることが植食性昆虫の競争関係に与える影響は十分に理解されてきませんでした。

研究の内容

佐賀達矢助教及びその指導を受けた高校生の中谷絢子さんらは、豆苗(エンドウマメの若菜)を用いて2種のアブラムシ(ソラマメヒゲナガアブラムシMegoura crassicaudaとマメアブラムシAphis craccivora)の個体数変化を30日間追跡しました。実験では、肥料あり/なしの条件下で、各種を単独または混合で飼育しました。その結果、以下のことが明らかになりました。

1.a:ソラマメヒゲナガアブラムシ、b:マメアブラムシ、c:豆苗の上に2種を単独または混合で載せ、個体数の変化を観察する実験の様子
(1) 肥料がアブラムシの増殖を抑制

両種の単独飼育時の最大個体数の平均は、ソラマメヒゲナガアブラムシ:肥料なし77個体/株、肥料あり51個体/株、マメアブラムシ:肥料なし187個体/株、肥料あり142個体/株でした。肥料によって植物の防御物質が増加するなど、アブラムシにとって餌の質が低下した可能性が考えられました。

(2) 資源が豊富でも競争排除は変わらず

肥料の有無に関わらず、2種を一緒に飼育すると、餌の範囲が広いジェネラリスト型のマメアブラムシが特定の餌範囲に限られるスペシャリスト型のソラマメヒゲナガアブラムシを25日目までに完全排除しました。資源量よりも種の特性が競争の勝敗を決定したと考えられました。

(3) 植物への影響も種によって異なる

ジェネラリスト型のマメアブラムシが寄生した植物は肥料の有無に関わらず早期枯死したのに対し、スペシャリスト型のソラマメヒゲナガアブラムシが寄生した植物(肥料あり)は30日間すべて生存しました。これは、スペシャリスト型は宿主植物に軽微なダメージを与えながら栄養を得ているのに対し、ジェネラリスト型はより多くの師管液を吸汁し、植物に深刻なダメージを与えている可能性が考えられました。

今後の展開

この研究から、肥料を与えて作物が大きく育つほどその作物を食べる植食性昆虫が増えるという予測がいつも正しいわけではない可能性が示されました。肥料管理は、予想外の農業害虫対策になるかもしれません。ただし、ある種類の植食性昆虫が減っても、別の強い種類が増えれば、作物の被害はかえって大きくなる可能性もあることには注意が必要です。そのため、農業害虫対策には「どの種類の昆虫がいるか」を見極めた総合的な管理が重要だということがわかりました。また、エサが豊富でもいろいろな種類が共存できるわけではないという発見は、気候変動などで環境が変わったとき、どの昆虫が増えるかを予測するのに役立ちます。

注釈

※1. ROOTプログラム

科学の分野で強い好奇心・探求心を持った高校生等が、将来国際的に活躍できる科学者や技術者を目指して大きく成長してゆくための教育プログラム。科学の幅広い分野の講義や実習、大学の研究者等の指導のもとで、自分なりの「問い」を立て、研究に挑戦する科学力を高める取り組みのほか、国際コミュニケーション力を身につけることを目的とした取り組みなどが含まれる。神戸大学を実施機関、兵庫県立大学、関西学院大学、甲南大学、神戸薬科大学を共同実施機関として運営している。

ROOTプログラムウェブサイト

謝辞

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)グローバルサイエンスキャンパスおよび次世代科学技術チャレンジプログラム(STELLA)の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル

Fertilization reduces aphid population growth but does not alter competitive exclusion between specialist and generalist species

DOI

10.1371/journal.pone.0328189

著者

中谷絢子、新堂史佳、佐賀達矢

掲載誌

PLOS ONE

報道問い合わせ先

神戸大学総務部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)