神戸大学大学院農学研究科の研究グループは、ため池などに生息する小型の水生昆虫が、捕食者であるナマズに襲われても、口の中で抵抗することで生きたまま吐き出され、生還できることを明らかにしました。これまで、魚にとって無毒で口に入る大きさの小さな昆虫は「容易に捕食される」と考えられてきましたが、本研究はこの定説を覆すものです。

本研究成果は、2026年3月12日午前10時(英国時間)にSpringer Natureが発行する学術誌『Scientific Reports』に論文が掲載されました。

図:水生昆虫と捕食者であるナマズ © Shinji Sugiura, Scientific Reports 2026 (https://doi.org/10.1038/s41598-026-39251-7) (CC BY-NC-ND)

ポイント

  • ナマズは口を開けて水とともに小さな獲物を吸い込み、最終的に飲み込む捕食様式をもつ。
  • 水生昆虫はナマズに口内へ取り込まれた後、小型種ほど生きたまま吐き出される頻度が高い。
  • 小型の水生昆虫は脚を使ってナマズの口内で抵抗し、飲み込まれるのを防いでいる。

研究の背景

一般に、魚は口に入る獲物であれば容易に捕食できると考えられています。一方で、小型の獲物は栄養価が低いため、大型の獲物が豊富な場合には積極的に狙われにくく、また体が小さいため発見されにくいという特徴があります。しかし、小型の獲物がいったん魚に捕らえられた後、どのように身を護っているのかについては、これまでほとんど注目されてきませんでした。

本研究グループはこれまでに、捕食者に食べられた後でも体内から脱出できる昆虫の存在を明らかにし、2020年に報告しています(カエルに食べられてもお尻の穴から生きて脱出する昆虫を発見)。水田に生息する水生昆虫マメガムシの成虫は、トノサマガエルなどに捕食されても消化管を通過し、お尻の穴(総排出腔)から生きたまま脱出することが知られています。しかし、マメガムシが魚に捕食された場合にも同様に生還できるのか、また、日本に生息する水生昆虫が魚に対してどのような防衛戦略をもつのかについては、ほとんど研究が行われていませんでした。

研究の内容

本研究では、実験室内の水槽で、ナマズ※1に対し、ミズスマシ科2種(オオミズスマシ、ミズスマシ)※2、ゲンゴロウ科3種(シマゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、ケシゲンゴロウ)※3、ガムシ科3種(コガムシ、ヒメガムシ、マメガムシ)※4の成虫をそれぞれ与え、捕食後の行動を観察しました(図1)。

水槽内にナマズ1個体と昆虫1個体を入れて観察を行いました。昆虫は各種20個体、ナマズは17個体を用いました。昆虫は各個体1回のみ実験に使用し、ナマズは同一個体を複数回用いました。その結果、与えた昆虫のすべてが口内に取り込まれ、そのうち49%が消化され、51%は生きたまま口から吐き出されました。消化された割合(捕食成功率)は昆虫種によって20〜90%と大きく異なり、ミズスマシ科およびゲンゴロウ科では、ガムシ科よりも低い傾向が見られました(図1)。

ミズスマシ科やゲンゴロウ科の成虫は化学防御物質を分泌することが知られており、こうした分泌腺をもたないガムシ科よりもナマズに吐き出されやすいと考えられます。しかし、いずれの科においても、小型種(ミズスマシ、ケシゲンゴロウ、マメガムシ)ほど、生きたまま吐き出される割合が高いことが明らかになりました(図1)。獲物を噛み砕く歯をもたないナマズにとって、小型の獲物は口内で制御しにくく、飲み込みにくかった可能性があります。

特に最小種であるマメガムシでは、20個体中6個体(30%)が消化され、14個体(70%)が生きたまま吐き出されました(図2)。吐き出されるまでの時間は最短で1秒未満、最長で76分、中央値は3.5秒でした。さらに、吐き出される仕組みを調べるため、中脚および後脚を切断したマメガムシをナマズに与えたところ、20個体中17個体(85%)が消化され、吐き出されたのは3個体(15%)にとどまりました(図1)。マメガムシは通常、中脚や後脚を巧みに使って泳ぎますが、ナマズに捕食されると口の中の内壁にしがみついたり、飲み込まれそうになっても再び口内に戻ったりすることで抵抗し、最終的に吐き出されたと考えられます。一方、脚を切除した個体ではこうした抵抗が困難となり、消化されやすくなりました。なお、消化されたマメガムシはいずれも26時間から166時間後に糞として死骸が排出され、生きたまま総排出腔から脱出した個体は確認されませんでした。つまり、マメガムシの「総排出腔からの脱出」はカエル類に特化した戦略であり、ナマズに対しては「口内で抵抗して吐き出させる」という異なる防衛戦略を用いていることが示されました。

図1. ナマズによる水生昆虫8種の捕食成功率 © Shinji Sugiura, Scientific Reports 2026 (https://doi.org/10.1038/s41598-026-39251-7) (CC BY-NC-ND)
図2. ナマズに吐き出されるマメガムシ © Shinji Sugiura, Scientific Reports 2026 (https://doi.org/10.1038/s41598-026-39251-7) (CC BY-NC-ND)

今後の展開

水生昆虫にとって、捕食者である魚の存在は分布や個体数を左右する重要な要因です。魚が生息する池や湖では、魚のいない水域に比べて大型の水生昆虫が少なく、小型種が多いことが知られています。また、外来魚の導入が大型の水生昆虫を減らすものの、小型種への影響は少ないことも報告されています。これまで、その理由として「小型種は見つかりにくい」「栄養価が低く好まれない」といった説明がなされてきました。

本研究は、小型の水生昆虫が、たとえ魚に襲われても口内で抵抗することで飲み込まれず、生きたまま吐き出される可能性が高いことを示しました。今後、他の水生昆虫や魚にも対象を広げることで、池や湖への魚の導入が水生昆虫相に及ぼす影響を、より正確に予測できるようになると期待されます。

用語解説

※1 ナマズ

ため池や河川などに生息し、産卵期には水路を通じて水田にも現れる。本実験に使用した体長は14〜25cm。

※2 ミズスマシ科

ため池や湖などに生息し、成虫は水面を素早く泳ぎ、小昆虫を捕食する。天敵に襲われそうになると水中に潜水する。外部刺激により化学防御物質を分泌する。実験に使用した体長はオオミズスマシの10〜11mm、ミズスマシで6〜8mm。

※3 ゲンゴロウ科

ため池や水田などに生息し、成虫は水中で素早く泳ぎ、小動物を捕食する。外部刺激により化学防御物質を分泌する。実験に使用した体長はシマゲンゴロウで13〜16mm、コシマゲンゴロウで10〜12mm、ケシゲンゴロウで4〜5mm。

※4 ガムシ科

ため池や水田などに生息し、成虫は水中で素早く泳ぎ、水草などを摂食する。ミズスマシ類やゲンゴロウ類のような化学防御物質は分泌しない。実験に使用した体長はコガムシで16〜19mm、ヒメガムシで10〜13mm、マメガムシで4〜5mm。

謝辞

本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金基盤C (JP19K06073)および基盤B (JP24K02099) の支援を受けて行われました。

論文情報

タイトル

Small prey fight back: post-capture defences shape prey–predator size relationships

DOI

10.1038/s41598-026-39251-7

著者

Shinji Sugiura(杉浦真治:神戸大学大学院農学研究科 教授)

掲載誌

Scientific Reports

報道問い合わせ先

神戸大学総務部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者

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