
Amazon(アマゾン)や楽天のサービスで買い物をし、SNSで情報を共有する。そんな売買や交流の「場」はプラットフォームと呼ばれ、今や人々の生活になくてはならないものとなっている。一方で近年、巨大企業による寡占、偽広告による詐欺被害など、プラットフォームのあり方をめぐるさまざまな課題も指摘されている。プラットフォーム・ビジネスを研究する経営学研究科の善如悠介教授に、このビジネスが急成長してきた背景や現状、今後の課題などを聞いた。
プラットフォーム・ビジネスの特徴はネットワーク効果
そもそもプラットフォーム・ビジネスとは何を指すのでしょうか。
善如教授:
プラットフォームの捉え方は幅広く、定義は確立していませんが、私は「参加する人をつなぐ場」と考えています。Amazonなどのネットショッピングのサービスは、売り手と買い手をつなぎ、売買を仲介しています。X(旧ツイッター)やフェイスブックといったSNSは人々が交流する場であり、広告の掲載側と見る側をつなぐ役割もあります。スマホでさまざまなアプリをインストールできるアプリストアも、開発者と利用者を結ぶプラットフォームです。
プラットフォームの大きな特徴はネットワーク効果です。そこに人が集まると、プラットフォームの価値が上がり、さらに人が集まって価値が増幅していきます。近世の「楽市楽座」やバザールも、人やモノが集まるプラットフォームといえますが、現代はインターネットの発達で地理的な制約がなくなり、ネットワークは国を越えて広がっていきます。
従来のパイプライン型のサプライチェーンでは、メーカーが製造したものを卸売業者が仲介し、スーパーなどの小売店が販売するという流れで、流通業者が地域をつなぐ役割を果たします。一方、プラットフォーム・ビジネスは、「場」を提供して人々の交流を生み出し、さまざまな形の仲介を行って手数料で収益を得るというものです。
このようなビジネスはいつごろから注目され始めたのでしょうか。
善如教授:
プラットフォーム・ビジネスに関する論文が国際的学術誌に初めて発表されたのは、2003年とされています。当時はフランスのトゥールーズ経済学院(Toulouse School of Economics)がこの分野をリードし、2014年にノーベル経済学賞を受賞したジャン・ティロール氏も論文の著者の1人でした。
2000年代初めの日本ではまだ、この分野の研究は見当たりませんでした。ただ、すでに楽天グループはオンラインショッピングの事業を始めていましたし、若い人がネット上で服を買うような動きも出始めていました。
アメリカ発祥のAmazonは1990年代、仕入れた本をネット上で売る「オンライン書店」としてスタートしましたが、その後、さまざまな商品の売り手を呼び込んで世界的プラットフォームに成長していった経緯があります。
新規参入の壁は「コールドスタート問題」
成功例もあれば、失敗例もあると思います。その違いはどこにありますか。
善如教授:
プラットフォーム・ビジネスで、新規参入者が最初に直面する課題が「コールドスタート問題」です。ネットワーク効果を最大にするためには、まずプラットフォームに人を集める必要があります。商品の売買の場合、買い手が集まらなければ、売り手も集まってこないし、その逆もあります。いずれにせよ、人が集まらない「コールドスタート」の状態が続けば、負のループに陥っていきます。
その最初の壁を乗り越える戦略の一つが、「まずは無料で集める」ということです。手数料を取らないようにすれば、商品を売りたい側は「一応登録だけでもしておこう」と考えます。そして、売り手が増えれば、買い手も集まります。しかし、開始当初、プラットフォーム側は収益を得られないので、ある程度体力のある企業でないと難しいといえます。
もう一つの戦略が、二刀流プラットフォーム(ハイブリッドプラットフォーム)といわれる形です。「場」の運営だけでなく、販売する商品も自社で開発する手法で、これは任天堂の例があります。スーパーマリオなどのゲームソフトを自社のプラットフォームで販売し、その人気が高まれば、ユーザーが集まってきます。すると、カプコンやコナミなどゲーム開発を手掛ける他社も参入してくれるようになり、ネットワーク効果がさらに高まっていきます。
「プラットフォーム・デザイン」を研究されていますが、この「デザイン」は何を意味するのでしょうか?
善如教授:
一言でいえば、「プラットフォームという場をどのように運営するか」ということです。つまり、プラットフォームのルール作りです。「プラットフォーム・ガバナンス」という言い方もあります。
例えば、検索システムでどのようなアルゴリズムを採用するか、モノの売買に際して配送のルールをどうするか、といったこともデザインの一部です。さらに、プラットフォーム上で出品された商品が偽物だったり、商品で購入者がけがをしたりした場合、賠償責任をどうするか、といった点も重要です。
商品に関する責任は、基本的に製造業者が負いますが、プラットフォーム運営側の判断として、補償のルールを拡大することで安心感を提供し、利用者を増やすという戦略もあります。一方、すでに多くの利用者がいる場合、そこまでのルール変更はしないという戦略もあり得ます。ただ、今は各国で消費者保護の動きが強まっており、運営者は「販売する場を提供しただけ」という姿勢では済まなくなっています。プラットフォーム・ビジネスの拡大によって、運営に関する法制度も見直す時期にきています。
デジタル広告による被害に踏み込んだ対策を

プラットフォームにおけるAI(人工知能)の活用に課題はありませんか?
善如教授:
プラットフォーム上の偽広告などは重要な問題ですが、それがAI固有の課題かというと、そうではありません。AIの登場で簡単に作れるようになりましたが、偽広告は昔からありました。つまり、悪い人が昔より便利な方法を手に入れただけといえます。
本質的な問題は、デジタル広告分野の規制が整備されていないことです。著名人のなりすまし広告による詐欺被害などでかなりの実害が出ていますし、全国の消費生活センターに寄せられる相談でも、デジタル広告が発端になっている被害が多数あります。
高齢者だけでなく、デジタルリテラシーが高いはずの若者にも被害が広がっています。消費者教育だけで対応できる問題ではなく、もう一段上の対策を考える必要があります。
プラットフォームに対する法規制の現状は?
善如教授:
日本では2021年、「デジタルプラットフォーム取引透明化法」(以下、透明化法)が施行されました。これは、一定規模以上の事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し、情報の開示、手続きや体制の整備などを求めるものです。
現在は、オンラインモール(Amazon、楽天、LINEヤフーを指定)と、デジタル広告(Google、Meta、LINEヤフー、TikTokを指定)の2分野が対象になっています。
オンラインモールに関しては、例えば、プラットフォーム事業者がサイト上で自社の商品を優先する「自己優遇」という戦略がありますが、それ自体は禁止されておらず、自己優遇を行っていることを利用者に示さなければならない、といった内容です。
透明化法は禁止や義務付けではなく、「共同規制」という枠組みを採用しています。事業者から報告書を出してもらい、経済産業省と専門家によるモニタリング会合で課題を議論して、フィードバックを受けた事業者側が対応を判断する仕組みです。私も、モニタリング会合の委員を務めています。
当初はオンラインモール、デジタル広告、アプリストアの3分野が対象でしたが、アプリストアに関しては、昨年12月施行の「スマホソフトウェア競争促進法」(スマホ新法)の対象に移行しました。この法律は、巨大企業が自社のアプリストアしか利用できないようにしているといった寡占状態を変え、公正な競争を促すもので、現在、AppleとGoogleが対象になっています。昨年、ニュースでもよく取り上げられたので、関心を持った人も多いのではないでしょうか。
新法では、定められた禁止事項や義務に違反している可能性が高い場合、公正取引委員会が規制をかけることができ、一歩踏み込んだ内容となっています。今後は、公正取引委員会の対応を注視していくことが大切だと思います。
海外でも、欧州連合(EU)がプラットフォーム事業者の禁止事項などを定めるデジタル市場法(DMA)を整備し、規制を強める動きが進んでいます。
理論モデルで積み重ねた知見を社会に還元
プラットフォーム事業者の運営は見えない部分も多く、研究の苦労もあると思いますが、今後の研究、活動はどう進めていきますか。
善如教授:
確かに、プラットフォーム事業者から出てくる内部情報は限られているため、生のデータを分析する研究は限界があります。ですから、私の場合、経済学の理論的な分析枠組みを使い、理論モデルを組み立てていく研究を中心としています。今後もそのような方法で知見を積み重ねていくつもりです。
プラットフォーム・ビジネスという分野はまだ新しく、研究者も多くありません。研究者は若手が中心です。そのような状況の中で、大学や大学院の教育を通し、次世代を育てていくことも一つの役割かもしれません。積み重ねた知見を、さまざまな形で社会に還元していくことができれば、と考えています。
善如悠介教授 略歴
2010年、神戸大学経営学部卒。2012年、神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。2012~15年、日本学術振興会特別研究員。2015年、博士(商学、神戸大学)。2015年、大阪経済大学経済学部専任講師。2017年、神戸大学大学院経営学研究科准教授、2022年10月から教授。同月、神戸大学高等学術研究院卓越教授。2023年6月から経済産業省「デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合」委員、2025年9月から内閣府消費者委員会委員。「令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞」を受賞。




