安岡正晴教授 

移民大国・アメリカで、移民を規制する動きが強まっている。2025年にスタートした第2次トランプ政権は「米国第一主義」のもと、難民の受け入れ制限や非正規移民(※)の大規模強制送還など、強硬な政策を次々に打ち出している。排外主義的な動きが強まる中、非正規滞在者に寛容な姿勢を示してきた「聖域都市」(sanctuary city)と呼ばれる自治体の動向も注目されている。アメリカの移民政策を研究する国際文化学研究科の安岡正晴教授に、トランプ政権の政策の影響や聖域都市の現状などを聞いた。

(※)日本では、在留資格のない移民について「不法移民」「不法滞在者」という表現がよく使われるが、海外では1975年の国連総会決議に基づき、「irregular」(非正規)や「undocumented」(無登録、未登録)といった表現が一般的に使われている。

コロナ禍が移民政策にも影響

トランプ政権の移民政策をどう見ていますか。

安岡教授:

第1次トランプ政権(2017~2021年)のときは、今ほど強硬な政策を遂行できませんでした。それは、大統領の政策に司法がストップをかけ、裁判で苦戦を強いられたことが一つの理由です。大統領を支えるスタッフも、1期目で慣れていませんでした。そして何より、2019年からのコロナ禍で、移民の大量流入の動き自体が止まったことが大きかったと思います。

次の民主党・バイデン政権(2021~2025年)ではコロナ禍が収束し、移民の動きが活発になりましたが、非正規移民に対する政策はトランプ政権と比較すると“寛容”になりました。ただ、その寛容さゆえに、移民の流入を制御できていないと批判され、大統領選で共和党のトランプ氏が勝利する一因にもなりました。

昨年スタートした第2次トランプ政権では、第1次政権よりスタッフが運営に慣れ、最高裁判所でも保守派が多数派になるなど司法の歯止めも効きにくくなったことで、移民への締め付けはどんどん厳しくなっています。州兵や移民税関捜査局(ICE)の捜査官を動員し、大統領の政策に協力しない都市で特に強引な摘発を行っています。

聖域都市はアメリカ国内に少なくとも500以上

いわゆる「聖域都市」がターゲットになっているのですね。そもそも、聖域都市とはどのような街で、全米にどのくらいあるのでしょうか。

安岡教授:

聖域都市は端的に言うと、連邦政府が行う非正規滞在者の摘発に関し、積極的な情報提供をしない自治体です。カリフォルニアやオレゴンなどの州レベルもあれば、サンフランシスコやロサンゼルスなどの大都市、さらに小規模な市もあります。

ICEと情報共有をしないといった施策を州法や条例で定めているところもありますが、表向きには公言していない自治体もあります。多く見積もって1000自治体、少なくとも500自治体あるといわれ、西海岸や東海岸の民主党支持が強い都市に多いのが特徴です。

日本では国だけが法律を制定できますが、アメリカでは連邦法と州法のどちらが優先するのかという論争があるほど州の独立性が確保されています。基本的に、州や市には「我々は連邦政府の下請けではない」という意識があります。移民の出入国管理に関する法律は連邦政府の所管なので、聖域都市は「非正規滞在者の摘発は自分たちの仕事ではない」「連邦政府に協力する義務はない」という考えのもとで対応しています。

州や市の警察は殺人や窃盗などの刑法犯を検挙しますが、許可された期間を超えてアメリカに滞在する非正規滞在者を検挙する権限はありません。それはICEなど連邦当局の仕事です。聖域都市が連邦政府に協力しないのは、州や市内で連邦捜査機関が出入国管理に関し、見た目の疑わしさなどから住民を拘束できるようになると、警察権が強大になりすぎて人権侵害につながるという点も一つの理由です。

日本では、警察は「取り締まりを行ってくれる善良な組織」と考えられ、自分が取り締まられる側になる感覚が薄いですよね。他方、アメリカでは、警察や連邦捜査機関が住民の人権を侵害する可能性に対して敏感です。

トランプ政権のもとで今、具体的にどのような動きがありますか。

安岡教授:

これまで、教会、病院、学校などの施設は、仮に非正規滞在者であっても安心して過ごせる場所とされてきました。これらの場所は「センシティブ・エリア」と呼ばれ、当局が摘発しないという不文律がありました。親が正規の在留資格を持っていなくても、その子どもが教育を受ける権利はしっかりと保障されてきました。しかし、現在はトランプ大統領の意向を受け、そういうところにもICEが介入するようになっています。

さらに、トランプ大統領は昨年、「出生地主義」の見直しを命じる大統領令に署名しました。アメリカでは、両親が非正規滞在者でも、アメリカ国内で生まれた子どもは合法的市民となりますが、この制度を変えようとしています。現在は、連邦最高裁判所で大統領令の合憲性をめぐる審理が始まっており、司法判断を待っている状況です。もし出生地主義を制限することになれば、アメリカの移民政策は大きく変わりますが、これには憲法の改正が必要です。

今後の移民政策の方向として危惧されるのは、政権が交代したとしても、トランプ政権が一度上げてしまったハードルは簡単に下げられないという点です。仮に民主党が政権を奪還した場合、センシティブ・エリアへの介入といった横暴は減ると思いますが、バイデン政権時代のような寛容な状況にはもう戻らないと思われます。

アメリカの「聖域都市」の状況について語る安岡教授 

外国人政策が争点化されるのは日本も海外も共通

アメリカだけでなく、ヨーロッパ、日本でも排外主義的な動きが強まっているように見えますが、関連性はあるのでしょうか。

安岡教授:

ヨーロッパ各国はかつて、難民の受け入れに積極的でしたが、この10年ほどはいくつかの国で極右政党が台頭し、規制を強化する動きが見られます。以前なら差別主義者といわれたような発言を、トランプ大統領がたびたび公言することで、他の政治家も言いやすくなっている面はあるでしょう。

日本でも、2025年の参院選で外国人政策が争点化しました。ただ、日本の場合は、いわゆる移民政策とインバウンド(訪日外国人客)の問題がごちゃ混ぜになっているように見えます。コロナ禍で高くなった国境の壁が、“コロナ後”に急に低くなり、人の動きが見えやすくなったことも影響していると思います。

政治家が外国人政策を争点化することは、海外も日本も共通しています。しかし、政治というものが国のような一定の領域を意識し、その領域内の人に資格を与える動きである一方、グローバル化した世界では人々の往来は国境を越え、ますます自由になっています。

アメリカなど厳しい摘発を行っている国でも、現実問題として、非正規滞在者も含めた移住労働者がいなければ多くの産業が立ち行かなくなるという面があります。ですからトランプ政権も、移民政策を争点化しつつ、経済活動との兼ね合いで摘発を強化したり弱めたりしています。そういう経済との関係性も、私たちは見ておく必要があると思います。

かつて移民を送り出す側だった日本

移民の国・アメリカの歴史に日本が学ぶことはありますか。

安岡教授:

日本はかつて、アメリカやブラジルなどに移民を送り出す側でした。アメリカでは1924年に排日移民法が成立し、第2次大戦中には日系人が強制収容されました。そうした人々の苦難の歴史を、もっと認識する必要があると思います。神戸では、ブラジルなどに渡航する人々の滞在拠点だった建物が「海外移住と文化の交流センター」として保存されており、貴重な学びの場です。

一般的に、移民政策には4種類の目標があります。1つ目は「経済的目標」で、移民が出身国より高い収入を得るために移住し、受け入れ国は自国労働者より安価であったり、高度な技能を持つ外国人労働者を受け入れて経済成長を実現しようとするものです。2つ目は「社会的目標」です。アメリカの移民政策は「家族の再統合」を原則としており、経済的な動機で移住した労働者が家族を持ち、移民たちのコミュニティを形成できるようにしています。3つ目は、多様な文化的背景を持つ人々が集まり、切磋琢磨して国の強みとしていく「文化的目標」、4つ目は、生まれた国で人権侵害があれば先進国が受け入れるべきだと考える「道徳的目標」です。

これまでのアメリカは、文化的目標を自らの強みと考え、多くの移民を受け入れてきました。排日移民法など過去の差別的政策を是正する流れとして、多様性を重視してきた面もあります。日本もこうした歴史に学び、今後の政策を立案していく必要があるのではないでしょうか。多様な人々が切磋琢磨し、国の強みとしてきたアメリカの例を見れば、日本でも外国人の受け入れが新しいチャンスにつながるかもしれません。

聖域都市の研究から見えてきたことは?

安岡教授:

第2次トランプ政権による厳しい摘発で、アメリカの移民の間には恐怖心が広がっており、聖域都市の職員へのインタビュー調査も以前に比べてガードが固くなっているように感じます。そのような中でも、聖域都市のあり方には学ぶ点が多いと思います。

聖域都市の職員にインタビューをすると、「我々は非正規滞在者に優しい街ではない。住民を区別したくないだけだ」という言葉を聞きます。例えば、非正規滞在者が「いつ拘束されるか分からない」という強い不安を持っていると、危険な感染症などにかかっても市には申告しないでしょう。また、自治体が住民に対して「非正規滞在者の情報を寄せてください」といった相互監視の呼びかけをすれば、多くの人が息苦しさを感じる街になるでしょう。こうした状況になってしまうことを、自治体は避けたいと考えているのです。 

日本でよく使われる「不法移民」という言葉は、国境を越えて無理やり入ってくるイメージを持たれがちですが、正規に入国し、その後さまざまな事情で在留資格を失って「非正規」の状態にある人も多くいます。難民としての認定を待っている人もいます。これはどの国も同じで、「不法移民」とされる人々の中には、それぞれ異なる事情があることも知ってほしいと思います。

日本では、「多文化共生」という目標がよく掲げられますが、そのようなスローガンを打ち出さなくても、私たちはすでに外国人と一緒に暮らす状況になっています。外国人の働き手がいなければ成り立たない業種も数多くあります。コンビニの店員はもちろん、介護や建設などの業界もそうです。外国人住民が経済システムの中ですでに不可欠な存在となっている以上、今後、日本社会に確実に定着していくでしょう。

宗教や文化の異なる人々が同じ地域にいるのは、外国人住民に限らず、当たり前のことです。現実として、すでに一緒に社会を作っているのです。マスコミの報道などでもそのような側面にもっと光を当てるべきで、その積み重ねが大切だと思います。

安岡正晴教授 略歴

1993年、早稲田大学大学院政治学研究科博士前期課程修了。1995~97年、米・バージニア大学に留学(政治学修士)。1999年、早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2000年10月、神戸大学国際文化学部講師、2020年10月から大学院国際文化学研究科教授。近著に『アメリカの政治(第2版)』(共著、岡山裕・西山隆行編、2024年)。

 

研究者

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