東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授、中里一星特任助教、有村慎一教授、立命館大学の松村浩由教授、神戸大学の深山浩教授、大阪大学の難波啓一特任教授らの研究グループは、世界的な食料需要の増加と気候変動への対応に向けて、植物の光合成能力を分子レベルで強化することに成功しました。

光合成において炭素固定を担う中心酵素Rubiscoは、その低い触媒効率が作物生産性を制限する要因として長年知られてきましたが、触媒部位を構成するRubisco大サブユニットは細胞核のゲノムとは異なる葉緑体ゲノムにコードされているため、その機能を精密に改変することは極めて困難とされてきました。

本研究では、葉緑体ゲノム編集技術を用いてRubisco大サブユニット遺伝子(rbcL)に単一アミノ酸置換を導入し、酵素量を維持したまま触媒速度(kcat)を向上させることに世界に先駆けて成功しました。その結果、現在の大気CO₂濃度条件に加え、将来予測される高CO₂環境においてもCO₂同化速度の向上と植物バイオマスの増加が確認され、光合成能力の分子改良が実際の植物成長や生産性向上につながることが明確に示されました。さらにクライオ電子顕微鏡解析により、Rubiscoのkcatが上がった原因を調べたところ、活性中心から離れた位置の単一アミノ酸置換が触媒部位の柔軟性を変化させ、酵素機能を高める新たな分子機構の可能性が示されました。

本成果は、外来遺伝子をゲノムに残さない、精密な葉緑体ゲノム編集によって光合成能力と作物生産性を同時に向上させ得ることを示した点で画期的であり、作物の進化や育種を加速する新たな分子育種戦略の確立につながるものです。今後、主要作物や樹木への展開により、食料生産性の向上に加えて光合成による炭素固定能力の強化を通じた大気CO₂削減やカーボンニュートラル社会の実現への貢献が期待されます。

本研究の成果は、2026年6月19日にNature Communicationsに掲載されました。

本研究のイメージ図葉緑体ゲノム編集による高機能Rubiscoの創出で光合成と植物生産性の向上に成功© ウチダヒロコ

論文情報

タイトル

"Chloroplast genome editing of Rubisco boosts photosynthesis and plant growth"

DOI

10.1038/s41467-026-73783-w

著者名

Wataru Yamori, Issei Nakazato, Yuchen Qu1, Yukina Sanga, Tomoko Miyata, Ryo Uehara, Yuma Noto, Keiichi Namba, Hiroshi Fukayama, Hiroyoshi Matsumura, and Shin-ichi Arimura

掲載誌

Nature Communications

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研究者