神戸大学人間発達環境学研究科の高見泰興教授、修士課程院生の宮地ひかるさん(2022年度修了)、石川県ふれあい昆虫館の篠原忠学芸員、兵庫県工業技術センターの平山明宏研究員らの研究グループは、カマキリに見られるような獲物を捕らえるための特殊な前脚(捕脚、カマ)が昆虫のさまざまな系統で繰り返し進化した現象を解析し、捕食という同じ機能を果たしながらも、同じ形に進化しているわけではないことを明らかにしました。機能と形の対応関係が「一対多」であることは、同じ機能を果たすための進化的な解決法は一つではないことを示す点で、この発見は生物の多様化機構の理解に貢献します。

この研究成果は、7月7日に、Scientific Reportsに掲載されました。

ポイント

  • 昆虫の捕脚(カマ)は複数のグループで独立に進化しましたが、それらの形は均一ではなく、それぞれ独自の形を保って進化したことを明らかにしました。
  • 捕脚の進化に伴い、捕獲行動に関係する頭部と胸部の形が、複数のグループで共通の進化パターンを示すことを明らかにしました。
  • 捕獲という同じ機能を実現する形が一つではないという発見は、生物多様性が生じる仕組みの理解を深めるだけでなく、昆虫の優れた構造を応用した新たなロボットやデバイスの設計にも役立つ可能性があります。

研究の背景

昆虫では、異なるグループにおいて少なくとも7回も独立に前脚の捕脚(カマ)が進化しています。これは、獲物を捕らえる上でカマが役立つためだと考えられます。カマは、腿節と脛節(脚の第3節と第4節)で獲物を挟みこむ構造と機能をもち、それらは異なるグループの間で共通しているため、その形は一見類似しています。しかし、カマの形がどれくらい似ているのかを、祖先状態からの進化の視点に基づいて調べた研究はありませんでした。

研究の内容

カマを持つ6つの昆虫のグループ(図)を対象に、カマを構成する前脚の各節の長さを測定し、それぞれ近縁なグループの(カマではない)前脚を祖先状態と見なして、形の進化を比較しました。また、カマになっていない中脚と後脚、捕食行動に関連すると考えられる頭部と前胸の形も同じように比較しました。

図 ©高見泰興(CC BY-NC-ND) 

系統樹を考慮した解析の結果、普通の前脚からカマへの進化の過程では、脚の付け根にある基節と転節(第1節と第2節)が延長し、先端の符節(第5節)が短縮するなど、形の進化の方向に緩やかな類似性が見いだされました。しかし、カマがグループ間でより似た形になる「収れん進化」は見いだされず、各グループのカマはそれぞれ独自の形を持つことも判明しました。カマの形が多様である要因の一つとして、コオイムシやミズカマキリのような水棲グループのカマの形が異質であることもわかりました。中脚と後脚の形には、グループ間で共通の進化傾向は見られませんでした。

また、各グループで共通して、カマの進化に伴って、頭部が幅広く、前胸が細長くなることも明らかになりました。幅広い頭部の進化は、左右の複眼が互いに離れることで立体視の能力を高めることにつながり、獲物までの距離が測りやすくなることで、カマを用いた捕食の効率を高めることに寄与したと考えられます。また、細長い前胸は、獲物を狙う際のカマを構える姿勢と関連する可能性があります。

今後の展開

昆虫の前脚のカマの形が均一化していないという発見は、捕食という同じ機能を果たす器官であっても、その形は様々でありうることを示しています。機能と形の間の対応関係が「一対多」であることは、同じ機能を達成するための進化的な解決策は一つではないことを物語っており、生物の多様化をもたらす進化の仕組みを理解する上で、重要な示唆を与えるものです。また、昆虫の体の構造と機能の理解は、シンプルなデザインで高度な機能をもたらす新たなロボットやデバイスの設計に役立つ可能性があります。

謝辞

本研究の一部はJSPS科研費16H04844の助成を受けて行われました。

論文情報

タイトル

"Quantifying the repeated evolution of insect raptorial forelegs"

DOI

10.1038/s41598-026-57616-w

著者

Hikaru Miyaji, Tadashi Shinohara, Akihiro Hirayama and Yasuoki Takami

掲載誌

Scientific Reports

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者