近年、「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれるPFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)による環境汚染が世界的な問題となっています。神戸大学バイオシグナル総合研究センターの乾秀之准教授らの研究グループは、PFASで汚染された河川底質から7種類の細菌を単離し、そのPFAS除去能力を評価しました。その結果、これら細菌はPFOSを最大17.8%、PFOAを最大14.1%低減することを明らかにしました。また、実際の産業廃棄物最終処分場浸出水を用いた試験でも、複数のPFASの濃度を低減し、PFHxSでは最大97%の除去を確認しました。本研究は、汚染現場に生息する細菌がPFASの環境浄化に利用できる可能性を示したものであり、低コストかつ環境負荷の少ないバイオレメディエーション技術の実現に向けた重要な成果です。
この研究成果は、6月19日に、国際学術誌Journal of Water Process Engineeringにオンラインで掲載されました。
ポイント
- PFASで汚染された河川底質から7種類の細菌を単離し、PFAS除去能力を評価しました。
- 単離した細菌のうち、Xanthobacter sp.はPFOSを最大17.8%、Priestia sp.はPFOAを最大14.1%低減することを明らかにしました。
- PFASの除去には、細菌への吸着が重要な役割を果たすことを示すとともに、PFASの構造によって細菌との相互作用が異なることを見出しました。
- 実際の産業廃棄物最終処分場浸出水でもPFAS濃度を大きく低減できることを確認し、環境浄化技術への応用可能性を示しました。特にPFHxSは最大97%減少しました。
研究の背景
PFAS※1は、優れた撥水性・撥油性・耐熱性・耐薬品性を持つことから、フッ素樹脂、半導体製造、泡消火剤、防水加工製品など幅広い用途で利用されてきました。しかし、炭素-フッ素結合は自然界で最も強い化学結合の一つであるため、環境中ではほとんど分解されず、長期間残留することから「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれています。近年では河川、地下水、海洋、土壌のみならず、野生生物や人体からも検出され、その健康影響が懸念されています。
こうした状況を受け、PFOS※2やPFOA(図1)など代表的なPFASは国際的な化学物質規制の対象となっています。しかし、既に環境中に放出されたPFASは、工場跡地や廃棄物最終処分場、河川などに残留し続けており、効率的な除去技術の開発が世界的な課題となっています。現在実用化されている活性炭吸着やイオン交換樹脂、膜分離などの物理化学的な処理法は高いコストが課題とされています。

そのため近年では、微生物や植物の働きを利用して汚染物質を除去する「バイオレメディエーション※3」が注目されています。しかし、PFASを除去できる微生物は限られており、その種類や作用機構、実環境での有効性については十分に明らかになっていませんでした。本研究では、PFASで実際に汚染された河川環境に着目し、そのような環境に適応した細菌を探索し、利用することで、新たなPFAS除去技術の開発を目指しました。
研究の内容
研究グループは、大阪府内のPFAS汚染河川から底質を採取し、PFOSおよびPFOAを含む培地で培養することにより、PFAS存在下でも生育できる細菌を単離しました。16S rRNA遺伝子解析の結果、Rhodococcus属、Priestia属、Paenibacillus属、Xanthobacter属に属する7菌株と同定しました。
これらの菌株についてPFOSおよびPFOAの除去能力を評価した結果、Priestia sp. PfR株は8.7%、Xanthobacter sp. XaP株はPFOSを17.8%、Priestia sp. PmB株はPFOAを14.1%低減しました(図2)。また、PFOSには直鎖型と分岐型の異性体が存在しますが、両方の異性体を低減できることも明らかになりました。

さらに、PFASが細菌とどのように相互作用するか調べたところ、PFOSはPFOAよりも細菌細胞に強く吸着すること(図3)、特にグラム陰性菌であるXanthobacter属では高い吸着能力を示すことが分かりました。時間経過の解析からは、細菌が分泌する細胞外高分子※4(EPS)がPFAS吸着に重要な役割を果たしている可能性も示されました。つまり、本研究では、PFAS除去には分解だけではなく「細菌表面への吸着」が重要なメカニズムの一つであることを明らかにしました。

さらに、研究室レベルの培地を用いた検証だけではなく、実際の産業廃棄物最終処分場から採取した浸出水を用いて実証試験を行いました。その結果、XaP株はPFOSやPFOAだけでなく複数種類のPFAS濃度を低減し、特にPFHxS※2では最大97%という非常に高い除去率を示しました(図4)。このことから、本菌株は実環境の複雑な条件下でもPFAS除去に利用できる可能性が示されました。

以上の結果は、PFASの環境からの除去のために、細菌を利用できる可能性を示したものであり、環境浄化の手段の多様化に貢献できるものと考えられます。
今後の展開
本研究により、PFAS汚染環境に適応した細菌がPFAS除去に利用できる可能性が示されました。一方で、今回確認されたPFAS濃度の低減が分解によるものなのか、あるいは他のPFASへ変換された結果なのかについては、さらに詳細な解析が必要です。今後は、高分解能質量分析計などを用いて代謝産物を同定し、PFASがどのような経路で変化しているのかを明らかにする必要があります。
また、PFAS除去に関与する遺伝子や酵素を解明するとともに、細菌による吸着と分解の寄与割合、pHや温度、共存する有機物など環境条件の影響についても検討します。さらに、長期間連続培養における除去性能の安定性や、吸着したPFASの再放出リスクについても評価し、実際の浄水施設や廃棄物処分場で利用可能なバイオレメディエーション技術の確立を目指します。将来的には、従来法よりも低コストで環境負荷の小さいPFAS浄化技術として社会実装されることが期待されます。
用語解説
※1 PFAS(ペルポリフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)
炭素とフッ素からなる非常に分解されにくい人工化学物質の総称。耐熱性・耐薬品性・撥水性に優れ、多くの工業製品に利用される。1万種以上あるとされる。
※2 PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)
代表的なPFASの一種。毒性や環境残留性が高く、製造・使用が世界的に規制されている。2026年4月から、PFOSとPFOAの合算値として50 ng/Lが、水道水の水質基準に設定された。
※3 バイオレメディエーション
微生物や植物など生物の働きを利用して環境中の汚染物質を除去・浄化する技術。
※4 細胞外高分子(EPS:Extracellular Polymeric Substances)
細菌が細胞外に分泌する多糖類やタンパク質などの高分子物質。細胞表面への汚染物質の吸着に重要な役割を果たす。
謝辞
本研究は、岩谷直治記念財団(49-03)、公益財団法人ひょうご科学技術協会(5064)、一般財団法人加藤育英基金(6-1)、日本学術振興会外国人招へい研究者(長期)(L-14552)、(短期)(S24010)、外国人特別研究員(一般)(P24722)による支援を受けて行われました。
論文情報
タイトル
DOI
10.1016/j.jwpe.2026.110408
著者
Hideyuki Inui a,b,*, Chisa Tanaka b, Yutaka Kobayashi b, Ryosuke Yoshiki c, Takuya Kakoi c, Yuto Ido d, Junko Ono d, Miyune Nakamura e, Haruko Sakurama f, Shinji Takenaka b, Yoshinori Yabuki d, Atsushi Yamamoto g, Chisato Matsumura c, Aristide Laurel Mokale Kognou a, Vladimir Beskoski h, Takeshi Nakano a
a.神戸大学バイオシグナル総合研究センター
b.神戸大学大学院農学研究科
c.公益財団法人ひょうご環境創造協会 兵庫県環境研究センター
d.地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所
e.神戸大学農学部
f.京都先端科学大学バイオ環境学部
g.公立鳥取環境大学環境学部
h.ベオグラード大学化学部
掲載誌
Journal of Water Process Engineering
報道問い合わせ先
神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)
