神戸大学大学院理学研究科の藤秀樹教授および南晶子さん(研究当時博士課程前期課程)らと日本原子力研究開発機構の芳賀芳範研究主幹、大阪大学大学院理学研究科の大貫惇睦名誉教授らの研究グループは、金属間化合物UBe13において完全超伝導ギャップをもつスピン三重項超伝導状態が実現していることを世界で初めて実験的に突き止めました。今後のスピン三重項超伝導の開発や次世代の量子コンピュータへの応用が期待されているトポロジカル超伝導体の理解に向けた新たな展開が期待されます。
この研究成果は6月26日に日本物理学会が発行する国際学術誌『Journal of the Physical Society of Japan』に掲載され、Editors’ Choiceに選ばれました。『Journal of the Physical Society of Japan』では、優れた成果を表彰するため、Editors' Choice論文を選出しています。

ポイント
- 40年来の物理学の謎を解明:1983年の発見以来、特異な性質を持ちながらも詳細が謎のベールに包まれていた金属間化合物「UBe13」の超伝導の正体を、世界で初めて実験的に突き止めました。
- ミクロな測定で「スピン三重項状態」を実証:NMR(核磁気共鳴)法を用いた精密測定により、電子が同じ向きにスピンして対を作る「スピン三重項超伝導状態」であることを決定づけました。
- 次世代量子コンピュータへの応用へ期待:本物質で発見された超伝導状態は理論的に極めて特殊な「トポロジカル・スピン三重項超伝導」であることが理論的に予測されており、エラーに強い次世代量子コンピュータの材料開発で期待されています。
研究の背景
・スピン三重項超伝導の有力候補「UBe13」
超伝導体には、図1に示すように2つの電子が逆向きに自転(スピン)して対を作る一般的な「スピン一重項」と、同じ向きにスピンして対を作る特殊な「スピン三重項」があります。金属間化合物「UBe13」は1983年の発見当初から後者のスピン三重項の有力候補とされていましたが、良質な試料作製の難しさや常伝導状態での異常物性により、40年以上もその超伝導状態の詳細は謎に包まれていました。
・対スピン状態の「直接観測」という高い壁
スピン三重項超伝導注1の全容を解明するには、超伝導状態のスピン磁化率注2を直接調べる必要があります。しかし、通常の磁化率測定では超伝導特有の強い「マイスナー反磁性効果注3」によって遮られ、測定が不可能でした。近年の純良な単結晶試料の作製成功を受け、マイスナー効果の影響を受けずにスピン状態を直接ミクロに観測できる実験手法が切望されていました。

研究の内容
・NMR法によるスピン磁化率の精密測定
神戸大学、日本原子力研究開発機構(JAEA)、大阪大学の研究グループは、微視的検出技術「核磁気共鳴(NMR)法注4」を用いてUBe13の純良単結晶に対し、極低温域でのベリリウム(Be)核のNMR測定を実施しました。図2に示すように磁場を立方晶の3種類の対称軸に印加した際のスピン磁化率の減少パターンから、この物質がスピン三重項超伝導状態であることを実験的に決定づけました。

・ノードのない完全超伝導ギャップと特異な対称性の解明
NMR法の別の測定手法であるNMR緩和率の温度・磁場依存性を精密に測定した結果、電子の通り道が複数ある「マルチバンド」であり、かつ、それぞれの道で常伝導状態と超伝導状態を隔てる完全なバリアが存在し、抜け道がない「ノードのない完全超伝導ギャップ注5」を持つことを世界で初めて明らかにしました。

今後の展開
・「トポロジカル・スピン三重項超伝導」研究の加速
本研究で実証された「完全超伝導ギャップを持つスピン三重項状態」は、理論的に「トポロジカル注6・スピン三重項超伝導」と呼ばれる極めて特殊で新しいタイプの超伝導状態です。この発見は、これまで詳細の解明が困難であったスピン三重項超伝導研究に新たな展開をもたらすとともに、トポロジカル物性物理学の発展を大きく加速させます。
・マヨラナ粒子の実現と次世代量子コンピュータ注7への応用への期待
このトポロジカル・スピン三重項超伝導状態の表面では、「マヨラナ粒子」と呼ばれる電子と正孔が同一とみなせる特殊な電子状態の実現が予言されています。マヨラナ粒子は環境のノイズ(乱れ)に対して非常に強いという特性を持つため、エラーの起きにくい次世代の「トポロジカル量子コンピュータ」の材料開発など、応用面への展開で基盤となることが期待されています。
用語解説
注1 スピン三重項超伝導
クーパー対とよばれる2つの電子が逆向きに自転(スピン)をしながら対形成するスピン一重項状態と2つの電子が同じ向きにスピンして対を作るスピン三重項超伝導状態がある。超伝導体の多くは前者のスピン一重項に分類されるものが多い。
注2 スピン磁化率
電子や原子核などが持つ、自転のような性質を「スピン」と呼び、このスピンが磁場中でどれだけ応答して向きをそろえるかを示す量で、物質の電子状態を調べる指標。
注3 マイスナー反磁性
物質が超伝導状態(電気抵抗がゼロになる状態)になったとき、内部に入り込もうとする磁場を完全に外へ押し出す(排除する)性質のこと。 これにより、超伝導体の内部の磁束密度はゼロになる。磁石の上に超伝導体を置くと、この反発力によってフワフワと浮き上がる「磁気浮上現象」が有名。
注4 核磁気共鳴(NMR)法
磁場の中に置かれた原子核が、特定の周波数の電磁波(ラジオ波)と相互作用してエネルギーを吸収・放出する現象(核磁気共鳴)を利用した分析手法。物質の分子構造や性質を原子レベルで壊さずに調べることができるため、物理学のみならず化学分析や、医療用のMRI(磁気共鳴画像装置)に応用されている。
注5 完全超伝導ギャップ
超伝導になると常伝導状態と超伝導状態の間に超伝導ギャップと呼ばれる超伝導粒子が常伝導粒子になる際のバリアが生じる。このバリアにはノードと呼ばれる抜け穴が存在することがあるが、完全超伝導ギャップでは抜け穴が全く存在しない状態。
注6 トポロジカル
数学の「位相幾何学(トポロジー)」に由来する言葉で、「連続的に変形しても変わらない性質」を指す(例:穴の数が同じなら、コーヒーカップとドーナツは同じ形とみなす)。 近年、物質の電子状態にこの概念を取り入れた「トポロジカル物質」の研究が盛んで、外部からのノイズや傷に非常に強く、壊れにくい量子状態を作れるため、次世代の量子コンピュータへの応用が期待されている。
注7 量子コンピュータ
「0か1か」のビットで計算される従来のコンピュータに対し、「0であり1でもある」という量子力学的な重ね合わせ状態(量子ビット)を利用して計算するコンピュータのこと。特定の複雑な計算(暗号解読、新素材や医薬品の開発など)を、超高速で処理できる可能性を秘めている。トポロジカルな性質により壊れにくい量子状態を持ち合わせたものをトポロジカル量子コンピュータともいう。
謝辞
タイトル
"NMR Evidence for Full-Gap Spin-Triplet Superconducting State in UBe13"
DOI
10.7566/JPSJ.95.074711
著者
Shoko Minami, Haruki Matsuno, Kyohei Morita, Rintaro Matsuki, Hisashi Kotegawa, Hisatomo Harima, Yoshinori Haga, Etsuji Yamamoto, Yoshichika Ōnuki, and Hideki Tou*
責任著者:神戸大学大学院理学研究科 教授 藤 秀樹
掲載誌
Journal of the Physical Society of Japan(Editors’ choice)
報道問い合わせ先
神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)


