神戸大学大学院理学研究科の山田暉馨特命助教および伏屋雄紀教授の研究グループは、強磁場中の量子ホール効果・磁性体中の異常ホール効果という2つの量子論的効果の複合的効果である量子異常ホール効果の検出手段として注目されてきたプレナーホール効果測定(図1)において、そのどちらとも異なる第3の伝導メカニズムを理論的に発見し、磁場に対して120度周期で変動する成分の謎を解明しました。議論の出発点となるのは古くから知られているボルツマン理論ですが、これまで考えられてきた理論の範囲を超え、磁場に対する高次の応答(磁場を強くしたときに初めて目立つ、より細かな電気伝導の変化)に注目すると、結晶が持つ対称性と電流・電圧とが特定の配置をとるときに、120度周期を示すことがわかりました。これまであまり注目されていなかった古い理論に立ち戻り、それを現代の問題に活かそうという温故知新の姿勢が実験的な謎の解明につながったのです。

この研究成果は、観測結果から「異常な」ホール効果の成分を定量的に評価することを可能にし、トポロジカル物性分野における電子輸送の理解に進展をもたらすだけでなく、回転磁場中の測定において長年未解決だった角度依存性の物理的起源を一挙に解決する可能性を持っています。

本成果は、米国物理学会の学術誌『Physical Review B』の速報論文(Letter)として、6月2日に掲載されました。

図1:プレナーホール効果の測定系模式図。ホール効果測定を面内回転磁場中で行う。
©山田暉馨(CC BY) 

ポイント

  • 特殊な量子的状態の証拠と考えられてきた「120度ごとに繰り返す磁場応答」が、これまで注目されてこなかった電子の伝導メカニズムによって現れることを理論的に示した。
  • 約70年前から使われてきた理論を発展させ、磁場中でこれまで見過ごされてきた伝導成分を明らかにした。
  • この信号は、結晶を鏡に写して元通りになるかどうかに敏感であり、物質内部のミクロな対称性を調べる新しい手がかりになる可能性がある。

研究の背景

金属や半導体に電流を流し、そこに磁場をかけると、電流の向きとは横向きに電圧が生じます。この現象はホール効果とよばれます。特に、多くの電子デバイスのように電子が薄い膜の中だけを動くような二次元の系では、強い磁場のもとでホール伝導度が階段状の値をとることがあります。これは「量子ホール効果」とよばれ、その発見と理論的理解は物理学に大きな影響を与え、関連する研究に対してノーベル物理学賞が授与されています。さらに近年トポロジカル物性(注釈1)とよばれる分野で重要な研究対象となっている「異常ホール効果」は、磁性体において、外部磁場だけでは説明できない横向きの電圧が現れる現象として知られています。2次元的なトポロジカル電子系では、磁性とトポロジカルな電子状態が組み合わさることで、外部磁場なしに量子化されたホール効果が期待され(量子異常ホール効果(注釈2))、2つの量子的効果の複合効果ともいえる現象の観測が近年注目を集めていました。

数ある観測手法のなかでも、試料面に沿って磁場の向きを回転させたときに、電流と垂直な方向の電圧がどのように変化するかを調べる実験(プレナーホール効果測定:PHE測定)が注目されています。特に磁場の向きを120度変えるたびに同じ信号が繰り返される成分は、電子のトポロジカル状態や強磁性に由来する可能性があるとして注目されてきました。

研究の内容

神戸大学の研究チームは、固体中の電子の流れを記述するボルツマン理論(注釈3)を用いて、120度周期の信号の起源を理論的に調べました。

その結果、磁場の効果をより精密に取り扱うと、これまで見落とされていた120度周期の信号が自然に現れることがわかりました。理論の要は磁場に関して3次の高次応答まで計算に取り入れ、約70年前に確立された2次の応答までの理論をさらに拡張したことです。回転する磁場の3次応答に含まれる項は、磁場の回転角度の三角関数が3回乗じられた項を含みます。よく知られた3倍角の公式(注釈4)から、この寄与が120度周期を持つ成分の起源となることがわかります。

結晶には、ある面に対して鏡に写したとき、元の構造と同じになる「鏡映対称性」を持つものがあります。電流・電圧・磁場の向きと結晶の鏡映対称性の関係によって、120度周期の成分が消える場合と残る場合が決まることも明らかになりました(図2)。

鏡の面が1枚以下であるような物質は多く、希少な現象であるとされてきた120度周期の磁場応答が、従来考えられていたよりも幅広い物質で現れ、特別なトポロジカル状態を必要としない、より一般的な現象であるということも明らかになりました。

さらに驚くべきことに、電子の異方的な有効質量を元に定量的評価を行ったところ、この伝導度成分は特定の条件下で非常に大きな値を持つことがあり、トポロジカルな電子状態に由来すると解釈されてきた信号と同程度の大きさになりうることがわかりました。

図2:結晶内に鏡の面が2、3枚または1枚存在する場合PHEに含まれる120度周期の成分 ©山田暉馨(CC BY)

今後の展開

本研究の価値は、一見すると既知の量子的メカニズムに基づく現象に見える信号の中に未解明の成分が含まれることを指摘し、そのメカニズムを明らかにした点にあります。物質の中では、電子は磁場や結晶の対称性の影響を受けて複雑な流れ方をします。本研究は、そのような電子の流れの「隠れた規則性」を読み解くことで、マクロな電気測定からミクロな結晶対称性や電子構造の情報を取り出せることを示しました。これは高度な次世代材料の研究を、より確かな測定と解釈に基づいて進めるための重要な一歩です。トポロジカルな電子状態の寄与を切り分ける解析手法として、磁性材料・トポロジカル材料・磁気センサー・スピントロニクス材料の評価や設計への応用も期待されます。

用語解説

(注釈1)トポロジカル物性
物質中の電子が示す性質の中でも、「エネルギーの高低」だけでなく、波としての性質や位相幾何学的な特徴に起因するもの。パラメータの連続的な変形では変わらない「トポロジカル不変量」が物性を特徴づけ、物質内部の性質が表面や端の伝導状態を決めることがある。量子ホール効果・トポロジカル絶縁体・量子異常ホール効果などの理解に重要な役割を果たしている。

(注釈2)量子異常ホール効果
外部から強い磁場を加えなくても、試料内部の磁化と電子の位相幾何学的性質によってホール伝導度が量子化される現象。通常の量子ホール効果では、強磁場により生じるランダウ準位と試料の端に局在した状態が量子化された伝導を担うが、量子異常ホール効果では、磁性をもつ物質のバンド構造そのものが非自明なトポロジーを持つことで、磁場なしに同様の端伝導が実現する。

(注釈3)ボルツマン理論
固体の中に多数存在する電子の分布が電場や磁場によってどのように変化するかを調べることで、電子の流れを記述する理論。電子の集団を統計的に扱うことで、電気伝導や熱伝導などの輸送現象を解析できる。電場や磁場に対する応答を次数ごとに計算できるため、通常の電気伝導だけでなく、より高次の伝導現象も系統的に調べることができる。高次の応答になるほど多様な伝導メカニズムが現れるが、その分理論計算は急速に複雑になる。

(注釈4)3倍角の公式
三角関数の3乗と、角度を3倍した三角関数の間に成り立つ以下の式。

cos3ϕ=(cos3ϕ+3 cosϕ)

sin3ϕ=(-sin3ϕ+3 sinϕ)

謝辞

本研究は日本学術振興会・科学研究費補助金「学術変革領域研究(A)」(課題番号:JP23H04862)、基盤研究(A)」(課題番号:JP23H00268)、「研究活動スタート支援」(課題番号:JP25H23360)などの支援を受け実施しました。

論文情報

タイトル

"Classical transport theory for three-fold planar Hall effect"

DOI

10.1103/g4fg-j71x

著者

Akiyoshi Yamada,Yuki Fuseya

掲載誌

Physical Review B (Letter)

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課

E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者