田村厚夫准教授 

生命が誕生した30億~40億年前から、自然界には生命の源となる幾多のタンパク質が脈々と受け継がれてきた。この世界には存在しない新しい機能を持った人工タンパク質を設計・作成、社会の課題解決に挑む研究室がある。新型コロナ治療薬への活用や、レアメタルに結合し回収できるタンパク質など、多岐の分野にわたって可能性を探る理学研究科の田村厚夫准教授に、人工設計の現状、社会にどう実装できるのか、今後、他分野と共創し、どんな展開が予想されるのかを聞いた。

自然界にないタンパク質とは

新しい機能を持った人工タンパク質を設計する研究とは、どんな研究ですか。

田村准教授:

自然界には多くの種類のタンパク質、規模の小さな「ペプチド」が存在し、その数は推定数億以上と言われています。人であれば、30億個の遺伝子に約2万種のタンパク質がコードされています。天然のタンパク質が作られる原理が判明すれば、その原理を使って新しいタンパク質を設計することが可能です。タンパク質にこれまでにない構造と新しい機能を持たせ世の中に役立てようと、30年前から研究を進めてきました。

新しい機能を持った人工タンパク質のパターンは無限に考えられます。用途の一つには、医学への応用が挙げられます。高齢化社会である日本では、がんやアルツハイマー病など治療の難しい病気が多くあります。がん細胞を標的として薬を運んだり、病気そのものを治す力を持つ物質の設計「ドラッグデザイン」でも用いられています。

もう一つは、産業への応用です。日本は鉱山が乏しく、ハイテク産業に必要な白金、金、パラジウムなど貴重なレアメタルのほとんどを輸入に頼っています。世界が混迷する時代にあって安定的な供給が求められています。一方、廃棄される携帯電話や電気自動車などの機器廃棄物には、レアメタルが多く含まれ、リサイクルが十分にできていないのも現状です。これが「都市鉱山(アーバン・マイン)」と呼ばれています。今後、そのレアメタルの必要量を廃棄物から確保することも可能で、「レアメタルに結合して回収するタンパク質」の設計にも取り組んできました。

タンパク質の構造がなぜ、新しい機能を発揮するのか

そもそも、タンパク質とはどんなものですか。

田村准教授:

では、なぜタンパク質が機能を発揮するのか、分子レベルの根本にさかのぼって考えてみましょう。タンパク質は、主に水素(H)、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)でできている「アミノ酸」が多数結合した分子です。アミノ酸は、自然界にわずか20種類しかありません。すべてのタンパク質やペプチドは、この20種類のアミノ酸から成り立っています。アミノ酸が数珠つなぎになった短いものを「ペプチド」、50個から100個程度を越えた長いものを「タンパク質」と呼びます。タンパク質は、らせん状の「αヘリックス」か、ひも状の「βシート」の二次元構造を形成し、さらに特定の三次元立体構造を形成します。単にアミノ酸が長く並んでいるだけでは十分でなく、適切な構造を取り機能して初めて、タンパク質と呼ばれます。

研究室の実験機材を前に、タンパク質の設計について語る田村准教授  

アミノ酸20種類からなる配列の組み合わせとはいえ、その種類は膨大です。たとえば、アミノ酸20種類が100個つながっていると仮定すると、その数は「20の100乗」個となります。これは宇宙の原子の数よりも多い数字です。そのため、同じタンパク質は、確率的には存在しないと考えていいでしょう。設計された配列は、偶然の一致がない限り、自然界には存在しない新規分子と考えられます。私たちの研究室では、新しい配列をデザインする際に、こういう構造を取れば、こういう機能になるだろうと、想像しながら設計を進めています。例えば、ある元素だけに反応する構造、形を考えるわけです。

 

具体的にはどのように新しいタンパク質やペプチドを作成しますか。

田村准教授:

私たちの体は、細胞の集まりです。各々の細胞の中には核があって、そこには染色体、DNAが存在します。自然界では、遺伝子のDNA配列情報がアミノ酸配列に変換され、タンパク質構造を形成し、機能を発揮します。遺伝情報が一定の方向に伝達される生物学の基本原則である「セントラル・ドグマ」と呼ばれるものです。DNAの働きは、唯一、タンパク質を決定するだけです。

私たちの人工タンパク質の設計「プロティンデザイン」は、この自然の流れを逆にたどります。望んでいる機能を設定し、それを発揮するために必要な構造とそれを実現する新規のアミノ酸配列を編み出すわけです。自然界にはない機能であっても、新たな可能性があるだろうと予想して設計を進め、得られたタンパク質の立体構造を決定し機能を測定するなどの実験を行い、その結果をフィードバックして次世代の設計を行うことで、全く新しいタンパク質を生み出しています。

研究室では、化学合成でタンパク質を作る場合が多く、アミノ酸を一つ付けては反応させ、一つ付けては反応させて、それを繰り返して長いものを作成します。

具体的に説明しますと、ペプチド設計技術(下図参照)は、計算と実験を併用し、タンパク質の「構造」と、結合の強さを示す「エネルギー」を最適化することで実現しています。ある物質が、タンパク質を構成する元素の水素、酸素、窒素、炭素のどれと構造的に結合しやすいのか、結合しにくいかを計算で求め、実際に結合しやすいのかを実験で測定します。その実験を繰り返してアミノ酸配列の改良を重ね、第1世代から第2世代、第3世代のタンパク質に高めていき、最終的に最適化された機能を持ったタンパク質にたどり着くことを目指します。

合成するにも限度があり、通常35個程度までのアミノ酸で作成しています。ただ、一つの機能を果たすためには、数の多いタンパク質を作る必要はなく、生産性や効率を考えれば、アミノ酸が少ないペプチドで十分です。もし、規模の大きなタンパク質を作りたいのであれば、微生物を利用してDNAを作れば、何百という長さのタンパク質が簡単に作れます。その場合は、バイオ分野との共創研究になります。
 
地球上の生命は、30億~40億年かかって進化を続け、今の自然界を形成してきました。私たちはわずか数カ月で人工タンパク質の合成にこぎつけます。地球の営み、自然界の営みと比べると、すごいスピードでタンパク質の合成に成功していると言えるでしょう。

また、私たちは、最新のAI(人工知能)計算を用いても達成困難な構造機能を達成しています。今、AIの世界では、アミノ酸の配列からタンパク質の立体構造を予測するソフトウェア「アルファフォールド(AlphaFold)」が開発されています。この発明が、2024年のノーベル化学賞に選ばれました。しかし、レアメタルに結合するタンパク質は、元々自然界にはなかったので、データそのものが存在せず、AIで計算することはできません。自然界にないものを一から設計できないAIは、私たちのようにレアメタルと結合するタンパク質を作り出すことができません。
 

新型コロナウイルスの感染を止めるタンパク質

新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を拡大した分子モデル 

新型コロナ禍の中で、創薬開発にも取り組みました。

田村准教授:

これは新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスの表面にあるトゲ)を1億倍に拡大したモデル=写真=です。白い球が水素(H)、黒と灰色の球が炭素(C)、赤色の球が酸素(O)、青色の球が窒素(N)を表しています。このモデルのタンパク質は、アミノ酸が30個結合したもので、スパイクタンパク質全体では、アミノ酸1000個くらいからできています。

新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は3本の柱からできていて、その先でヒトの細胞にくっつき、細胞内にウイルスの遺伝子を注入することで感染を引き起こします。この先の部分が次々と変わり変異体が次々と現れたため、それを標的に作用していた薬やワクチンが、次々に効かなくなってしまったのです。

私たちは、変異することのほぼないウイルス本体の柱の根元部分に注目しました。薬が根元に付着してウイルスを邪魔し、ウイルスが不活性化するタンパク質を新たに設計しました。スパイクタンパク質は3本構造だと安定していますが、類似のタンパク質を結合させて、3本構造を壊すことで感染に必要な機能を失わせ、ウイルスの力を弱めることに成功しました。

私たちの研究室では、本当に機能しているかは実証できないので、本学保健学研究科の研究者に実験してもらい、ウイルスの増殖が抑えられたか効果を確認しました。変異にも強い薬の開発に成功、特許を出願しました。私たちの研究室が分子レベルでタンパク質を設計し、本学保健学研究科で実際に効果があるのかを実験、確認し共創できた事例です。

レアメタルに結合し回収できるペプチド

レアメタル、レアアースに結合し、回収できるタンパク質って?

田村准教授:

鉱山が少なく天然資源が乏しい日本は、都市鉱山の中からリサイクルすれば、レアメタルの必要量を確保することが可能だと考えます。そこで、金などのレアメタルに引っ付き、回収できるタンパク質を設計できないか、試行錯誤しました。一般的に不可能なことを証明するのは困難ですが、可能であることを示すには、実際に作ってしまえばいいと発想を転換しました。

私たちがターゲットにしたのは、産業界で需要の高い金、白金、パラジウムなどの「レアメタル」、高性能磁石やハイテク機器に使われるネオジム、ディスプロシウムなどの「レアアース」です。レアアースは17種類ありますが、回収率が極めて低いのです。また、リチウムやコバルト、ニッケルなど電池関係の金属も貴重な鉱物です。

なぜ、レアメタルと結合するタンパク質の研究を始めたのですか。

田村准教授:

かつてある企業から話が持ち込まれ、金をタンパク質に引っ付けて電気を通すタンパク質を開発したことがあります。タンパク質はもともと電気を流さないのが常識でしたが、それを覆し、金に結合するアミノ酸を付けて「導電性ペプチドナノファイバー」と呼ばれるタンパク質を開発し、特許を取りました。それが発端となって、金に結合するペプチドだけでなく、さまざまレアメタルに結合するタンパク質を設計することになりました。開発当時、金などのレアメタルも今ほど高価ではありませんでした。世界情勢が大きく変わり、レアメタルの価値がどんどん高まっています。私がやってきた研究に、時代が追いついたと感じています。

回収対象として、2通りの考え方があります。一つは都市鉱山と呼ばれるもののリサイクルです。廃棄された携帯電話、電気自動車などのハイテク機器廃棄物から回収する方法です。もう一つは、南鳥島沖の深さ6000メートルの海底に、かなり高濃度の良質なレアアース泥(でい)が眠っているので、そこから回収する方法もあります。東京大学が主導してコンソーシアムを組織していて、私もメンバーに入っています。私たちの研究は、都市鉱山リサイクル、海底のレアアース泥のどちらのソースにも対応できます。

レアメタルの回収装置を説明する田村准教授

具体的には、どうやって回収するのでしょうか。

田村准教授:

レアメタルに結合するタンパク質を紙に張り付け、固定化する技術も開発しました。金属ごとに異なるタンパク質を用いた紙フィルターを何枚か備えつけたカードリッジ型の回収装置を作成しました。いろいろなレアメタルが入った混合液をフィルターに通し、分別回収します。私たちの技術のメリットは、速く回収でき、高選択性があり、低濃度でも回収できることです。また、紙は自然素材であるため、環境負荷が極めて低い。普通は回収する際に加熱したり、動力を使ったりするのですが、私の回収方法はエネルギーも不要です。また、軽いので持ち運びにも優れています。現地に持ち運んで、レアメタル、レアアースを回収することができます。ただ、今後収益性を考えていくと、まだまだコストが高いという課題も残っています。

あらゆる業種と連携可能、夢広がる社会実装

今後、他分野でどんな応用が可能ですか。社会にどう実装され、貢献できますか。

田村准教授:

レアメタル、レアアースの研究に集中して画期的な回収システムを作り、研究の仕上げとしたいと思います。関係する産業界と連携し、技術を社会実装できればと考えています。私自身、2、3年内にスタートアップ企業を立ち上げ、多くの企業と連携し、社会に役立てたいと思います。今はタンパク質、ペプチドを作るコストが一番高いので、どう安く製造できるかを企業と検討もしています。微生物で大量生産できないか、検討を進めています。

現在の社会のあらゆる課題の多くは、人工タンパク質を使って解決できると考えています。いわゆるディープテック(社会課題を解決し、生活や社会に大きなインパクトを与える化学的な発見や革新的な技術)という分野に、人工タンパク質は関与できます。電気、自動車、化学、石油、金属、バイオなど幅広い産業との連携が考えられます。できないとすれば、建築とかコンクリートで造る物や、仮想空間でのコンピューター分野くらいでしょうか。それ以外、分子が関わるものにはすべて関与できるはずです。

私は年間、数十個から数百個程度設計して人工タンパク質を生み出し続けています。アイデアはいつも数十個は頭の中で温めていて、それをどう社会に生かせるか考えています。タンパク質の構築原理は随分分かってきたので、今分かる範囲の原理でどんどん開発していき、世の中の役に立てて、世の中を驚かせたいと思います。研究室に所属する学生にも疑問を投げかけ、常に何ができるのか、一緒にアイデアを考えています。

田村厚夫准教授 略歴

1986年3月、京都大学理学部卒業。1988年3月、京都大学大学院理学研究科博士前期課程修了。1991年11月、同研究科博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。1991年~1995年、米国イエール大学博士研究員。1995年4月、神戸大学大学院自然科学研究科講師、2000年~2003年、科学技術振興事業団さきがけ研究21研究員兼任。2006年、助教授。2007年、准教授。

技術紹介動画(レアメタル系)

 

研究者

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