植物にとって、太陽の光はいつも恵みとは限りません。とりわけ寒い日の光は、光合成を担う光化学系I(PSI)での電子の蓄積が起こるため、活性酸素が発生して、PSIや植物自身を傷つけることがあります。この現象は、今から30年以上前の1994年に寺島一郎博士、園池公毅博士らがキュウリを用いて世界に先駆けて報告した日本発の重要な発見であり、「低温PSI光阻害」として知られています。以後30年にわたりそのメカニズムについて研究が行われてきましたが、植物が低温からPSIを守る仕組みについては、十分に分かっていませんでした。

神戸大学大学院農学研究科の竹内航特命助教(2025年度京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了)、および京都大学大学院農学研究科の播本慎太郎(2025年度修士課程修了)と伊福健太郎教授らは、イネとキュウリを用いて、葉緑体に存在する『NDH複合体』が低温でPSIから電子を逃す安全弁としてPSIを守ることを明らかにしました。NDHを欠損したイネでは低温によるPSIの損傷が著しく進行した一方、別の経路から余剰電子を安全に逃がすFLVタンパク質を導入したイネでは、PSIの光阻害がほぼ完全に抑えられました。さらに、キュウリでは低温と光にさらしてからわずか1時間以内に、NDH複合体が崩れ始め、NDHの働きが失われることを発見しました。NDHが働かないと、PSIでは電子が消去できず、キュウリは活性酸素による光阻害を受けました。

本研究の成果は、日本で発見された低温におけるPSI光阻害に約30年ぶりに新たな一章を加えるものです。植物が低温からPSIを守る仕組みだけでなく、その仕組みが低温下で壊れる分子過程も明らかにしました。本成果は、植物の低温ストレス耐性機構への理解を深め、低温でも光合成能力を損なわない作物を探索・開発するための新たな手がかりになると期待されます。

本成果は、2026年9月20日に植物分野の権威ある国際学術誌『New Phytologist』に掲載されました。

図1 寒さで壊れる光合成の安全弁 通常時、NDHは光化学系I(PSI)のフェレドキシン(Ferredoxin, Fd)から電子を受け取り、PSIを守る(左)。低温ストレスにさらされたキュウリでは、NDH複合体が不安定化して電子が蓄積し、活性酸素が発生する。これによりPSI光阻害とキュウリの葉の白化が進行する(右)(竹内航、神戸大学大学院農学研究科 植物栄養学研究室)。

詳細(プレスリリース本文)

論文情報

タイトル

"The PSI–NDH supercomplex prevents chilling-induced PSI photoinhibition"
(PSI–NDH超複合体は低温ストレスによるPSI光阻害を抑制する)

DOI

10.1111/nph.71594

著者名

Ko Takeuchi, Shintaro Harimoto, and Kentaro Ifuku

掲載誌

New Phytologist

報道問い合わせ先

神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

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