再生可能エネルギーの普及を進めるには、炭素税などの政策対応とともに、発電コストの低下がカギを握る。国内では水力と並んで再生可能エネルギーの柱になっているのが太陽光発電。工学研究科の朝日重雄助教は太陽電池の発電効率を現在一般的な単接合型太陽電池の2倍、50%超の実現を目指している。「世界中の屋根に、私が開発した高効率の太陽電池を載せたい」と語る朝日助教に、研究の最前線について聞いた。

 

フォトンアップコンバージョン太陽電池を開発

単接合型太陽電池は最も高効率なものでも発電効率は20%台半ば。幅広い波長をもつ太陽光のうちの一部しか吸収・発電できないため、理論的に発電効率の上限が30%であることがわかっている。さらなる高効率化のためには、新たな構造の太陽電池の開発が必要となる。

フォトンアップコンバージョン太陽電池の構造

朝日助教は「フォトンアップコンバージョン太陽電池」を5年前に提案し、試作を続けている。一般的な太陽電池に使われるシリコンではなく、シリコン以外の物質を組み合わせて作る化合物半導体系太陽電池で、現在は気体状のガリウムヒ素とアルミニウム・ガリウムヒ素を真空中で堆積させ、2層構造になっている。上層のアルミニウム・ガリウムヒ素の部分(ワイドギャップ半導体)では紫外光(短波長・高エネルギー)を吸収・発電、下層のガリウムヒ素の部分(ナロウギャップ半導体)では可視光(中波長・中エネルギー)を吸収・発電する。

量子ドットで赤外光も活用

このままでは赤外光(長波長・低エネルギー)を活用できないため、上下の境界に微量のインジウムヒ素を堆積させ、直径20ナノメートル程度の微細な「量子ドット」を形成する。量子ドットのある境界面(ヘテロ界面)では、赤外光の2つの低エネルギー光子(フォトン)から1つの高エネルギー電子を発生する。2層構造だが、境界面を含む3カ所で別々の波長の光を吸収・発電し、紫外~赤外までの幅広い波長の太陽光を活用できる。

赤外光の吸収・発電を実現するため、これまでは1種類の素材(半導体)に不純物を入れる方法が試みられてきたが、赤外光による電流・電圧の上昇は実現していない。朝日助教によるヘテロ界面の量子ドットが、世界で初めて赤外光による電流・電圧上昇に成功した。

企業の技術者から研究の道へ

朝日助教は千葉県出身。大学院博士前期課程(修士)修了後、株式会社キーエンス(本社・大阪市)に入社し、10年間、センサーの設計に取り組んだ。「非常に充実していたが、比較的短期間でアウトプットを出すことが多かった。それよりもなかなかアウトプットは出なくても、出たときには大きく社会貢献できることに人生を賭けたい」と、環境問題解決に貢献する研究者を目指した。太陽電池に対象を絞り、「インターネット検索で探して」神戸大学大学院工学研究科の電気電子工学専攻・フォトニック材料学研究室を見つけ、博士後期課程院生になった。2013年、34歳の時だった。

既に結婚し、2児の父。無収入になるので、「妻からは『何を訳のわからないことを言ってるの』と怒られた」という。3年間の院生時代は「会社員時代の貯えで何とかしのいだ」そうだが、2016年に神戸大学特命助教、2020年からは助教。朝日助教は「まだトータルの発電効率は10%余だが、理論的には50%の達成は可能だ。太陽光発電のコストを大幅に下げ、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献したい」と、高効率太陽電池の実現目指して挑戦を続けいる。

略歴

2001年早稲田大学理工学部機械工学科卒業
2003年東京大学工学系研究科修士課程航空宇宙工学専攻修了
2003~2013年株式会社キーエンス(開発設計業務に従事) 
2013~2016年神戸大学大学院工学研究科(博士後期課程電気電子工学専攻修了)
2016年神戸大学大学院工学研究科電気電子専攻特命助教
2020年 同助教

関連リンク

研究者

SDGs

  • SDGs7