神戸大学大学院海事科学研究科の三島智和准教授が、新方式の三相交流-直流電力変換装置の開発に成功しました。今後、本成果を利用した直流給電システムの高効率化、低コスト化、薄型化、長寿命化などが期待されます。この研究成果は、9月13日に、国際科学誌「IEEE Transactions of Power Electronics」でオンライン先行公開されました。

ポイント

  • 商用周波数三相交流から直流を介さず単相高周波を生成(シングルステージ周波数変換)
  • 従来回路技術で必要な直流平滑フィルタ(電解コンデンサ)が不要(”ケミコンレス”)
  • 各相制御の導入により直流出力での低周波・高周波リプルを効果的に低減(6%以下)
  • 応用分野に応じた多彩なシステム構成・高い拡張性を実現
  • 三相交流電流の全高調波ひずみ2.4%以下に抑制(高調波国際規格をクリア)
  • 直流リンク方式に対して、2~3%の電力変換効率が期待

研究の背景

分散型電源によるMVDC給電や洋上風力発電システムによるHVDC給電、電気自動車(EV) 急速充電装置、さらにはデータセンター用サーバー電源など、交流・直流の複数段変換をなくし、直流により給電する電源システムが注目されています。通常、商用周波数電源から直流を生成するには、一旦整流器により交流から直流へ変換し、インバータにより高周波電流に変換した後に、高周波トランスを介して絶縁した上で、整流器を通じて直流を得るという、3段から4段の電力変換プロセスが必要です。このため、電力発生(入力)から消費(出力)までの電力損失が大きく、電気エネルギーを有効に活用することを阻害する要因となっていました。また、中間段で直流を形成するための大容量電解キャパシタをフィルタとして設置することが不可欠であり、その経年劣化によるメンテナンスの必要性に加えて、装置全体の重量増を招くことが指摘されていました。

図1.研究の背景・目的
図2.新技術による技術課題の解決

研究の内容

この問題に対し、三島准教授は、中間に直流段(直流リンク)を介さず、三相商用周波数から単相を1段にて生成する周波数変換回路を新たに考案し、商用電力の品質を保ちながら、高効率に直流出力を生成するシングルステージ電力変換システムの開発に成功しました。このシングルステージ電力変換回路には三島准教授が長年取り組んでいる共振形電力変換回路技術が応用されています。ここでは、システムを構成するパワー半導体スイッチの電力損失を効果的に抑制しながら、50/60ヘルツの商用電力から20-50キロヘルツの高周波電流を直接生成しており、高周波変圧器と整流回路を介して低脈動かつ高品質の直流力を、大容量フィルタを用いず(ケミコンレス)に取り出すことができます。これにより、電力変換損失を抑え、かつ装置容量を抑制した三相交流—直流電力変換システムが実現します。さらに、国や地域により異なる三相交流結線や目標とする直流電圧値に応じて柔軟にシステム構成を組み替えられることから、高い拡張性(モジュラリティ)を兼ね備えた新しい概念の電力変換システムです。電力2キロワット-動作周波数50キロヘルツの試作器を用いて評価を行い、シングルステージ周波数変換の動作原理と91.5%の電力変換効率と全高調波歪み率(THD)2.4%の高品質性を実証しました。

図3.開発した三相AC-DC変換器構成
図4.試作器実験結果

今後の展開

この研究成果によれば、大型フィルタを除去しながら直流生成が可能となるため、電源装置の小型軽量化・高効率化に加えて、経年劣化の主要因となる電解キャパシタの取替が不要となり、メンテナンスフリーの直流給電システムの実現が期待できます。これにより、省エネ性と高い拡張性を備えた、EV急速・普通充電装置、鉄道用半導体変圧器(SST)、データセンター直流給電、無停電電源および洋上風力発電パワーコンディショナーとして実用化が今後期待されます。

謝辞

本件は科研費(2018-2021採択課題 科学研究費(基盤研究B)18H01428)の支援を受けて発表した研究成果です。

論文情報

タイトル
A Single-Stage High Frequency-Link Modular Three-Phase LLC AC-DC Converter”,pp.1-14, Sep. 2021 (online early access)
DOI
10.1109/TPEL.2021.3111003
著者
Tomokazu Mishima (Kobe University), and Shoya Mitsui
掲載誌
IEEE Transactions on Power Electronics

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研究者

SDGs

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