神戸大学大学院海事科学研究科/水素・未来エネルギー技術研究センターの三島智和准教授らの研究グループは、台湾・国立中興大学の賴慶明教授と共同で広い電圧変動に対応した98%以上の超高効率双方向直流電力変換器の開発に成功しました。今後、電力・輸送交通・情報通信の分野で普及が進むDCマイクログリッドへ応用が期待されます。
この研究成果は、4月17日に国際学術論文誌『IEEE Transactions on Power Electronics』に掲載されました。
ポイント
- 高周波変圧器を用いず最小1/39倍の降圧比から最大39倍の昇圧比をもつワイド・レンジ直流電圧制御と双方向電力制御を実現
- 炭化ケイ素パワ−半導体デバイス(SiC-MOSFET)と高電力密度回路実装技術により、98.3%(@1kW-50kHz)の高効率電力変換を達成
研究の背景
分散電源である (DCまたはACとのハイブリッド) マイクログリッド※1では、太陽光・風力発電からの変動の影響を受け直流母線(DCバス)の電圧は大幅に変動します。また、電気自動車(EV)を商用電力網(グリッド)と繋げるVehicle-to-Grid (V2G)では、高圧化する自動車バッテリが蓄電容量に応じて広範囲(ワイド)に変動します。一方、グリッド内の電力貯蔵装置である据置バッテリは低圧かつ変動電圧が小さいため、EVバッテリやDCバスとの間で双方向に電力を融通するには、電圧変動比が大きく確保できて電流脈動も少ない性能をもつ、双方電力変換器が不可欠です。双方向型の直流電力変換器(Bidirectional DC-DC Converter: BDC)(図1)は従来、複数の回路を従属接続したり、高周波変圧器により昇降圧する技術が多用されています。しかし、装置の大型化や部品点数増加、電力変換効率の低さ、さらには故障に対する耐量性(Fault Tolerance)に課題があります。
研究の内容
この技術課題に対するソリューションとして、本研究でフローティング4相(F4P) ※2と称する回路構造を採用し、かつチャージポンプ(CP) ※3の作用を利用して広範囲な電圧変動にも対応した、電流脈動の少ない超高効率BDC(図2)を新たに考案しました。電力容量1kW-動作周波数50kHz の試作器を基に実動評価した結果、以下に示す主たる特徴が明らかとなりました。
図2. 新開発の双方向DC-DCコンバータ:(a) 回路構成、(b)試作器外観(1kW-50kHz)
*4相インターリーブ※4・フローティング構造により、降圧比・昇圧比ともに従来回路に対して最大2倍まで範囲が拡大(最小1/39倍の降圧比から最大39倍の昇圧比を達成)
*非対称オン時比率制御を適用したパルス幅変調による4相インダクタ電流平均値バランス制御(図3、4)→磁気回路部品の共通化ができ、回路設計が容易に
*上下対称構造のモジュラー回路構成であることにより、片側が故障しても残りの1台で運転が継続可能→耐故障性の確保
*すべてのスイッチに炭化ケイ素パワートランジスタ(SiC-MOSFET) ※5を適用し、コントローラ・駆動回路を含めた高電力密度回路設計→98%を超える電力変換効率を達成(最大98.3%@1kW)(図5)
*連続運転でも半導体部品等からの発熱が少なく、放熱システムも簡略化可能→30分間の定格連続運転においては、最大でも50 ℃に留まることを実証(図6)
図4. 実測動作波形
図5. 実測効率特性
これらの効能により、ワイドに電圧変動を伴うマイクログリッドシステムでも高効率かつ継ぎ目のない(シームレス)な直流電力の融通が可能となります。これにより、分散電源のみならず、再エネと親和性の高いマイクログリッドが求められる移動体(船舶、航空など)内部の電源や、AI生成技術の普及により膨大化する情報信号を処理するデータセンタにて設置されたサーバーへの給電装置として、高い実用性と有用性を発揮する新たな双方直流電源の開発への道筋が立ちました。
今後の展開
現試作器では3kW出力まで対応可能であることを確認しています。実際の直流マイクログリッドは、大規模のものであれば100kWクラスのシステムもあります。上述した優れた特徴や性能を維持しながら、如何にして産業用・輸送用マイクログリッドシステムへ効果的に応用する電力変換技術を、今後検討していく予定です。
用語解説
※1マイクログリッド
発電所からの電力(商用電力)に依存することなく、太陽光発電や風力発電などの再エネとバッテリ(蓄電電池)を組み合わせ、工場や事業所、商業施設などの電力を賄う「自律分散型電源」のこと。商用電力(交流:AC)と太陽電池・バッテリ・燃料電池を主とする直流(DC)電源との併用するAC/DCハイブリッドマイクログリッドと、商用電力と連系しないDCマイクログリッドがある。
※2フローティング
電気回路における負荷の一端が電源の正負やグランド(0V地点)と電気的につながっていない結線を指す。
※3チャージポンプ
静電エネルギー蓄積素子であるキャパシタ(コンデンサ)は電圧がほぼ一定の特性(定電圧特性)を持つ。パワー半導体スイッチを使い、その電子的オン・オフ動作を利用して電源から充電した電荷を負荷へ放出することで、入力電圧に加算される形でより電位の高い負荷電圧を生み出す電子回路技術を指す。
※4インターリーブ
英文で表現すると「Interleave」となり、木の葉と木の葉の間に別の木の葉が挟まる様子に見立てた、回路の2値動作の間に別回路の2値動作が入る状態を意味する。擬似的に回路の動作周期を高める(高周波化)ことになるため、インダクタやキャパシタなど回路部品のサイズが小型化できる。
※5炭化ケイ素パワートランジスタ(SiC-MOSFET)
シリコン(Si)を材料とするパワー半導体デバイス(トランジスタやダイオード)に対して、「バンドギャップ」と呼ばれる電子領域の幅が大きいため、より高い電圧に耐えることができたり、より高温度状況でも動作が安定したりするため、動作周波数の高周波化に適する電子材料の一種。窒化ガリウム(GaN)とともに、電力システムや自動車、家電民生機器などに応用が進むことが期待されている。
謝辞
本研究は、令和4年度本学・国際共同研究強化事業C型(テーマ名「データセンタの低炭素化に資する高電力密度配電システムの要素技術開発」)の支援のもと行われました。
論文情報
・タイトル
DOI
10.1109/TPEL.2024.3389052
著者
Shiqiang Liu (IEEE Student member, Kobe University), Guiyi Dong (IEEE Student member, Kobe University) , Tomokazu Mishima(IEEE Senior member, Kobe University) , and Ching-Ming Lai (IEEE Senior member, National Chung Hsing University, Taiwan)
掲載誌
IEEE Transactions on Power Electronics