NEDOと神戸大学、(株)島津製作所は、植物や微生物を用いた高機能品生産技術の開発(スマートセルプロジェクト)に取り組んでおり、これまでに開発した微生物細胞自動前処理技術に加え、このたび水溶性代謝物など186種類の細胞代謝物を一斉分析できる「代謝物抽出トータルシステム」と、有望なスマートセルの候補となる細胞を最短1日で見つけられる「ハイスループット評価システム」を新たに開発しました。これらのシステムを用いて、細胞の特性を示す膨大なデータを高精度に高速で取得し、より適切な代謝経路を設計することで、これまでの20倍の選抜効率でスマートセル候補細胞を得られます。長い期間を要していたスマートセルの開発を圧倒的に短縮できることから、高機能な物質の大量生産も可能となります。

本システムを含むパイロットラボを2020年12月15日に神戸大学先端融合研究環の統合研究拠点内に開設しました。

概要

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2016年度から2021年度まで植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出した「スマートセル」の構築によるものづくりの実現を目指して、「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発※1」(以下、スマートセルプロジェクト)に取り組んでいます。この中で化学合成では生産が難しい有用物質を創製したり、従来法以上の生産性を実現したりすることを目的に、スマートセルの構築に関する基盤技術および特定の生産物質における実用化技術の開発を推進しています。

本プロジェクトで国立大学法人神戸大学先端バイオ工学研究センター(センター長 蓮沼誠久)と株式会社島津製作所は、研究テーマ「高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」に参画し、2018年度に「高精度メタボローム※2 解析システム」を開発※3、前処理工程の自動化によるハイスループット※4 を達成するとともに、標的代謝物の一斉検出や既存の分析法との比較で10倍以上の感度を実現しました。そしてこのたび、産業ニーズの高い物質の生合成に関与する代謝物30種類をターゲットに加え、186種類を一斉分析できる「代謝物抽出トータルシステム」と、有望なスマートセル候補細胞を高速で見つけることができる「ハイスループット評価システム」を新たに開発しました。これらを組み合わせ、膨大なデータを高精度に高速で取得し、生産量や生産効率を高める代謝経路の設計確度が向上することで、高機能な物質をより短期間で大量生産することが可能となります。熟練作業者を超える精度と解析時間の大幅な短縮により、従来比20倍のスマートセル候補細胞の選抜効率を実現しました。

なお、NEDOと神戸大学は12月15日に、本プロジェクトの成果を利用したパイロットラボを神戸大学統合研究拠点内に開設しました。パイロットラボには本システムが設置されています。

今回の成果

以下の技術を組み合わせたメタボローム解析システムにより、多様な代謝物を対象に、熟練作業者を超える精度と以前より大幅に短い解析時間で、従来比20倍となるスマートセル候補細胞の選抜効率を実現しています。

図 メタボローム解析システムの概要

(1) 培養・サンプリング工程と前処理工程をすべて自動化
細胞培養のための条件制御から代謝物抽出までの一連の前処理工程を自動化し、メタボローム解析に特化した「代謝物抽出トータルシステム」を開発しました。細胞から代謝物を抽出する工程は、従来は手作業で行われており、煩雑で安定性に欠けるという課題がありました。新たに開発した細胞培養技術と、「自動前処理システム」を組み合わせて、熟練作業者でも2~3時間を要していた工程を1時間に短縮し、同時処理可能なサンプル数を1.5倍に増加しました。さらに24時間自動運転により、熟練作業者20人分に匹敵する処理速度を実現し、同時に熟練作業者を超える精度にも到達しました。

(2) 分析可能な代謝物を99種類から186種類に拡大
既存の分析法では、一度に分析する代謝物は99種類が限界でした。本プロジェクトでは、水溶性代謝物156種類に加え脂溶性代謝物30種類をターゲットとし、計186種類を一斉分析できる分析法を開発しました。分析には島津製作所が開発した液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)※5 による「高精度メタボローム解析システム」を使用しています。

(3) 有望なスマートセル候補細胞を高速で見つけ出すシステムを開発
細胞によって高機能物質を大量生産するためには、物質生産能力を測定し有望なスマートセル候補細胞を効率よく見つける必要があります。従来は、液体内で細胞を培養してから目的物質を検出していたため、合計5日間かかっていました。本プロジェクトでは代謝物を超臨界流体抽出/超臨界流体クロマトグラフシステム(SFE-SFC-MS)※6 で直接分析する「ハイスループット評価システム」の開発により、液体培養を経ず、コロニー※7 から目的物質を検出するまでの時間を約5分の1となる最短1日へ大幅短縮することで、有望なスマートセル候補細胞を簡便かつ極短時間で効率よくスクリーニングできるようにしました。

用語解説

※1 植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発
研究開発項目:微生物による高機能品生産技術開発/高生産性微生物創生に資する情報解析システムの開発
事 業 期 間:2016~2021年度
事業・プロジェクト概要:植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発
委託先:国立大学法人神戸大学、株式会社島津製作所
※2 メタボローム
生物実験サンプルに含まれる低分子化合物の総称のことです。これらを一斉分析するのがメタボローム解析です。
※3 「高精度メタボローム解析システム」を開発
参考:NEDOニュースリリース 2018年5月25日
※4 ハイスループット
評価系の改良やロボティクスを駆使して作業効率を向上させることです。今回はこれらのハイテク技術により作業効率が大幅に向上した評価システムを開発しました。
※5 液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)
高速液体クロマグラフ(HPLC)に検出器として質量分析計(MS)を連結した分析装置です。今回は分析手法として液体クロマトグラフ/三連四重極質量分析計(LC/MS/MS)を採用し、100種以上の代謝物の一斉測定を可能としています。
※6 超臨界流体抽出/超臨界流体クロマトグラフシステム(SFE-SFC-MS)
超臨界流体抽出(SFE)と超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)を組み合わせたシステムです(島津製作所特許取得済み)。固体試料から目的成分の抽出と分析を自動化することにより,前処理操作の時間短縮や分析精度の高いデータを得ることが可能です。
※7 コロニー
同一種の生物が形成する集団です。細菌や培養細胞の場合は培地などの上に現れる細胞塊を指します。

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