ガスクロマトグラフィーによるトマト香気成分の分析

ヘキセナールイソメラーゼ活性を高める事によりトマトの香気成分を変化させる事ができた。

神戸大学大学院農学研究科植物機能化学研究室の國嶋幹子さん(博士後期課程3年)、山内靖雄助教、水谷正治准教授、杉本幸裕教授、同天然有機分子化学研究室の久世雅樹准教授、滝川浩郷教授らの研究グループは、植物特有の「青臭い」香り成分を「甘い緑の香り」に変換する酵素を特定しました。青臭さを軽減した甘いトマトの生産などへの応用が期待されます。

この研究成果は、4月29日(日本時間)、米生化学分子生物学会の雑誌「The Journal of Biological Chemistry」に掲載されました。


植物の青葉から放出される香りは「みどりの香り」と呼ばれ、古くから盛んに研究されてきました。「みどりの香り」のひとつ2-ヘキセナールが1912年に発見されて以降、研究が進展し、「みどりの香り」が生成される仕組みの大部分が明らかになりました。しかし、なかでも重要なステップである3-ヘキセナールから2-ヘキセナールへの変換については、何らかの酵素によるものと推定はされていましたが、その詳細は不明でした。

また、3-ヘキセナールが不快臭に分類されるのに対し、2-ヘキセナールは芳香に分類されるため、成分の存在割合は食品の品質に影響を及ぼします。例えばトマトの育種では、3-ヘキセナールを減少させ2-ヘキセナールを増やした甘いトマトの作出が必要ですが、酵素が不明なため人為的な制御が非常に難しい状況でした。

研究グループは過去の文献調査を行い、研究材料としてパプリカに着目。市販のパプリカの果実から12マイクログラムの純粋な酵素 (ヘキセナールイソメラーゼ) を精製し、遺伝子を特定しました。その結果、同様の酵素がナス科、ウリ科、マメ科、イネ科のほか、木本類などの植物に存在し、3-ヘキセナールから2-ヘキセナールをつくり出す能力を多くの植物が備えていることがわかりました。

さらに調査を進めると、トマトには2-ヘキセナールを作る遺伝子があるにも関わらず、ほとんど機能していないことがわかりました。そこでパプリカから精製したヘキセナールイソメラーゼをトマトで発現させたところ、3-ヘキセナールが減少し、2-ヘキセナールが増加しました。

これらの結果により、ヘキセナールイソメラーゼを人為的に植物の中で機能させることが可能となり、ヘキセナールの存在比をコントロールすることが可能になったと言えます。青汁や野菜ジュースなど、青臭い匂いがネックとなっている加工食品の匂い低減のほか、ヘキセナールイソメラーゼの遺伝子をマーカーとして、この酵素がよく働いている品種を選抜することで、青臭い匂いが低減された品種を特定することが可能になると考えられます。

ヘキセナール生合成系

論文情報

タイトル
Identification of (Z)-3:(E)-2-hexenal isomerases essential to the production of the leaf aldehyde in plants
(植物において青葉アルデヒドの生成に関わる(Z)-3:(E)-2-ヘキセナールイソメラーゼの同定)
DOI
10.1074/jbc.M116.726687
著者
Mikiko Kunishima, Yasuo Yamauchi, Masaharu Mizutani, Masaki Kuse, Hirosato Takikawa, Yukihiro Sugimoto
掲載誌
The Journal of Biological Chemistry

研究者