神戸大学大学院理学研究科の末次健司准教授、日本学術振興会の松林順特別研究員、総合地球環境学研究所の陀安一郎教授からなる研究グループは、1950年代~1960年代初頭にかけて大気圏核実験により大気中に多量に放出された放射性炭素同位体をトレーサーとして利用することで、菌従属栄養植物※1の生体内の炭素がいつ光合成によって固定されたかを検討しました。その結果、複数の光合成をやめたラン科植物が、サンプリング時期より数十年前に固定された炭素を利用していることを明らかにしました。このことは、腐朽菌の菌糸を通じて枯れ木から炭素を得ている植物が存在することを示しています。

 菌従属栄養植物は、自身が生物の死体を分解する能力があるという誤解により、かつては腐生植物と呼ばれていましたが、植物自体が腐朽能力を持つ、真の意味の腐生植物は存在しません。しかし本研究により、菌従属栄養植物の一部が、間接的に腐食連鎖系に依存する「腐生植物」であることが明らかになりました。菌類が果たす重要な生態系機能として、菌根共生と分解が挙げられますが、菌従属栄養植物は、この両方を搾取することに成功し繁栄をとげた稀有な存在であるといえます。

 この研究成果は、1月23日(現地時間)に、国際誌「New Phytologist」にオンライン掲載されました。

研究の背景

 菌根共生は、多くの陸上植物で見られる共生関係で、植物が菌根菌に光合成で得た炭素を与えるかわりに、菌根菌から土壌中のミネラルを受け取る相利共生として知られています (図1)。しかしながら、植物の中には、光合成をやめ、共生菌から養分を奪うという特異な進化を遂げた菌従属栄養植物が存在します。こうした菌従属栄養植物の多くは、もともとは相利共生相手だったアーバスキュラー菌根菌や外生菌根菌といった菌根菌に寄生するようになった裏切り者であることが知られています。一般的に、植物が菌根菌に提供する炭素は、光合成産物全体の2割にも及ぶとされており、菌従属栄養植物はこの高いコストの支払いを回避するように進化したと考えられているのです。

図1. 通常の菌根共生
光合成産物とミネラルを やり取りする相利共生

 菌従属栄養植物は、植物自身に動植物の死体を分解する能力があるという誤解により、かつては腐生植物と呼ばれていました (図2)。実際には菌に寄生することが明らかになった現在では、この呼び名は徐々に使用されなくなりつつあります。

 一方で、菌類の中は、森の落ち葉や枯れ木の分解者として森林の物質循環に重要な役割をはたしている種が多数存在しています。皆さんも切り株などからキノコが生えているところを見たことがあるのではないでしょうか?こうした菌類は腐朽生活を営むため、腐朽菌、もしくは、腐生菌といいます。もし腐朽菌に依存する菌従属栄養植物が存在するならば、腐朽菌の菌糸のネットワークを通じて落ち葉や枯れ木から栄養を取っているはずです。つまり、植物自体が腐朽能力を持つという真の意味での腐生植物は存在しなくても、菌を介して枯れ木から養分を取る間接的な「腐生植物」が存在するかもしれません。実際に、培養実験などによって、本来は菌根を作らない腐朽菌に寄生する菌従属栄養植物の存在が、古くから示唆されてきました。しかしながらこれまで枯れ木の炭素が菌従属栄養植物に移行していることを直接証明した研究はありませんでした。

図2. 菌従属栄養植物にまつわる誤解 (左図) と実態 (右図)

研究の詳しい内容

図3. 大気中の二酸化炭素 (CO2) における14C濃度(Δ14C)の経時変化

 そこで我々は、放射性炭素同位体 (以下14C) を用いて、菌従属栄養植物の体を構成する炭素が固定された年代を推定することにしました。大気中のCO214C濃度(Δ14C値)は、第二次世界大戦後、冷戦構造のもとで引き起こされた大気核実験により、1963年の部分的核実験禁止条約の施行までに急激に上昇しました。それ以後、大気核実験で放出された14Cは海洋などに吸収され、その濃度は徐々に減少しています (図3)。

図4. 独立栄養植物と菌従属栄養植物のδ13C値(光合成依存度の指標)とΔ14C値の比較

 陸上植物は光合成によってこの放射性炭素同位体を取りこむことで、「時間軸」を体の中に刻み込みます。つまり14C濃度の減少パターンから、生物体内の炭素がいつ光合成によって固定されたか理解できるのです。前述の通り、菌根菌は、炭素を光合成する植物からもらっているので、菌根菌に寄生する菌従属栄養植物も、菌糸のネットワークを通じて周辺の植物から炭素を得ています。よって、菌根菌に依存する菌従属栄養植物が利用している炭素はごく最近固定されているはずです。その一方で、腐朽菌は既に枯死した木材などを分解しているため、腐朽菌に依存する菌従属栄養植物は、「古い」炭素、すなわち、大気核実験で放出された放射性炭素同位体をたくさん取り込んでいるはずです。この予測のもと、10種の菌従属栄養植物の14C濃度を計測したところ、ギンリョウソウ、エゾサカネラン、ヒメノヤガラ、クロムヨウラン、ヒトツバイチヤクソウやユウシュンランの6種は、他の光合成植物と変わらない14Cの炭素、つまりごく最近固定された炭素を利用していることが明らかになりました。一方でオニノヤガラ、ツチアケビ、ショウキランやイモネヤガラの4種の光合成をやめた植物は、非常に高い14C濃度を示し、サンプリング時期より、数十年前に植物によって固定された炭素を利用していることが明らかになりました (図4)。このことは、前者は菌根菌の菌糸を介して光合成植物から炭素を得ており、後者は、腐朽菌の菌糸を介して枯れ木から炭素を得ていることを示しています (図5)。

図5. 今回の研究で明らかになった2通りの菌従属栄養植物のライフスタイル

 本研究により、複数種の菌従属栄養植物が、腐食連鎖系に依存していることが明らかになりました。菌類が果たす重要な生態系機能として、「菌根共生」と「分解」がありますが、菌従属栄養植物は、この両者を搾取することに成功し繁栄をとげた稀有な存在であるといえます。特に、本来自身の利益になりうる普通の植物とでさえ菌根を作らないはずの腐朽菌が、自身に害を与える菌従属栄養植物とだけ菌根を形成する事実は、非常に興味深い現象です。

用語解説

  • ※1 菌従属栄養植物
    光合成能力を失い、キノコやカビの仲間から養分を奪うようになった植物のこと。ツツジ科、ヒメハギ科、リンドウ科、ヒナノシャクジョウ科、タヌキノショクダイ科、コルシア科、ラン科、サクライソウ科、ホンゴウソウ科などが該当し、これまで日本からは約60種が報告されている。

論文情報

タイトル
Some mycoheterotrophic orchids depend on carbon from dead wood: Novel evidence from a radiocarbon approach
DOI: 10.1111/nph.16409

著者
Kenji Suetsugu, Jun Matsubayashi, Ichiro Tayasu

掲載誌
New Phytologist
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