神戸大学内海域環境教育研究センターの川井 浩史教授、羽生田 岳昭助教、秋田 晋吾学術研究員、大学院理学研究科生物学専攻修士課程 (研究当時) の橋本一輝は、多遺伝子分子系統解析によって、アラメ属の分類を再検討しました。その結果、主に東海地方沿岸に分布する、これまで北米に分布する種と同一とされてきた「サガラメ」について、別の種であることが分かり、この種を Eisenia nipponica と命名しました。

この研究成果は、2020年1月20日付けで藻類学に関する国際専門誌「European Journal of Phycology」にオンライン掲載されました。

Eisenia nipponica sp. nov.

研究の内容

褐藻コンブ目のアラメ・カジメ類は世界各地の温帯域に広く分布し、藻場を作ることから、沿岸の生態系にとって重要な大型海藻です。日本では、アラメ属ではアラメ、サガラメの2種が、またカジメ属ではカジメ、クロメ、ツルアラメ、アントクメの4種が報告されてきました。最近、これらの分類について、海外の研究グループによる葉緑体と核の2つの遺伝子領域の塩基配列情報を用いた解析から、アラメ属をカジメ属に統合することが提案されていました (Rothman et al. 2015)。

しかし、今回、本センターにおいて海外の種を含め、アラメ・カジメ類の種について、ミトコンドリアと葉緑体の10遺伝子領域を用いた多遺伝子分子系統解析を行った結果、アラメ属とカジメ属は遺伝的に独立しており、また両者は藻体の発達様式で明らかな違いが見られることが確認されました。このことから、アラメなどの種は以前のようにアラメ属として取り扱うことが適当であると結論づけられました。

アラメ属では幼体から成熟した藻体に発達する際に、葉状部の先端では成長帯の発達が止まり、側面の成長帯でのみ伸長し、また表面と裏面の区別が生じます。この際、片側の縁では表皮が再生せず、中央部が枯れて脱落したま伸長し、通常は藻体の外部には露出しない藻体内部の髄層や皮層が露出した状態のまま二股の葉状部に発達し、その部分は一見すると刃物で切ったように見えます。一方、カジメ属は幼体の葉状部の先端でも成長帯の活動が継続し、アラメ属で見られるような、髄層部の露出は起こりません。

日本国内の分布について

Ecklonia bicyclisEisenia nipponicaの分布

日本産のアラメ属としては、もともとは Eisenia bicyclis (Kjellman) Setchellという種のみが知られていました。これは、1885年にスウェーデンの藻類学者の Kjellman によって記載されたカジメ属のアラメ Ecklonia bicyclis という種について、1905年に米国の藻類学者 Setchell がアラメ属として扱うことを提唱し、Eisenia bicyclis (Kjellman) Setchell と学名変更されたものです。その後、東海地方の沿岸に生育するアラメ (静岡県相良の周辺で多く見られたことからサガラメと呼ばれていました) は、葉状部に二次側葉と呼ばれる枝分かれがないことなどから、通常のアラメと異なり、むしろ北米カリフォルニア州に分布する Eisenia arborea とすべきであるとの報告が日本の藻類学者の新崎によってなされました (Arasaki 1953、1964)。この結果、前述のように日本にはアラメ E. bicyclis とサガラメ E. arborea の2種が分布するとされるようになりました。

しかし、今回の遺伝子解析の結果、サガラメは北米に分布する真の E. arborea とは大きく異なり、別種であることが明らかになりました。そのため、サガラメについては、Eisenia nipponica という新たな学名を提唱することになりました。

なお、日本でのアラメ、サガラメの分布については、サガラメが東海地方から四国南東部にかけての本州太平洋沿岸に分布するのに対して、アラメは東北地方から伊豆半島にかけての太平洋沿岸と、山陰地方から九州にかけての日本海沿岸の南部および韓国の一部にも分布しており、両種の分布範囲は基本的には重ならないと考えられます。また、アラメと較べてサガラメは藻体がやや柔らかいことから、産地周辺では食材としても利用されています。

研究者のコメント (内海域環境教育研究センター 川井 浩史教授)

余談ですが、サガラメの学名については、当初 Eisenia japonica という名称での発表を予定していましたが、Eisenia japonica という学名は動物でミミズの一種 (サクラミミズ) について使われており、遺伝子配列のデータベース管理団体から変更して欲しいとの要請を受け、E. nipponica という名称になりました。生物の学名に関する国際的なルールである国際命名規約は、植物・菌類・藻類を対象にするものと動物を対象にするものがそれぞれ独立しているため、ルール上は同じ学名であっても問題ないのですが、やはり混乱する可能性があることに配慮して変更しました。

論文情報

タイトル
A multigene molecular phylogeny of Eisenia reveals evidence for a new species、Eisenia nipponica (Laminariales)、 from Japan
DOI
10.1080/09670262.2019.1692911
著者
川井浩史1、秋田晋吾1、橋本一輝2、羽生田岳昭1

1 : 神戸大学内海域環境教育研究センター
2 : 神戸大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程卒業
掲載誌
European Journal of Phycology

研究者