東京大学大学院工学系研究科の桑原佑典大学院生(博士課程1年)、加藤泰浩教授らは、新生代第四紀(注1)の更新世チバニアン期~完新世ノースグリッピアン期にあたる約30万年前〜約6千年前に堆積した、南太平洋ラウ海盆の深海堆積物の化学組成およびオスミウム(Os)同位体比(注2)の分析を実施しました。その結果、海底での火成活動や陸上岩石の化学風化(注3)など地球の岩石圏(固体地球)の変動を示す指標である海水Os同位体比が、第四紀の周期的な気候変動である氷期-間氷期サイクル(注4)に伴い明確に変動してきたことを世界で初めて見出しました。さらに、海洋での物質収支シミュレーションを実施した結果、本研究により見出された海水Os同位体比の変動が、大陸氷床の後退時における氷河堆積物の急速な化学風化および大陸氷床の発達時における海底熱水活動(注5)の活発化を反映していることを明らかにしました。本研究の成果は、現在の地球温暖化が進行し、大陸の氷床がさらに減少した際に、地球システムがどのように応答するかを数万年スケールで予測していく上で重要な知見となります。

ポイント

  • 第四紀の周期的な気候変動である氷期-間氷期サイクルに対して、地球の岩石圏が鋭敏に応答していた明確な証拠を、南太平洋の深海堆積物から見出しました。
  • 大陸氷床の成長と後退に伴い、氷河由来の堆積物の風化および海底での熱水活動の強度が大きく変化したことを、地球化学データと数値シミュレーションから明らかにしました。
  • 本研究の成果は、人類の活動に伴う温暖化により極域の氷床がさらに減少した際に、地球システムがどのように応答するかを予測していく上で重要な知見となります。

発表内容

約258万年前から現在に至るまでの第四紀は、北半球の大陸氷床が成長と後退を繰り返し、それに伴い温暖気候と寒冷気候が周期的に繰り返された「氷期-間氷期サイクル」 (図1) によって特徴づけられます。この氷期-間氷期サイクルにおける地球システムの挙動を明らかにすることは、現在私たちが直面している人為起源の気候変動のバックグラウンドを正確に把握するという観点から、極めて重要です。

氷期-間氷期サイクルは、地質学的には非常に短い数万年オーダーという時間スケールで地球の平均気温が数℃変化してきた、大規模な周期的気候変動であり、人類が引き起こしている地球温暖化の長期的な影響を知るための重要な鍵としても注目されています。過去の気候変動に関するこれまでの研究により、数百万年オーダーの長期的な時間スケールにおいては、地球上の火成活動や岩石の化学風化といった固体地球にかかわるプロセスが全球的な気候を支配していると考えられています。その一方で、氷期-間氷期サイクルのような数万年程度の時間スケールでの気候変動に対し、固体地球がどのように関わっているのかについては十分に理解されていませんでした。

そこで本研究グループは、氷期-間氷期サイクルにおける固体地球の挙動を明らかにするために、過去30万年間にわたる海水のオスミウム(Os)同位体比 (187Os/188Os;図2) の復元を試みました。そのために本研究グループは、国際深海掘削計画 (Ocean Drilling Program, ODP) により掘削された南太平洋ラウ海盆の深海堆積物コア (ODP Site 834A;図3) から試料を採取し、国立研究開発法人海洋研究開発機構のマルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置を用いてOs同位体分析を行いました。その結果、第四紀更新世チバニアン期から第四紀完新世ノースグリッピアン期にかけての過去30万年間の海水Os同位体比記録を、高い時間解像度で連続的に復元することに世界で初めて成功しました (図4)。そして、氷期-間氷期サイクルに伴い、海水Os同位体比が0.97〜1.03の範囲で変動し、氷期に低い値を、間氷期に高い値を取る明瞭な傾向があることを初めて明らかにしました。

図1 第四紀(過去150万年間)の氷期-間氷期サイクルの記録

大陸氷床の体積および地球の気候の指標である海水の酸素同位体比が周期的に変動している。酸素同位体比が高く寒冷気候にあたる時期を氷期、それ以外の温暖な時期を間氷期と呼ぶ (図中では上側が温暖となるように縦軸が反転されていることに注意)。このデータは海底堆積物中の底生有孔虫(海底に生息する炭酸カルシウムの殻をもつ生物)の化石の酸素同位体比記録を、全球規模でコンパイルしたもの(Lisiecki & Raymo, 2005) である。なお、更新世チバニアン期と完新世の間の後期更新世 (12万9000年前〜1万1700年前) は、年代の名称が未だ定められていない。

図2 海洋におけるOs同位体システムの概念図

海水のOs同位体比(187Os/188Os)は、高い同位体比を持つ大陸からの河川水と、低い同位体比を持つ海底熱水および地球外からの宇宙塵により流入するOsの混合割合により決定される。この割合は時代と共に変化してきたと考えられる。なお、本研究では、宇宙塵の流入フラックスは第四紀を通じて一定であったと仮定した。

図3 本研究で用いた試料の採取地点

本研究では、南太平洋にあるラウ海盆で掘削されたOcean Drilling Program (ODP) Site 834Aのコア試料を用いた。研究試料はアメリカ合衆国のテキサスA&M大学に保管されている掘削コア試料から分取した。

図4 本研究における海洋のOs同位体比の分析結果およびシミュレーション結果

南太平洋ラウ海盆の深海堆積物から復元した過去30万年間の海水Os同位体比記録(上から二段目、赤線で示す。ピンク色の領域は誤差範囲を表す)は、氷期(水色の背景部分)に低い値をとり、間氷期(白色の背景部分)に高い値を取る傾向を示す。海洋におけるOsの同位体質量収支計算において、氷期の終わり(図上部の青矢印のタイミング)に河川水によるOs流入量を急激に増大させ、海水準の急激な低下時(図上部の赤矢印のタイミング)に海底熱水によるOs流入量を急激に増大させることで、分析で得られた海水Os同位体比を概ね再現することができた(上から二段目、青線で示す。点線および破線は海洋におけるOsの滞留時間が異なるケースの結果)。河川水によるOs流入量増大のタイミングは、ヨーロッパアルプスの氷河地域における削剥速度の上昇のタイミングと概ね対応しており、海底熱水によるOs流入量増大のタイミングは海洋地殻が厚くなる(つまり、海底でのマグマ活動が活発になる)タイミングと一致している。

本研究グループは、さらに海洋におけるOsの同位体質量収支に着目し、本研究で得られた過去30万年間の海水Os同位体比データの変動を数値シミュレーションにより再現することで、氷期-間氷期サイクルにおける海水Os同位体比の変動を引き起こした原因を検討しました。その結果、本研究で見出された海水Os同位体比の変動を再現するためには、(1) 温暖な間氷期が始まるタイミングで高い同位体比を持つOsが、また、(2) 寒冷な氷期には低い同位体比を持つOsが、それぞれ海洋へ大量に供給されることが必要であると判明しました。そして、これらの現象は、以下に述べるような大陸氷床の体積変化に対する固体地球の急速な応答により説明できることが明らかとなりました。

(1) 間氷期の始まりには、氷期に発達していた大陸氷床が後退・消滅し、氷床が陸上の岩石を削り取ることで生じた氷河性の堆積物が地表に露出します (図5)。細かく粉砕された新鮮な鉱物から構成される氷河性の堆積物は非常に風化しやすいため、温暖な間氷期になると急速に化学風化を受け、氷河性砕屑物に由来する高い同位体比を持つOsが大量に海洋に流入します。その結果、海水Os同位体比が間氷期に高い値を取るようになったと考えられます。

(2) 一方、大陸氷床が発達する寒冷な氷期には、海から蒸発した水分が雪氷として陸上に蓄積されるため、海水準は間氷期に比べて最大120 m程度低下しました (図6)。その結果、海底にかかる海水の荷重 (静水圧) が減少し、海底火山や海嶺の地下におけるマグマの生成が活発化します。その影響により海底での熱水活動が強化され、低い同位体比を持つマントル由来のOsが大量に海洋に供給されることで、氷期に海水Os同位体比の低下が引き起こされたと考えられます。

図5 氷河性堆積物の生産と化学風化の概念図

氷期に陸上で発達する氷床は、岩盤を削り侵食する。その過程で、細かく砕かれ、かつ新鮮な鉱物からなる大量の砕屑物が生産される。その後、間氷期に入ると氷床は後退・消滅し、氷床による侵食で生産された砕屑物が、氷河性堆積物として広く露出する。これらが温暖な間氷期の気候のもとで急激な化学風化を受け、その結果高い同位体比(187Os/188Os = ~1.4)をもつOsが溶出し、河川を通じて海洋に流入する。

図6 海水準低下に伴う海底熱水活動の強化メカニズムの概念図

氷期には氷床が発達することで、海水準が低下する。その結果、海底にかかる静水圧が減少し、中央海嶺や島弧などに分布する海底火山でのマグマ生成が促進される。その結果、海底熱水活動も活発化し、熱水に含まれる低い同位体比(187Os/188Os = ~0.126)をもつOsが大量に海洋に流入する。

本研究により、氷期-間氷期サイクルにおける大陸氷床の発達と後退が、陸上岩石の化学風化と海底下のマグマによる熱水活動という2つの固体地球プロセスに影響を与えてきた証拠が初めて示されました。この成果は、近年の地球温暖化で注目を集めている氷床体積の変動が、大気・海洋・生物圏のみならず、固体地球圏のプロセスにも影響しうることを示した点で画期的といえます。これまで、数百万年以上の長期では「固体地球のプロセスが地球の気候を支配する」という因果関係が知られていましたが、本研究により、氷期-間氷期サイクルという数万年スケールの変動においては「気候変動に対して固体地球が鋭敏に応答する」という逆の因果関係が存在することが示されました。この成果は、氷床体積の減少を伴う人為起源の温暖化の進行が地球環境に与える影響について、より長期的な視野で予測・評価していくための新たな知見を提供するものと言えます。

用語解説

※1 第四紀
地質時代の中で、258万年前から現在までの期間を指す。第四紀は2つの時期に分けられており、258万年前から1万1700年前までの期間を更新世、1万1700年前から現在までを完新世と呼ぶ。本研究で分析対象としたのは、約30万年前から6,000年前に堆積した深海堆積物で、中期更新世(チバニアン期)から中期完新世(ノースグリッピアン期)に相当する時代のものである。
※2 オスミウム同位体比
オスミウム (Os) は原子番号76の金属元素である。中性子の個数の違いにより、天然のOsには7つの同位体(184Os、 186Os、 187Os、 188Os、 189Os、 190Os、 192Os)が存在する。これらのうち、187Osと188Osの比(187Os/188Os)が地球化学分野で利用される。187Osは質量数187のレニウム (Re; 原子番号75の金属元素) が半減期約416億年で放射壊変して生成する娘核種であるため、Reに富む大陸地殻を構成する岩石は187Os/188Osが高い値 (約1.4) を取る。一方、マントルの岩石や地球外物質は187Os/188Osが低い値 (約0.126) を取ることが知られている。 海水のOs同位体比は、高いOs同位体比を持ち主に陸上岩石の化学風化に支配される河川水フラックス (流量) と、低いOs同位体比を持ち海底の火成活動により支配される熱水フラックスの混合で決定される。深海堆積物に記録された過去の海水のOs同位体比を復元することで、陸上での風化作用と海底熱水活動の相対的な強度の変遷を知ることができる。なお、海水Os同位体比は全海洋でほぼ一様な値を示すため、本研究で対象としたコアのように大陸から遠く離れた遠洋域の堆積物は、全球を代表する情報を記録していると考えられる。
※3 氷期-間氷期サイクル
氷期-間氷期サイクルは第四紀を特徴づける地球規模の環境変動であり、北半球の氷床の発達と後退に伴い、寒冷な氷期と温暖な間氷期を周期的に繰り返してきた気候変動を指す。現在の地球は温暖な「間氷期」の段階にある。氷期-間氷期サイクルは約258万年前から顕在化し、約80万年前までは4万年周期、80万年前から現在までの期間は10万年周期の変動が卓越するという特徴をもつ。氷期-間氷期サイクルの原因として、地球の軌道要素(公転軌道の離心率、地軸の傾斜角、地軸の歳差運動)が周期的に変化することにより、北半球高緯度の夏の日射量が変動したとする「ミランコビッチ仮説」が提唱されている。
※4 化学風化
地表に露出した岩石が、水や大気と反応して変質していく作用のこと。ケイ素(Si)を主体とする鉱物(ケイ酸塩鉱物)の化学風化の場合、大気中の二酸化炭素(CO2)が化学反応により消費されるため、ケイ酸塩鉱物の化学風化は特に地球表層(大気・海洋)におけるCO2濃度の制御において重要な役割を果たしている。岩石を構成する鉱物は粘土鉱物へと変化し、その過程で鉱物中の様々な元素が溶脱していく。オスミウム (Os) もこの過程で岩石から溶出し、河川水に溶け込んで海へと運ばれる。
※5 海底熱水活動
中央海嶺や島弧などに分布する海底火山の付近において、海底の岩盤の割れ目に染み込んだ海水が、マグマにより熱せられて高温となり、熱水として海底に再び噴出する活動のこと。熱水には岩石から抽出された様々な金属元素が溶け込んでいる。海底の岩盤を構成する岩石はマントルに起源を持つため、それらから抽出されたオスミウム (Os) はマントル由来の低い同位体比を持つ。海底熱水にはこのOsが溶け込んでおり、地球内部から海洋へOsを供給する役割を担っている。

論文情報

タイトル
Rapid coupling between solid earth and ice volume during the Quaternary
DOI:10.1038/s41598-021-84448-7
著者
桑原佑典、安川和孝、藤永公一郎、野崎達生、大田隼一郎、佐藤峰南、木村純一、中村謙太郎、横山祐典、加藤泰浩*
掲載誌
Scientific Reports 3月11日版

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