藻類は水の中のいろいろな光環境のもとで光合成を行えるように、色や形の異なる様々なアンテナ色素タンパク質を持っています。今回、モンタナ大学と神戸大学等の研究グループは、海に生息する変わった藍藻※1 アカリオクロリス※2 の解析から、不要になったアンテナ色素※3 を一旦放棄し、後になって再び獲得していたと考えられる光合成の進化に関する興味深い知見を示しました。この研究は、淡路島を含む日本の沿岸やアメリカ西海岸等の紅藻やホヤの仲間から分離した多数の培養株を用いたゲノム解析によって進めることが出来ました。再獲得したアンテナ遺伝子群が光合成反応に寄与できるようになる仕組みなどは不明ですが、新たなアンテナ色素を光合成に組み込むことで利用できる光の波長(色)を変えられることが明らかになりました。

この成果は、2021年2月10日に国際学術誌 Current Biology のオンライン版に掲載されました。

研究グループの構成: Nikea J. Ulrich、Scott R. Miller(モンタナ大学)、広瀬裕一(琉球大学・理学部)、兼崎友(静岡大学・グリーン科学技術研究所)、内田博子、村上明男(神戸大学・内海域環境教育研究センター)

ポイント

  • 淡路島をはじめ各地の海に生育する紅藻類とホヤから特殊な藍藻アカリオクロリスを単離し、多数の培養株についてゲノム情報を比較した。
  • 大半の藍藻がもつアンテナ色素(フィコシアニン)は、アカリオクロリスの進化の中で一旦失われ、例外的に一つの系統では類似のアンテナ色素を再び獲得したことが明らかになった。
  • 光合成アンテナ色素の変遷が、藻類の進化や適応におけるメカニズムの一端であることを示すことができた。

藍藻の光合成アンテナ色素の適応進化 : フィコシアニンの放棄と再獲得

研究の内容

藻類のカラフルな色は、様々な光合成色素(クロロフィル、カロテノイド、フィコビリン)の組み合わせで決められています。色素の組み合わせは分類群毎にほぼ同じです。これは、藍藻や真核藻類の複雑な進化の過程で光合成色素の置き換え(既存遺伝子の放棄や新規遺伝子の獲得など)が繰り返し行われた結果と考えられています。しかし、その仕組みや理由はまだ不明です。藍藻アカリオクロリスは進化の過程で不要になったアンテナ色素の関連遺伝子群を一度失っていますが、一部の系統だけがアンテナ色素関連遺伝子を他の藍藻から取り込んだ可能性が高いと結論できました。

本研究で用いた藍藻アカリオクロリスは、海岸の岩礁地帯に生育する紅藻類や、熱帯サンゴ礁の浅海に生育するホヤの仲間から分離しました(図左上)。

大半の藍藻類は、光合成色素として緑色のクロロフィルa とアンテナ色素の一種である青色のフィコシアニンを主な成分としてもつため、その名称のように細胞は藍色を呈しています(図右上)。フィコシアニンをもつことでクロロフィルa が吸収する太陽の赤色や青色の波長成分ばかりでなく、緑色や橙色の波長成分も光合成に利用できます。一方で藍藻の仲間には、クロロフィルa の他にクロロフィルb などを持つ仲間も稀に見つかっています。これらの藍藻はフィコシアニンをもたないことが多く、藍色ではなく黄緑色です。本研究で取り上げる藍藻アカリオクロリスは、クロロフィルd ※4 を豊富にもつ変わった藍藻の一つです。クロロフィルd はクロロフィルa では利用しにくい遠赤色光(可視光に近い赤外線)を光合成に利用することが出来ます(図右上)。

本研究チームは、淡路島の紅藻や沖縄のホヤからアカリオクロリスの分離培養を進める中で、最初に報告され光合成研究に多用されているパラオ株(パラオのホヤから分離されたMBIC11017)とは色合いが異なる黄緑色の株ばかり得られることに気づきました。パラオ株だけはゲノムにフィコシアニン遺伝子群を保持し、青色のフィコシアニンを発現させているため藍色を呈しています。

今回、日本各地、アメリカ西海岸、カリブ海などから単離した多数のアカリオクロリス株について、ゲノムを網羅的に解析し、アカリオクロリス属内の系統関係、並びにフィコシアニン遺伝子の有無について解析を行いました(図左下)。その結果、既に報告されているアカリオクロリス属藍藻の中で、分子系統解析から最も古く分岐したと推測されるフランス株(RCC1774)とパラオ株以外の株ではフィコシアニン遺伝子は検出できませんでした。

これらの株についての分子系統解析(16SrRNAの単独遺伝子での解析および1,000以上の遺伝子の組み合わせでの解析)から、アカリオクロリス属藍藻内での進化の道筋が以下のように示唆されました。

大半の藍藻が保持していたフィコシアニン遺伝子はアカリオクロリス属が誕生(分岐)した以降にゲノムから一旦放棄され、大半のアカリオクロリスは青色のフィコシアニンを発現できずに黄緑色を呈していると考えらます(図右下、中段)。これらのアカリオクロリス藍藻の中で、パラオ株だけはフィコシアニン遺伝子を(由来は不明ですが)ゲノムに再獲得し、フィコシアニンを発現して藍色を呈するようになったと考えられます(図右下、下段)。多くの藍藻ではフィコシアニン遺伝子はゲノム上に保持していますが、再獲得したパラオ株ではプラスミドにだけ存在します。これらのゲノム上の存在部位からも、フィコシアニン遺伝子は周囲の環境中に共存していたと思われる別の藍藻から水平伝播により取り込んだものと考えられます。

また、通常の藍藻のアンテナ色素は、フィコシアニンを含む多くの構成タンパク質で構築されるフィコビリソームと呼ばれる巨大なアンテナ色素複合体から成ります。そのため、フィコビリソームの形成には多くの遺伝子が必要なのですが、アカリオクロリスのパラオ株では、通常の藍藻とは大きく異なり、フィコシアニンを構成する遺伝子群だけを単独で保持しています。これらのことからも、フィコシアニン遺伝子は水平伝播により再獲得された可能性が支持されます。

今回はアカリオクロリス属藍藻の特殊なケースでの知見に過ぎませんが、光合成アンテナ色素の適応進化に関する普遍的な理解へも繋がることが期待されます。

今後の展開

光合成生物、特に藻類のアンテナ色素が進化の中でどのような変遷(放棄や獲得)を辿ってきたかの解明につながっていくことが期待されます。

用語解説

※1 藍藻(研究領域ではシアノバクテリアと呼ばれる)
植物と同じ光合成反応を営み、大気中に酸素を生み出すことで、現在の地球環境の成立過程に大きく貢献した原核光合成微生物
※2 アカリオクロリス
ジデムニ科ホヤの共生藍藻プロクロロンの研究を進める中で、1996年に発見されたクロロフィルdをもつ変わった藍藻
※3 アンテナ色素
光合成色素はタンパク質と結合することで、光合成に必要な光エネルギーを集めるアンテナとしての機能を生み出す
※4 クロロフィルd
1943年に紅藻から発見された第4のクロロフィル。60年間、紅藻との関係が不明であったが、村上らが淡路島産の紅藻表面に着生する藍藻アカリオクロリスに由来することを発見

参照 : 日本植物学会HP 研究トピック > 【第2回】海の中の赤い植物"紅藻"の謎

論文情報

タイトル
Reacquisition of light-harvesting genes in a marine cyanobacterium confers a broader solar niche.
DOI:10.1016/j.cub.2021.01.047
著者
Nikea J Ulrich, Hiroko Uchida, Yu Kanesaki, Euichi Hirose, Akio Murakami, Scott R Miller
掲載誌
Current Biology

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