天満陽奈子氏(現早稲田大学法学部生)をはじめとする岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班の高校生(研究当時)10名と顧問であった矢追雄一氏(現静岡県立焼津中央高等学校教諭)ら4名の高校教諭と、岐阜県水産研究所の大原健一専門研究員、神戸大学大学院人間発達環境学研究科の源利文准教授、徐寿明大学院生(現龍谷大学リサーチ・アシスタント)からなる研究グループは、河川水の環境DNA分析によって冷水病菌とアユの分布状況を調べることに成功し、春に天然アユが河川を遡上する時期が冷水病への感染の時期である可能性を見出しました。また、当時高校生であった天満氏が筆頭著者として主に論文を執筆しました。病原体とその宿主の環境DNAを同時に検出する手法は他の感染症にも応用可能であり、自然界での感染症の現状を知るための新たな手法として発展することが期待されます。

この研究成果は、4月1日に、日本水産学会発行の国際科学誌「Fisheries Science」にオンライン掲載されました。

ポイント

  • 河川水から冷水病菌とアユの環境DNAを同時に検出することで、長良川や揖斐川の天然アユが冷水病菌に感染するタイミングを推定した。
  • 野外調査からDNA実験までの一連の研究は高校生によって主体的に行われ、論文執筆の主体となった筆頭著者も高校生である。
  • 環境DNAによって病原体とその宿主を同時に検出する手法は、他の感染症にも応用可能であり、自然界での感染症の動態を知るための新手法として発展が期待される。

研究の背景

冷水病菌(Flavobacterium psychrophilum)によって引き起こされる冷水病はアユなどの魚類に感染する致死率の高い感染症で、世界中で淡水水産業に大きな影響を与えています。日本でもアユなどの水産資源魚種に大きなダメージを与え、深刻な問題となっています。冷水病は養殖場だけでなく自然河川でも発生します。病気の大規模な発生(アウトブレイク)は水温が15℃から20℃程度の比較的低水水温の時期に起こることが多く、水温変動や高い個体密度による魚のストレス状態なども病気の発生に影響すると考えられています。しかし、自然環境中においてアユがいつ、どこで冷水病菌に感染しているのかなど、冷水病菌の河川内での動態や、冷水病菌とアユの関係はよくわかっていません。

アユは岐阜県の豊かな淡水生態系を代表するシンボルともいえる魚であり、「清流長良川の鮎」は世界農業遺産にも指定されています。人とアユのつながりを後世に残すためにも、アユを冷水病から守ることは重要な取り組みであると考えられます。そこで本研究では、主に岐阜県内を流れる長良川と揖斐川を対象として、冷水病菌とアユの関係を「環境DNA分析」によって明らかにすることを目的としました。

環境DNA分析は環境中におけるDNAを分析することによって生き物の分布などを推定する分析手法です。岐阜高校では2016年から神戸大学などと共同してこのような分析に取り組んでおり、これまでに絶滅危惧種であるヤマトサンショウウオの生息地の発見などに成功してきました。

環境DNA分析の特徴のひとつに、同一の水サンプルから複数の生物種の情報をまとめて得ることができるという点があります。本研究では、病原微生物である冷水病菌とその宿主であるアユのDNAを同時に検出することで、どちらか一方のみを調べるのではなく、両者の関係を明らかにすることを目的としました。

研究の内容

本研究チームは、長良川と揖斐川の合わせて16地点(長良川9地点、揖斐川6地点、共通の河口1地点)を調査地として、2017年7月から2018年6月までの1年間にわたってほぼ毎月の採水調査を行いました(図1)。調査地点で水を1リットルくみ、濾過濃縮などを経て環境DNAを抽出し、川の水の中に含まれる冷水病菌とアユの環境DNA濃度を測定しました。調査やDNAの抽出は岐阜高校で実施し、環境DNA濃度の測定についても神戸大学の機器を利用して高校生自身が行いました。

また、アユの感染時期を特定するため、春先の遡上前後にアユを採取し、感染率の測定も行いました。

図1 長良川と揖斐川における調査地点。長良川の9地点、揖斐川の6地点、および共通の河口1地点で調査を行った。

調査の結果、冷水病菌のDNAは秋から春にかけての水温の低い時期に多く検出され、夏場にはほとんど検出されませんでした。一方で、アユのDNAは春先から秋にかけての比較的温かい時期に検出され、よく知られているアユの河川内の動態と一致していました。このことは、春の遡上期と秋の流下・産卵期に、アユが冷水病菌にさらされていることを示しています。また、アユが1年で世代交代をする年魚でありながら、毎年感染が起きていることから、親から子への垂直感染が起きている可能性もあります。さらに、4月から6月の遡上期に捕獲したアユは高頻度で冷水病菌に感染していました。これらのことをまとめると、アユは遡上期や産卵期に冷水病菌に感染し、産卵期には垂直感染も起こること、6月や10月といった水温が比較的低く、かつ水温変動が大きい季節に発病し、ときに大きなアウトブレイクを起こすことなどが推定されました。一方、アユが川からいなくなる冬にも河川水から高濃度の冷水病菌が検出されることから、冬にはアユ以外の魚あるいは他の生物がキャリアとなって冷水病菌を保持している可能性もあります。

本研究では環境DNA分析によって、冷水病菌という病原体とその宿主であるアユの動態を同時に解析することで、それらの生態学的なつながりの一端を明らかにすることができたと考えられます。このような分析法は他の感染症にも適用可能であると考えられ、ますますの発展が期待されます。

図2 揖斐川の調査地点(IB6)における冷水病菌(灰色のバー)とアユ(白いバー)の環境DNA濃度と水温(黒丸)の関係

冷水病菌は秋から春にかけて、アユは春から秋にかけてDNAが多く検出される

なお、今回の研究では環境DNA分析を高校生自身が実施しました。また、今回発表された論文は高校生(執筆当時)が筆頭著者として主体的に執筆し、大学関係者がそのサポートを行いました。高校生が国際科学誌に論文を発表したということは特筆に値します。

今後の展開

この研究の成果は、水系の感染症の生態学的な特徴を捉える手法として、環境DNA分析が有効であることを示しています。今後は、このような手段を他の感染症にも適用することで、感染症の生態を明らかにすることにつながると期待されます。

今後は、環境DNAを用いてアユ以外の生物やその量の調査も行い、岐阜県の河川環境と水産資源の保全に役立てて行きたいと考えています。

論文情報

タイトル
Spatiotemporal distribution of Flavobacterium psychrophilum and ayu Plecoglossus altivelis in rivers revealed by environmental DNA analysis
(和訳:環境DNA分析によって明らかになった冷水病菌とアユの河川内における時空間的な分布)
著者
天満陽奈子(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班:研究当時)
常川光樹(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班:研究当時)
藤吉里帆(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班:研究当時)
髙井一(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班:研究当時)
廣瀬雅惠(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班:研究当時)
政井菜々美(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班:研究当時)
鷲見康介(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班)
瀧花雄大(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班)
柳澤壮玄(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班)
土田康太(岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班:研究当時)
大原健一(岐阜県水産研究所)
徐寿明(神戸大学大学院人間発達環境学研究科・大学院生:研究当時)
高木雅紀(岐阜県立岐阜高等学校・教諭:研究当時、現岐阜県立大垣北高校教諭)
太田晶子(岐阜県立岐阜高等学校・教諭)
岩田浩義(岐阜県立岐阜高等学校・教諭:研究当時、現岐阜県立大垣工業高校(定時制))
矢追雄一(岐阜県立岐阜高等学校・教諭:研究当時、現静岡県立焼津中央高校教諭)
源利文(神戸大学大学院人間発達環境学研究科・准教授)
掲載誌
Fisheries Science(日本水産学会発行の国際学術誌)

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