奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科学講座の高橋裕教授、神戸大学医学部附属病院糖尿病・内分泌内科の蟹江慶太郎医員らの研究グループは、腫瘍における異所性ACTH(1) 発現によって自己免疫が惹起されACTH単独欠損症(2) をきたすという、免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎の発症機序の一端を明らかにしました。

免疫チェックポイント阻害薬の使用頻度は増加してきており、免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎の発症機序が明らかになることで、今後様々な免疫関連有害事象の病因・病態解明、発症予測につながることが期待されます。

なお、本研究成果は、2021年5月11日公開の 「Cancer Immunology, Immunotherapy」 にオンライン掲載されました。

背景

ノーベル賞にもつながった免疫チェックポイント阻害薬は多くの進行癌に有効性が示され、その使用頻度は激増しています。一方で、免疫系の活性化に伴い免疫関連有害事象と呼ばれる自己免疫性の臓器障害が高頻度に見られ、甲状腺炎とともに下垂体炎が多く認められます。特に、免疫チェックポイント阻害薬の一種であるPD-1/PDL-1抗体による下垂体炎ではACTH単独欠損症をきたしますが、その機序は明らかになっていませんでした。

研究経緯ならびに成果

これまで高橋教授らの研究グループは、下垂体炎の亜型である抗PIT-1下垂体炎(抗PIT-1抗体症候群)を発見、命名し、その機序を明らかにしてきました。

今回の研究で、PD-1/PDL-1抗体による下垂体炎患者の一部の血清中に抗コルチコトロフ抗体(ACTH産生細胞に対する抗体)が存在すること、その抗体はACTHの前駆体POMC(3) を認識すること、さらに抗体を持った患者の癌組織ではACTHが異所性に発現していることを確認しました(下図)。

ACTHは下垂体ホルモンの中で最も異所性に発現しやすく、異所性ACTH産生腫瘍によるクッシング症候群(4) が認められることもあります。また、クッシング症候群を呈さなくとも肺がんの約30%に異所性にACTHが発現していることが報告されています。

今回の研究から、PD-1/PDL-1抗体による下垂体炎が、異所性ホルモン発現による傍腫瘍症候群として引き起こされていること、またACTH単独欠損症をきたしやすい理由の一端が明らかとなりました(下図)。そして免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎の発症機序が明らかになることによって、本疾患のみならず免疫関連有害事象の病因・病態解明、発症予測につながることが期待されます。

用語解説

(1) ACTH
副腎皮質刺激ホルモン。下垂体から分泌されるホルモンの一種。
(2) ACTH単独欠損症
下垂体からのACTH分泌のみが低下することによって起こる。副腎から分泌される副腎皮質ホルモンの分泌低下につながり、副腎不全の症状を引き起こす。
(3) POMC
ACTHタンパクの前駆体。プロセシングによってACTHが産生される。
(4) クッシング症候群
コルチゾール過剰によって引き起こされる症候群。

論文情報

タイトル
Mechanistic insights into immune checkpoint inhibitor-related hypophysitis: a form of paraneoplastic syndrome
(傍腫瘍症候群として発症する免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎の機序)
DOI: 10.1007/s00262-021-02955-y
著者
蟹江 慶太郎1、 井口 元三2、 坂東 弘教1、 浦井 伸1、 志智 大城1、 藤田 泰功1、 松本 隆作1、 隅田 健太郎1、 山本 雅昭1、 福岡 秀規1、 小川 渉1、 高橋 裕1, 3
(1 神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学、2 神戸大学保健管理センター、3 奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科学)
掲載誌
Cancer Immunology, Immunotherapy

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