生物多様性ホットスポットとして注目される南西諸島から、奇妙な星形の集合繭(まゆ)を吊り下げる新種の寄生バチが発見されました。

その詳細を、大阪市立自然史博物館外来研究員の藤江隼平氏を中心とする、神戸大学、沖縄市立郷土博物館、九州大学の研究チームが、10月29日、国際専門誌 Journal of Hymenoptera Research に発表しました。

神戸大学からは、大学院農学研究科の前藤 薫  教授が本研究に参加しています。

 

図1 新種寄生バチ(ホシガタハラボソコマユバチ Meteorus stellatus )の星型の集合繭。直径約1cmの集合繭を吊り下げるケーブルの長さは1mにも達するものがある。

Fujie et al. (2021) doi: 10.3897/jhr.86.71225 (Figure 8) 清水壮 撮影

ポイント

  • 星型の集合繭をケーブルで吊り下げる多寄生性の新種寄生バチが発見された。
  • 動画撮影によって集合繭が形成される過程が分析された。
  • 集合繭には天敵からの攻撃を防ぐ機能があるとみられる。

研究の背景

寄生バチは他の昆虫やクモなどの宿主に寄生し、最後には殺してしまう小さなハチの仲間です。寄生バチは植物を食べる昆虫類の強力な天敵であり、農林業害虫の生物的防除にも利用されています。しかし、寄生バチにも弱点があり、宿主から脱出した幼虫や蛹(さなぎ)はそのままでは他の天敵に簡単に食べられてしまいます。身を守るために繭を作るのですが、普通の小さな繭ではアリや二次寄生バチ(寄生バチに寄生する寄生バチ)の攻撃を効果的に防ぐことは難しいようです。

研究の内容

 今回、南西諸島(沖縄本島、奄美大島)から発見されたのは新種の寄生バチ(ホシガタハラボソコマユバチ)です。樹木やつる植物の葉を食べるスズメガ類の大きな幼虫に集団で寄生し、成熟して脱出したハチの幼虫は糸を吐いて枝葉からぶら下がると、やがて協働して大きな星型の集合繭を作ります(図1)。

 100個を超えることもある個々の繭は全て外向きに放射状に整列しており、それを吊り下げるケーブルの長さは1 mにも達します。真社会性のシロアリやアリを除けば、最大級の構築物を作る昆虫と言えそうです。このハチは、なぜこのように奇妙な集合繭を作るのでしょうか?

図2 ホシガタハラボソコマユバチの雌成虫の外観。体長3-4mm

Fujie et al. (2021) doi: 10.3897/jhr.86.71225 (Figure 2) 藤江隼平 撮影

 宿主から脱出したハチの幼虫は身を守るために繭を作りますが、それだけでは強力な天敵の攻撃を防ぎきれません。この寄生バチの祖先種はもともと、1頭の宿主に1頭だけ寄生する単寄生者だったと考えられています。最初の進化は、その幼虫が糸を吐いて繭を吊り下げる習性を獲得したことです。ひとつひとつの繭を宙に浮かせることによって、アリなどの歩行性の天敵からの攻撃を軽減できます。

 次のステップは、スズメガ類の幼虫のような大きな宿主に多数のハチ幼虫が寄生する多寄生性(gregariousness)という性質を進化させたことです。宿主から脱出した多数の幼虫は、緩い気流によって吊り糸を絡ませることによって、大きな集合繭を形成することが可能になりました(図3、動画)。

 こうして進化した星形の集合繭は、ひとつひとつの繭が外界と接する面積を最小化することによって、歩行性の天敵だけでなく、二次寄生バチのような飛翔性の天敵からも攻撃を受けにくい構造を実現していると考えられます。弱い者が協力して身を守ろうとする、社会性の芽生えがうかがわれます。

図3 緩い気流によって幼虫の吐く糸がもつれ合い、紡がれて集合繭が形成される

Fujie et al. (2021) doi: 10.3897/jhr.86.71225 (Figure 7) 刀禰浩一 撮影

Fujie et al. (2021) doi: 10.3897/jhr.86.71225

今後の展望

本研究によってホシガタハラボソコマユバチを含む系統群が、中南米やアフリカ、西太平洋地域の熱帯から亜熱帯に広く分布していることも明らかになりました。熱帯林には天敵生物が豊富なので、強い捕食圧に晒されることによって特殊な集合繭が進化したのかも知れません。今後の生態学的な研究が待たれます。また、寄生バチの幼虫がどのようなやり方で、互いにコミュニケーションを取りながら整然とした集合繭を形成するのか興味がもたれます。ハチ幼虫の認知能力や社会行動を解明する研究が楽しみです。

この論文が発表されて暫くすると、屋久島にも同じ寄生バチが生息していることが分かりました*。本種は南西諸島とその周辺地域に広く分布するものと思われます。本発見は南西諸島の生物多様性ホットスポットとしての重要性をあらためて思いおこさせる機会になりそうです。


Yakushima Film > ホシガタハラボソコマユバチ

謝辞

本研究は科学研究費助成事業の基盤研究(A) 19H00942(課題責任者 前藤 薫)の一部として実施されたものです。

関連情報

前藤 薫(編著)『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』一色出版(2020)

論文情報

タイトル
Stars in subtropical Japan: a new gregarious Meteorus species (Hymenoptera, Braconidae, Euphorinae) constructs enigmatic star-shaped pendulous communal cocoons
『日本語訳:亜熱帯日本の星:吊り下げられた奇妙な星型の集合繭を形成するMeteorus属の新種多寄生蜂(ハチ目、コマユバチ科、ハラボソコマユバチ亜科)』
DOI:10.3897/jhr.86.71225
著者
Fujie S, Shimizu S, Tone K, Matsuo K, Maeto K
掲載誌
Journal of Hymenoptera Research 86: 19-45

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