神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野の江本拓央医学研究員、山下智也准教授、平田健一教授らの研究グループは、姫路循環器病センター(神戸大学連携大学院)との共同研究にて、シングルセルRNAシークエンス解析を用いて、急性冠症候群(不安定狭心症や急性心筋梗塞)の冠動脈プラークにおいて骨髄球系の免疫細胞の特徴を捉えることに成功しました。今後、このデータをもとにした冠動脈プラークの安定化を目指した治療法の開発が期待されます。この研究成果は、5月2日(EDT米国東部標準時(夏時間))に、Circulation誌に掲載されました。

ポイント

  • 冠動脈プラークのシングルセルRNAシークエンス解析を行いその特徴を捉えた。
  • 急性冠症候群1の冠動脈プラークでは、慢性冠症候群(安定狭心症)と比べ、単球や肥満細胞、またCXCL3やIL1Bを強発現する炎症性マクロファージが集積していた。

研究の背景

近年の急速な分析技術の進歩により、対象とする組織について、1細胞ごとに網羅的に遺伝子発現を解析することのできるシングルセルRNAシークエンス解析技術2が開発され注目を集めています。これまで頸動脈の動脈硬化プラークについてはシングルセルRNAシークエンス解析が行われましたが、冠動脈プラークについてはサンプルが得難く報告がありませんでした。動脈硬化の形成に炎症が深く関わることは明らかにされてきましたが、実際のヒトにおいて冠動脈プラーク内にはどの様な特徴を持つ免疫細胞が存在し、また急性冠症候群の発症に作用しているのかははっきりとは分かっていませんでした。

研究の内容

本研究では、2020年10月から2021年6月にかけて、姫路循環器病センターで方向性冠動脈粥腫切除術の適応となった患者のうち、研究に同意いただいた慢性冠症候群4例と急性冠症候群3例に対してシングルセルRNAシークエンス解析を実施しました。結果、骨髄球系の細胞は3つのマクロファージの集団、単球、肥満細胞、樹状細胞の集団に分けることができました。さらに、慢性冠症候群と急性冠症候群を比較すると、急性冠症候群では、慢性冠症候群と比べ、単球や肥満細胞またCXCL3やIL1Bを強発現する炎症性マクロファージが集積していることが分りました(図参照)。

今後の展開

今回の研究では、急性冠症候群患者の冠動脈プラークにおいて、単球や肥満細胞、またCXCL3やIL1Bを強発現する炎症性マクロファージが集積するという骨髄球系の免疫細胞の特徴を捉えることに世界で初めて成功しました。今後、このデータをもとにした冠動脈プラークの安定化を目指した治療法の開発が期待されます。

用語解説

1 急性冠症候群
冠動脈プラークの破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈の高度狭窄または閉塞をきたして急性心筋虚血を呈する病態で、不安定狭心症、急性心筋梗塞,心臓突然死を包括した疾患概念。
2 シングルセルRNAシークエンス解析技術
1細胞ごとに網羅的に遺伝子発現を解析する技術のこと。

神戸大学発ベンチャーとの連携について

本研究のシングルセルRNAシークエンス解析パイプラインの一部の構築は、株式会社日本学術サポート と共同で行った。

日本学術サポートは 株式会社 神戸大学イノベーション が支援する神戸大学発ベンチャーであり、産学連携を通じた研究支援の成果として、本研究のシングルセルRNAシークエンス解析の実現に貢献した。

日本学術サポート 問い合わせ窓口: jimbo@jras.co.jp (神保)

論文情報

タイトル
Single Cell RNA Seq Reveals a Distinct Immune Landscape of Myeloid Cells in Coronary Culprit Plaques Causing Acute Coronary Syndrome
DOI
10.1161/CIRCULATIONAHA.121.058414
著者
江本拓央、山本裕之、山下智也、高谷具史、澤田隆弘、武田進太郎、谷口将之、佐々木直人、吉田尚史、斉藤克寛、Tharini Sivasubramaniyam、大竹寛雅、古屋敷智之、Clinton Robbins、川合宏哉、平田健一
掲載誌
Circulation

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研究者