バイオシグナル総合研究センター 乾秀之准教授が第34回村尾育英会学術賞を受賞しました。同賞は、一般財団法人村尾育英会により、「神戸ないし兵庫にゆかりのある研究」もしくは「兵庫県内の研究機関に属する研究者の研究」を対象に、優れた業績に対して与えられます。業績名、概要は以下の通りです。
業績名
「ウリ科植物のユニークな汚染物質蓄積機構」
概要
ゴミ焼却により発生するダイオキシン類やトランス・コンデンサなどの絶縁油として過去に使用されていたポリ塩化ビフェニルが、環境基準値を大きく超えて土壌から検出された事例や、40年以上も前に使用が中止された殺虫剤が残留基準値を超えてキュウリやカボチャで検出され、社会に大きな衝撃を与えました。このような汚染物質は脂に溶けやすく、生物濃縮されやすいという特徴を持つため世界的な取り組みのもと、排出の削減、使用が禁止されていますが未だ環境・生物から高濃度で検出されており、我々の健康に対して脅威を与えています。
解決方法の一つとして、汚染物質を環境から取り除き、生物への暴露を減少させることがあげられます。植物を利用した環境浄化方法であるファイトレメディエーションは、低コストで環境浄化できる有望な技術として世界的に広まりつつありますが、植物はこのような特殊な汚染物質を、根を介して吸収することができず、ファイトレメディエーションを適用できません。しかしながら、前述のキュウリやカボチャの殺虫剤汚染にもあるように、数ある植物種のうちウリ科植物だけがこのような汚染物質を根から取り込み、茎や葉、果実に蓄積することが報告されています。そこで、ウリ科植物が持つユニークな汚染物質蓄積機構の解明を目指しました。その結果、ウリ科植物はこれら汚染物質を根から吸収した後、根で作り出すタンパク質と結合させ、導管液を介して地上部に輸送していることを世界で初めて分子レベルで明らかにしました。
化学物質による環境汚染は日本を含む先進国のみならず、開発途上国においても顕在化してきました。このような地球規模の環境悪化は農作物の栽培環境にも深刻な影響を及ぼし、食糧の大半を輸入に頼っている日本にとって安全な食糧の安定供給を妨げる大きな要因となります。本成果は、このような汚染物質の浄化に最適なファイトレメディエーション用植物のデザインや、さらに汚染物質の果実への輸送を抑制することによる安全性の高い作物の栽培につながります。