経済学研究科 衣笠智子教授が第34回村尾育英会学術賞を受賞しました。この賞は、「神戸ないし兵庫にゆかりのある研究」または「兵庫県内の研究機関に所属する研究者の研究」に表彰をするものです。
人口減少時代の農業研究に関する独自の計量的・政策的研究を意欲的に進めている業績を評価され、表彰されました。研究課題と目的・動機は下記の通りです。
研究課題
「人口減少時代の持続可能な地域経済」
研究目的・動機
日本で人口減少・少子高齢化が進行するにつれ、特に地方で消滅可能都市の出現など、地方は困難な局面に立ち向かっている。この中で、地方経済の持続可能な発展を考えることは、喫緊の課題と言えよう。しかし、考え方によると、農村は一つのチャンスを迎えていると言える。というのは、高度経済成長期に都心部に人口が移動し、工業・サービス業などの非農業が発展したが、経済が安定し、人口減少社会に立ち向かった今、退職する高齢者が増加する中、U・J・Iターン現象で地方に移住をする人も少なくないため、農への回帰が促される可能性がある。地方では、農業が主要産業であるところも多く、地方の発展を考える上で農業を考えることは不可欠であるといえる。さらに、農業は食料を生産するだけでなく、環境・国土の保全に寄与し、農業は山合いの地でも営むことのできることから、都市への人口一極集中を緩和し、地域のバランスの取れた発展に貢献しうる。また、農村や里山の提供する安らぎは、都市住民に新たな生きがいや価値観を生み出しつつある。政策立案者は、農業の役割や、人口と農業の関係をより正確に理解し、人口減少社会に対応した政策を取ることが重要であろう。
これまで、経済発展に初期における農業の役割はかなり行われ、また、農業の生産に焦点を置いたミクロ経済的なアプローチは多く行われてきた。また、環境経済学の観点から田園の多面的機能はある程度計測されてきた。しかし、マクロ的に先進国における農業を取り扱った先行研究は少なく、農業の社会的意義ともいえる、地域のバランスの取れた発展に貢献できる力を計測した研究は少ない。そこで、本研究では、日本の地域振興における農業の役割について考察し、今後の日本の持続可能な発展のための方策を農業の視点から考察する。
本研究の目的は、下記の通りである。
まず、Kinugasa and Yamaguchi (2008, 2013) やYamaguchi and Kinugasa (2014) で、世代重複モデルと一般均衡的成長会計分析モデルを組み合わせて、日本全体のデータを用いて展開されてきた、人口変化の農業への影響に関するモデルを日本の地域経済に応用させ、人口変化に対応して農業がどのように重要性を増しうるか考察する。具体的に、人口変化の貯蓄への影響や労働参加への影響を考慮した上で、人口変化が農業インプットやアウトプットにどのような影響を与えうるか考察する。
続いて、農業の社会的意義を質的・量的に把握する。農業には、地域間のバランスを取れた発展を促しうるとともに、不況時に失業を吸収し、緩和する機能がありうる。ここで、兵庫県の農村で聞き取り調査を行い、雇用の受け皿として農業がどのような役割を果たしているのか、また、山間部でどうして農業を継続しているのかを把握する。その上で、日本や日本における地域の時系列データを用いて、農業の都市への一極集中を緩和する効果や、農業の失業を緩和する効果を計測し、農業の社会的意義を貨幣的価値に計算する。
以上の結果を踏まえ、日本の人口減少社会の中で、農業による地域振興についてどのような政策が重要であるかを提言する。