浅岡聡・内海域環境教育研究センター助教が、石炭灰造粒物を用いた水域底質改善材の開発で、「文部科学大臣表彰科学技術賞 (開発部門)」を受賞しました。
受賞日
平成30年4月17日
概要
研究の背景
法整備や排水処理技術の向上に伴い、沿岸域の水環境は改善されつつあります。しかし、大都市圏に隣接した内湾では水質汚濁が改善されていない場所もあります。そのような沿岸域では夏季に底泥から有毒な硫化水素が発生し、瀬戸内海では約1/3の面積で生物が棲み難い環境になっています。沿岸生態系の保全や漁業生産量を回復させるための解決策の一つとして底泥からの硫化水素の発生抑制、栄養塩の溶出削減が必要です。
研究概要と成果
浅岡助教らの研究グループでは沿岸域の水環境を修復するため、石炭火力発電所で石炭を燃焼した際に生成する石炭灰とセメントを反応させて合成した環境修復材料 (石炭灰造粒物) の研究開発を産官学連携の元に推進してきました。一連の研究によって石炭灰造粒物における沿岸域の水環境の改善機構は、石炭灰造粒物に含まれるマンガン酸化物が硫化水素を酸化し、リンについてはリン酸カルシウムを形成して固定化されるためであることが明らかになりました (図1)。また、電力会社との共同研究により、島根県、山口県、広島県の環境修復事業などに本法が採用され実用化レベルに至りました (図2)。
今後の展開
本研究は電力事業者などから大量に発生する石炭灰 (国内で年間1300万トン:東京ドーム11杯分以上発生) をリサイクルして環境修復材料を開発しており沿岸域の水環境の修復のみならず、循環型社会形成に貢献している点が特筆されます。世界の代表的な閉鎖性の強い内湾の面積は日本の国土面積の35倍以上にも及び、国内外いずれの海域においても沿岸域の水環境の修復が強く望まれており、これらの地域の水環境問題の解決に貢献することが期待されます。また、石炭灰造粒物の成分を変化させることで、排水処理など他の分野への応用展開も試みています。
謝辞
今回は名誉ある賞を頂戴し大変光栄に存じます。共同受賞者の山本民次教授、日比野忠史准教授 (広島大学)、Kim Kyunghoi助教 (Pukyong National University)、中本健二氏 (中国電力株式会社) 並びに、実際には材料開発から実用化に至るまで共同研究者、大学の教職員、研究室の学生など多くの皆様にお力添えをいただきました10余年でした。心から感謝申し上げます。