2024年5月13日  神戸大学・尼崎信用金庫共同研究成果発表 神戸大学経済経営研究所、尼崎信用金庫、神戸大学社会システムイノベーションセンター主催 公開シンポジウム「ESG地域金融がつくる中小企業の輝く社会」が開催されました。

 神戸大学経済経営研究所では、共同研究等を通じて、地方自治体、地域企業、地域金融機関、地域支援団体などとの連携を図るため、2023年4月、地域共創研究推進センターを設立しました。地域連携活動の拠点として地域の金融機関様や団体様との共同研究を強力に推進しております。

 信用金庫をはじめとした地域金融機関は、取引先企業と日頃から密接な関係性を構築して、その事業性をしっかりと理解し、幅広い支援を行っています。ただ、従来の事業性評価においては、必ずしも環境や社会の観点を取り込めていませんでした。しかし、近年、環境や社会の要因が、企業経営の制約となるとともに新しいビジネスチャンスにもなっています。そこで、こうした観点を含めたESG地域金融に取り組むことが求められています。

作田誠司 / 尼崎信用金庫 理事長 
 
 
 

 当研究所と尼崎信用金庫は、2022年度より「ESG要素を考慮した事業性評価の深化を通じた地域における事業者支援体制構築の推進」に関する共同研究を実施してきました。また、尼崎信用金庫は、2022年度に引き続き、2023年度の環境省「地域におけるESG金融促進事業」に採択されています。

 そこで、本シンポジウムでは、これらの共同研究を通して実施してきたESG 要素を考慮した事業性評価の取り組みを紹介し、今後の地域金融の在り方を考えることを目的とし、荒木千秋さん(大阪電気通信大学メディアコミュニケーションセンター特任講師・神戸大学経済経営研究所非常勤講師)による総合司会のもと、講演とパネルディスカッションを行いました。

左:家森信善 / 神戸大学経済経営研究所 教授・
       同地域共創研究推進センター長 
右:亀井茉莉 / 金融庁総合政策局総合政策課
       サステナブルファイナンス推進室 課長補佐

 作田誠司理事長(尼崎信用金庫)による挨拶に続き、第1部では、家森信善教授(神戸大学経済経営研究所 教授・同地域共創研究推進センター長)が「中小企業にとってのESG地域金融」と題し、続いて、亀井茉莉さん(金融庁総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室 課長補佐)が「地域金融機関におけるサステナブルファイナンス推進の現状と課題」と題して基調講演を行いました。

 

 

 次に、田中直也さん(尼崎信用金庫 価値創造事業部 部長 兼 法人ソリューショングループ長)が、「尼崎信用金庫のESG要素を考慮した事業性評価・支援による地域ESG推進モデルの取り組み」と題し報告を行いました。そして、評価シートを活用した実践事例報告として、①與那嶺まり子さん(株式会社新征テクニカル 代表取締役社長)と本吉剛さん(尼崎信用金庫 潮江・尾浜グループ統括支店長 兼 潮江支店長)による報告、②堂野起佐さん(株式会社ドゥパック阪和 執行役員)と樋口哲也さん(尼崎信用金庫 平野支店長)による報告が行われました。報告では、ESG要素を考慮した3種類の事業性評価シート(ESG対話シート:選択式設問シート・ESG要素を考慮したローカルベンチマーク・ESG課題評価シート)を用いた実践により、ESGに関する客観的な視点が得られるとともに自社の強みや課題が明らかとなり、次の事業展開を考えるうえで有用な気づきが得られたことが共有されました。

左:田中直也 / 尼崎信用金庫 価値創造事業部 部長 兼 法人ソリューショングループ長
中:與那嶺まり子 / 株式会社新征テクニカル 代表取締役社長
       本吉剛 / 尼崎信用金庫 潮江・尾浜グループ統括支店長 兼 潮江支店長
右:堂野起佐 / 株式会社ドゥパック阪和 執行役員
  樋口哲也 / 尼崎信用金庫 平野支店長

 続く第2部では、家森信善教授の司会により、「ESG地域金融普及の課題」をテーマにパネルディスカッションが行われました。亀井茉莉さん、小立敬さん(野村資本市場研究所 主任研究員)、作田誠司さん、須藤浩さん(信金中央金庫 副理事長)、竹ケ原啓介さん(株式会社日本政策投資銀行 設備投資研究所長・神戸大学経済経営研究所 客員教授)がパネリストとして参加し、今回の共同研究の意義と今後期待される展開について議論が行われました。

左写真 左から:家森信義 教授、 小立敬 / 野村資本市場研究所 主任研究員、 作田誠司 理事長
右写真 左から:須藤浩 / 信金中央金庫 副理事長、 亀井茉莉 課長補佐
                          竹ケ原啓介 / 株式会社日本政策投資銀行 設備投資研究所長・神戸大学経済経営研究所 客員教授 

 その中で、欧米においてもESG金融の取り組みは未だ初期段階で、具体的事例や人材の不足が課題となっていること、国内においては、信用金庫のネットワークなどを通じ成功事例の共有が始まったところであること、事業会社側からは自社の取り組みを金融機関と共有したいという声も多くあることなどが紹介されました。また、ESG要素への取り組みが、事業会社の強みを引き出すことに繋がるのみならず、地域課題の解決や、新たな事業展開につながった事例があり大きな可能性を持っていること、今回発表された事例は世界的にも先進事例と言えるものであり、世界へ発信する価値があること、今後の課題としては、人材の確保や大学等を含めた諸機関との一層の連携が必要であるとの意見がありました。最後に、ESG金融の取り組みを成功させるには、事業会社と地域金融機関が日頃から対話の積み重ねによって信頼関係をつくり、価値観を共有したうえで取り組むこと、今回紹介された評価シートは次の展開につながり得るものであるが、さらに改善をしながら地域や会社のニーズに寄り添った取り組みをすることが重要であるとの指摘がありました。

 最後に、北野重人経済経営研究所長から、御礼の挨拶がありました。

 シンポジウムはハイブリッド形式で行われ、出光佐三六甲台講堂に直接来場いただいた130名、Zoomウェビナーで参加された280名、計410名もの企業・組織と個人の方に参加していただきました。

 今回は、金融機関や製造業を中心に様々な立場から多くのご参加をいただき、金融機関と事業者のセットでの発表が具体的でわかりやすかった、ESG金融の現状がわかり参考になったなど、高い評価の声をいただきました。

 本シンポジウムは、2022年度、2023年度と継続してきた尼崎信用金庫様との共同研究の成果発表としての性格を持っています。今年度も共同研究を継続し、本取り組みの深化と横展開を実現していく計画となっています。