神戸大学は、外科手術に安全に使用でき、一定期間が経過した後に分解され、体外に排出されるクリップを開発しました。手術後の合併症を引き起こす可能性を低減させるほか、画像診断への支障を最小限に抑えることができ、今後外科手術用クリップとしての実用化が期待されます。

開発した外科手術用クリップ

クリップの開発は、神戸大学工学研究科材料物性学研究分野と医学研究科肝胆膵外科分野の医工連携研究によるもの。従来の外科手術用クリップはチタン製で一度の手術で30~40個用いることもあります。患部の回復後も患者の体内に残存し、手術後のCTやMRIによる画像診断の際、患部周辺の精細な撮影をすることが困難で、合併症を引き起こす可能性もありました。今回開発したクリップは約5ミリメートルの大きさで、マグネシウム合金を使用していることが特徴。カルシウムや亜鉛を混ぜ、材料の内部結晶組織を改良することで、クリップに必要とされる締結力や成形性を確保しています。

クリップの安全性や機能はマウスやラットを使った2種類の実験により確認しました。安全性実証のため、マウスの皮下に埋植実験を実施。1~12週にわたり経過観察した結果、クリップの分解に伴うガスの発生量がほとんど無く、周辺の細胞組織に炎症反応がないことから、クリップが周囲に与える影響が極めて低いことを確認しました。また、血液検査により血中のマグネシウム濃度やその他数値が12週後も正常範囲であることも確認。皮下に埋めたクリップは12週経過後に約半分まで減少したため、1年以内に分解され、体外に排出される可能性が高いことがわかりました。

さらに機能性実証のため、ラットの胆管、門脈、肝動脈、肝静脈をクリップで閉鎖し、肝臓を部分切除した後に経過観察を実施。8週経過後もラットは正常に活動しており、開発したクリップの機能に問題がないことを確認しました。また、マウスとラット両方をマイクロCTを用いて観察。クリップによる画像の乱れは少なく、臓器の観察が可能であることが確認されました。

クリップの開発に携わった向井敏司教授 (工学研究科機械工学専攻) は「さらに動物実験をすすめて2~3年後をめどに臨床試験実施を目指したい。神戸大学では新しい医療用デバイスの開発に取り組んでおり、今後も医工連携研究を推進していきたい」と抱負を語っています。

 

研究者