神戸大学と産業技術総合研究所は、細胞膜上に存在する創薬標的分子(膜タンパク質)に対して、より強く結合するタンパク質を選抜できる技術を開発しました。今後、がんなどの疾病に関わる膜タンパク質を標的とした研究を進めることで、新たなバイオ医薬品の開発が期待されます。
この研究成果は、イギリスの科学雑誌「Scientific Reports」に11月19日 (イギリス標準時) に掲載されました。
この研究成果は、神戸大学の海嶋美里・工学研究科博士後期課程学生、石井純・自然科学系先端融合研究環准教授、近藤昭彦・工学研究科教授と、産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門分子細胞育種研究グループの福田展雄・主任研究員の共同研究によるもの。酵母のもつシグナル伝達機構*1とタンパク質間の競合的な結合原理を利用することで、膜タンパク質に対して結合力が向上した変異型タンパク質*2を選抜できるようにしたことがこの研究成果の最大の特徴です。
膜タンパク質は生体の生理機能を制御する重要な役割を担っており、この生理機能の異常はがんなどの疾病を引き起こします。そのため、膜タンパク質に結合し生理機能を調節できる分子は治療薬の候補となります。研究チームは、ヒトと同じ真核生物に属する酵母のシグナル伝達機構に着目。シグナル伝達分子が膜に局在することが酵母の生育に必須であることを利用し、「膜タンパク質」に結合するタンパク質の選抜方法を開発。さらに、タンパク質間の結合が競合する細胞内環境を人工的につくり出すことで、「膜タンパク質」により強力に結合する変異型タンパク質を選抜する方法を開発しました。その結果、がんのメジャーな標的分子であるヒトの上皮成長因子受容体*3に対して、この手法が応用できることを実証しました。
膜タンパク質に対する結合力が向上したタンパク質を選抜できる技術が開発されたことにより、今後はさまざまな創薬標的分子に対してより強く結合する変異型タンパク質を選抜することで新たなバイオ医薬品を開発できるほか、創薬にかかる時間やコストの低下が期待されます。
用語解説
- *1 シグナル伝達
- 周囲の環境変化などの情報を細胞に伝達する機構。細胞の運命や生理機能を制御する
- *2 変異型タンパク質
- タンパク質の構成要素であるアミノ酸の一部が置換されたもの
- *3 上皮成長因子受容体
- 正常組織では細胞の分化、増殖、維持などの調節に重要な役割を演じているが、この受容体に異常が起こると発癌や転移などに関与するようになる