神戸大学医学研究科小児科学分野の森岡一朗特命教授、同保健学研究科病態解析学領域の大澤佳代准教授、同医学部附属病院検査部の佐藤伊都子副技師長らの研究グループは、早産児の細菌感染症の早期診断に活用できる新たな基準を作成・提唱しました。今後、新たな基準を活用した早期診断・早期治療により、早産児の「後遺症なき」生存につながることが期待されます。
この研究成果は、4月1日に英国科学雑誌「Scientific Reports」電子版に掲載されました。
早産児は免疫機能が未熟なため、予定どおりに出生した正期産児と比較して、細菌感染症に罹患すると死亡やその後の成長、精神運動発達に悪影響を及ぼす可能性が高いことが知られています。しかし早産児の場合、成人や小児で感染症発症のサインとされる発熱や、白血球数やC反応たんぱく質 (CRP) の上昇が見られないことがあります。そのため、早産児の細菌感染症の早期診断に活用できる新たなマーカーの開発が求められていました。
森岡特命教授らの研究グループは、成人や小児で細菌感染症の早期診断に有用とされる血清マーカー「プロカルシトニン」に着目。2014年6月から12月までに神戸大学医学部附属病院総合周産期母子医療センターに入院した新生児283人 (1267血清検体) を調査しました。その結果、正期産児はプロカルシトニンの数値が出生後一時的に上昇した後、生後5日までに成人や小児の正常基準値である0.1ng/mLに戻ったのに対し、早産児では生後9週までかかることがわかりました。
研究グループはこれらの結果をもとに基準曲線 (中央値と95パーセンタイル値) を作成。さらに、感染症を発症した3症例にこの基準に当てはめたところ、いずれも95パーセンタイル値の曲線を上回ることが明らかになりました。
今回提唱した新たな基準が、早産児の細菌感染症の早期診断に活用されることで「後遺症なき」生存につながることが期待されます。森岡特命教授は、「不要な抗菌薬の使用抑制にも活用できる可能性がある。今後、基準曲線の感染症診断における詳細な精度について検証していきたい」と話しています。
論文情報
タイトル
DOI
10.1038/srep23871
著者
Noriko Fukuzumi, Kayo Osawa, Itsuko Sato, Sota Iwatani, Ruri Ishino, Nobuhide Hayashi, Kazumoto Iijima, Jun Saegusa & Ichiro Morioka
掲載誌