神戸大学大学院医学研究科外科系講座整形外科学黒田良祐教授グループ(以下、神戸大学)とウシオ電機株式会社(本社:東京都、代表取締役社長 内藤宏治、以下 ウシオ)が共同で研究を進めていた、222nm紫外線直接照射による人体皮膚への安全性※1および殺菌効果※2の検証に関する論文が、米国科学雑誌「PLOS ONE」に8月12日(現地時間)付けで掲載される予定です。
今後、外科手術時の術野消毒や殺菌を目的とした医療機器の開発を始め、医療分野における感染症克服に向けた紫外線活用の研究をさらに推し進めていきます。
ポイント
- 500mJ/cm2紫外線を20人の正常皮膚に直接照射し、急性障害である紅斑の発生なく常在菌を殺菌した。
- これにより、222nm紫外線の人体皮膚への安全性と殺菌効果の両立が立証された。(これまでのマウスを対象とした検証では、222nm紫外線の繰り返し照射による皮膚細胞のダメージテストおよび発がん試験にて安全性を確認し、角膜炎、白内障といった目に対する影響もないことを確認済み※3)
研究の背景
医療において最も問題となる疾患の一つに感染症があります。しかし、殺菌、ウイルス不活化の方法は限られており、古くから行われている手術野の消毒液による消毒や洗浄等しか方策がないのが現状で、実臨床における大きな課題となっています。感染症を克服するためには、これまでにない、新たな予防・治療手段の開発が必要で、これが医療界で切望されています。
本研究では、外科手術時感染リスク低減のため222nm紫外線を応用、実用化すべく、まずヒトでの安全性を調べることを主目的とした臨床試験を計画しました。
研究の概要
従来、多剤耐性の殺菌においては、UVC紫外線のうち主に254nmが用いられてきましたが、人体に直接照射すると10mJ/cm2程度で皮膚の急性傷害の指標である皮膚が赤くなる日焼け反応(紅斑)が現れるため、人体への直接照射は難しいとされてきました。
しかし、今回照射したウシオ製222nm照射装置(Care222)による222nmの場合、500mJ/cm2という高い照射量でも皮膚に急性障害が発生しないことが臨床試験で確認されました。
試験方法
20名の健常者ボランティアの背中部10mm × 10mm領域に対し、ウシオ製222nm照射装置(Care222)を用いて各50、100、200、300、400、500mJ/cm2照射し、24時間後に紅斑の有無を確認しました。その結果、20名全員において紅斑が確認されませんでした。
その後、同背中部40mm × 40mmに対し、500mJ/cm2を照射し、照射前、5分後、30分後のそれぞれで皮膚常在菌の数を測定(スワブ面積は20mm × 40mm)した結果、照射前、照射5分後、30分でそれぞれ、7.21個、0.05個、0.79個と殺菌効果が確認されました。
今後の展望
人体皮膚への安全性が立証されたことで、医療への応用、臨床実用が現実的になりました。感染症を克服するためのこれまでにない、新たな予防・治療手段としての開発を進めていきます。まずは、外科手術時感染リスク低減のため222nm紫外線を応用、実用化することを目指しています。いずれは外科手術に限らず全ての医療を行う場、すなわち病院全体の222nm紫外線を用いた紫外線殺菌・不活化が実施できるよう研究、開発を継続していきます。将来的には病院に限らず公共施設等でも安全に使用できるものになるようにしていきたいと考えています。
補足説明
※1
Care222 TMによる222nm紫外線の人体皮膚への安全性
フィルターがない場合、230~320nm程度までのUVC, UVB領域でスペクトルが存在し、そのまま照射すると50mJ/cm2で紅斑があらわれ、63m/cm2以上で細胞DNAにダメージが入ることが報告されています。
※2
Care222 TMによる222nm紫外線の殺菌および不活化効果
論文情報
タイトル
DOI
10.1371/journal.pone.0235948
著者
Tomoaki Fukui, Takahiro Niikura, Takahiro Oda, Yohei Kumabe, Hiroyuki Ohashi, Masahiro Sasaki, Tatsushi Igarashi, Makoto Kunisada, Nozomi Yamano, Keisuke Oe, Tomoyuki Matsumoto, Takehiko Matsushita, Shinya Hayashi, Chikako Nishigori, Ryosuke Kuroda
掲載誌