40%省エネ・低炭素化を実現した世界初のAI空調システムがウイルスも除去
神戸大学産官学連携本部の長廣剛 客員教授、工学研究科の喜多隆 教授、医学研究科の森康子 教授らの研究グループは、建物内の空間全体から高い性能でウイルス感染リスク低減させ、さらにCO2排出量も抑えた高機能空調システムを開発しました。
本システムは、環境省の支援により開発し40%以上の省エネ・低炭素化を実現したAIスマート空調技術(空間内の人数や空気状態を把握し、空気をコントロールする技術)に、紫外線照射やオゾンの活用、湿度調整などを組み合わせて殺菌能力を持たせた空気のコントロールを加えたもので、ウイルスの99.9%不活化を実現しながらも換気量を抑え消費エネルギーを削減したエコシステムです。
2020年12月18日からイオンスタイル海老江店で実証実験を開始しており、今後もさまざまな店舗への導入を予定しています。
※本開発システムのより詳しい情報について、動画で説明しています。
第46回 神戸大学長定例記者会見(2020年11月27日)
開発の背景
新型コロナウイルス感染症の拡大が世界的な脅威となり、感染症拡大を防ぐためにさまざまな対策が講じられています。しかし、現在のところ建物内における対策は、検温による発熱者の除外と換気による不確かな空気清浄に依る事例がほとんどです。このため、施設の閉鎖や人数制限などによって経済活動へは大きなダメージが与えられており、また、市販の空気清浄機を設置して経済活動を行っている多くの事例についても、従来の一般的な空気清浄機は機器の近くでの効果しか期待できず、空間全体の感染リスクを低減しているとは言い難いのが現状です。また、換気による空調負荷の増大が低炭素化※1 を目指す社会に悪影響を及ぼすことも懸念されます。
そこで本研究グループは、空間全体のウイルス感染リスク低減、および低炭素化をコンセプトとして、新しい空調システムの開発に取り組みました。開発は、神戸大学の複数部門を横断する体制により進められており、神戸大テクノロジーの集結によるコロナテック・イノベーションとなります。
開発システムの概要
本システムは、空間内の空気循環による省エネシステムとして開発されたAIスマート空調※2 のマルチダクトへ、紫外線照射によるウイルス不活化や殺菌と、湿度調整による感染リスク低減および気液分離による大きな菌類や不純物の除去機能を付加して構成されています。このシステムでは、空間内の人数や空気状態等のセンシングによってオゾン濃度と湿度を調整することで、人体へ悪影響を及ぼすことなくウイルス等除去効果を高めるとともに、換気量適正化や空間内に生じる空気の上下温度差利用等による空調消費エネルギーの低減を可能としました。また、既存の空調システムとの連携などによって更なる低炭素化も可能であり、脱炭素社会志向の高機能空調システムとなっています。
空間全体でのウイルス感染リスク低減と低炭素化との両立は革新的技術と言えます。本システムの開発により、密な状態が発生しても感染リスクを低く保つことのできる建物空間を実現し、ウイルスや菌類の脅威を取り除くことで、世界をコロナ禍前の状態に戻すことが可能であると考えられ、国民生活を大きく改善することが期待されます。
用語解説
※1 低炭素化
温室効果ガスのうち大きな割合を占めるCO2の排出量を抑えることで、地球温暖化の緩和などを目指す取り組みや概念。CO2排出量を抑えながらも、経済発展を図り、安全な社会づくりを行うことが目的とされている。
※2 AIスマート空調
環境省地球温暖化対策事業で開発したAIとIoTを用いた空調技術で、約40%の省エネ・低炭素化を実証し全国的に展開が開始された産学連携の新技術
※3 イオン海老江に導入した実証システム
コロナ禍において不要不急の外出が制限される場合でも、日用品や食品の買い物を行うスーパーなどの場所への外出は日常生活に最低限必要であり、そういった場所における安全性の確保が非常に重要であるとの考えから、イオン海老江に本技術を導入した効果検証がはじまりました。