農業用水のパイプラインで地震による被害の多い曲管及びT字管等の耐震性を向上させるため、埋戻し材1)の一部に「固結工法」を用いた技術を開発し、その効果を振動模型実験により検証しました。新しく管を埋設する際には、セメント等の材料を混合した固化処理土を適用し、既に地中に埋設されているパイプには、地表面から薬液等の注入を行うことで、地震時の埋戻し材の強度低下を防ぎ、継手部が抜け出しにくくなり、耐震性が向上します。


農業用パイプラインは、大規模な地震の際に大きな被害を受けます。特に多い被害の内容は、曲管やT字管等のスラスト力2)が作用する箇所での継手部のパイプの抜け出しです。通常時にはスラスト力に対して、農業用パイプラインの周辺にある埋戻し材の土圧等によってパイプが保持されていますが、地震時にはこの埋戻し材が液状化して土圧が低下するため、パイプが動いて継手部の抜け出しが生じます。

そこで、農研機構は、神戸大学及び茨城大学と共同で、①セメント等の材料を埋戻し材である砂質土と混合させた固化処理土を用いる、あるいは②砂質土に地表面から薬液等のグラウト材3)を注入することで、曲管やT字管等のスラスト力が作用する箇所の耐震性を向上させる工法(以下、固結工法)を開発しました。振動模型実験を行って、その効果を確認しました。スラスト力が作用する方向の埋戻し材にこの工法を適用し、地震時の埋戻し材の強度低下を防止することで、パイプの変位が抑制され、継手部が抜け出しにくくなります。新しく管を埋設する際には、①を適用します。一方、既に埋設されているパイプには、②を適用することで同様の効果が得られます。

本工法は、全国に埋設されている農業用パイプラインを効率的に耐震化する際に活用が期待されます。なお、埋戻し材の周辺の地盤そのものが地震時に液状化したり強度低下したりする場合には、本工法は適用できません。

開発の社会的背景と研究の経緯

図1 地震による継手の抜け出し (東日本大震災での被害事例)

農業用水のパイプラインは昭和40年代から本格的に整備が始まり、基幹的な施設の延長は約12,000kmです。河川やダム等から取水した水を水田や畑地まで送水するため、直線のパイプだけでなく、曲管、T字管、片落管 (口径が変化する管) 等の様々な形状のパイプが利用されています。このうち、水の流れの向きが変わる、曲管、T字管、片落管等には、内部の水の圧力によってパイプを動かそうとするスラスト力が作用します。通常は、このスラスト力に対してパイプ周辺の土圧やパイプと土の摩擦力等によってパイプが動かないよう力のバランスが保たれています。スラスト力が土圧等よりも大きく見込まれる場合には、コンクリートブロック等を設置して、パイプが動かないようにしています。

しかしながら、大規模な地震の際には、埋戻し材の液状化等による土圧の低下や、パイプ内部の水が地震によって動くことによるスラスト力の一時的な増加等によって、力のバランスが崩れてしまい、パイプが動いて継手部で抜け出し、漏水する被害が頻発しています (図1)。漏水事故は営農活動に支障をきたすだけでなく、パイプが道路下に埋設されている場合は、高圧水による道路の陥没で交通障害等の二次被害を引き起こすことがあります。そのため、地震時のパイプの変位を抑制し、被害を軽減する工法が求められています。

そこで、農研機構は、共同研究機関とともに、スラスト力が作用する方向の埋戻し材に固結工法を適用し、地震時の埋戻し材の強度低下を防止することで、曲管やT字管等の耐震性を向上する技術を開発しました。固結工法は、パイプの浮上防止等を目的に埋設管の埋戻し材として近年利用されていますが、スラスト力対策としての有効性が不明であったため、今回振動模型実験によりその効果を検証しました。

研究の内容・意義

  • 本工法では、曲管やT字管周辺のスラスト力が作用する方向の埋戻し材に固結工法を適用します (図2)。新たに埋設するパイプの埋戻し材には固化処理土を用い、また既に埋設されたパイプの埋戻し材には地表面から薬液等のグラウト材を注入します。これにより、埋戻し材に粘着力が付加されて、地震時の強度低下を防ぎます。

    図2 固結工法の適用箇所

    スラスト力が作用する方向のパイプと現地盤の隙間に固結工法を適用する。スラスト対策でコンクリートブロックが用いられている場合には、コンクリートブロックと現地盤の隙間に適用する。なお、現地盤は粘性土で地震時に顕著な強度低下を起こさない現場を想定している。

  • 現地盤 (埋戻し材の周辺のもともとある地盤) が液状化や顕著な強度低下を起こさない箇所では、スラスト力が作用する方向の埋戻し土に固結工法を用いることで、管の変位を抑制し、継手部のパイプが抜け出す被害を軽減できます。

    図3 振動実験の模型 (単位:mm)
  • 振動模型実験を行い、本工法の有効性を検証しました。実験の条件は、現地盤は粘性土、埋戻し材は砂質土とし、埋戻し材が地震時に強度低下する状況を再現しました (図3)。

  • 振動模型実験では、地中に埋設したT字管に水圧を負荷しスラスト力を与えた状態で、地震動を加えました。固結工法を適用しない場合、地震によりパイプが現地盤に接触するまで大きく動きましたが、固結工法を適用した場合、大きな地震 (震度6強に相当) でもパイプはほぼ動かないことを確認しました (図4及び図5)。

図4 振動実験後に地盤を開削した状況

埋戻し材が砂のみの場合。地震前は、図5のようにT字管は直管の奥まで接合されていた。

図5 振動実験後に地盤を開削した状況

埋戻し材にグラウト材を注入した場合

今後の予定・期待

今後、全国に埋設されている農業用水のパイプを耐震化する際に、本工法を活用できます。こうした技術を用いて、大規模な地震の際のパイプの被害を最小限に抑えることが望まれます。

関連情報

予算
JSPS科研費17H01495
特許
特開2021−181706

用語の解説

1)埋戻し材
掘削した地面を埋戻す際の地盤材料
2)スラスト力
水圧によって、水の流れが変化する箇所において生じる管を動かそうとする力。曲管、T字管、片落管、弁部等で発生します。例えば、口径1m、屈曲角度45度、内圧300kPaの曲管では、約18tの大きなスラスト力が生じます。
スラスト力の作用方向 (左:曲管、右:T字管)
3)グラウト材
隙間や空洞を充填する材料。水ガラス(珪酸ナトリウム)、硬化材等からなり、充填時は流動性のある液体で、充填後に固化する。固化時間は任意に調整できる。

論文情報

タイトル
液状化対策工法及び液状化対策構造
著者
有吉 充,泉 明良,毛利 栄征,河端 俊典,澤田 豊
掲載
特開2021-181706

タイトル
基礎材料に固結工法を用いた屈曲管路のスラスト力対策工法に関する遠心振動実験
DOI
10.11408/jsidre.89.I_235
著者
有吉 充, 太田 遥子, 澤田 豊, 毛利 栄征, 泉 明良, 河端 俊典
掲載誌
農業農村工学会論文集 89(2),pp.I_235-I_241

研究者