政治資金規正法違反の罪で国会議員が逮捕され、派閥の会計責任者らが立件された自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件は、政界を大きく揺るがしている。自民党の政治刷新本部は、是正に向けた中間報告をまとめたが、派閥や政治資金パーティーの全廃に踏み込まず、通常国会で野党が激しく追及している。「政治とカネ」のスキャンダルはなぜ繰り返されるのか。政治はどう変わるべきか。政治学が専門の藤村直史法学研究科教授に聞いた。

法学研究科 藤村直史 教授

組織ぐるみのコンプライアンス違反

今回の自民党派閥の政治資金パーティーの裏金事件をどう受け止めましたか。

藤村教授:

驚きました。一般社会ではコンプライアンスを遵守するのが当然ですが、政治家が法令違反しています。今回の事件の特異性は、個別の議員が法律に違反したということではなく、自民党の派閥という組織ぐるみで違反していたことであり、非常に深刻な問題です。

東京地検特捜部は今年1月に国会議員1人と秘書を逮捕し、別の国会議員や派閥の会計責任者ら8人を政治資金規正法(虚偽記載)の罪で在宅起訴や略式起訴しました。一方で、政治資金収支報告書の作成は事務局が担っているとして、「5人組」と呼ばれる安倍派幹部の国会議員らは立件しませんでした。この捜査結果についてはどう見ますか。

藤村教授:

極めて不可解な結果で、残念です。むしろ、裏金の額や国会議員の関与の立証に関して、ここまでなら立件されないという「お墨付き」を与えてしまいました。実際、立件後に名乗りでる議員が増えました。西村康稔前経済産業相(兵庫県選出)は、「私的流用はないので、裏金じゃない」とはっきり言い始めました。選挙区の明石市で、「政治資金として活用しておりました。したがって...「裏金」となっていたということは一切ありません」と書いたビラを配っていたようですが、「裏金」の定義を勝手に変えて、自己弁護しているのは、到底正当化できるものではありません。

自民党派閥パーティー裏金事件の経過
2023年11月中旬自民党派閥の政治資金パーティー収入の政治資金報告書不記載を大学教授が告発
12月19日東京地検特捜部が政治資金規正法違反で安倍派と二階派の事務所を強制捜査
12月末東京地検特捜部が池田佳隆衆院議員、大野泰正参院議員の関係先を捜索
2024年1月7日東京地検特捜部が政治資金規正法違反容疑で池田議員と秘書を逮捕
1月11日自民党が政治刷新本部を設置
1月18日岸田文雄首相が「岸田派」(宏池会) の解散を表明
1月19日東京地検特捜部が政治資金規正法違反容疑で安倍派と二階派の会計責任者を在宅起訴、岸田派の会計責任者を略式起訴、大野泰正参院議員を在宅起訴、谷川弥一衆院議員を略式起訴
1月25日自民党政治刷新本部が党改革の中間報告を公表
1月26日通常国会で論戦始まる
2月13日自民党が政治資金パーティー問題で全所属議員にアンケート調査。2018~22年に政治資金収支報告書に不記載があった国会議員は85人で、総額約5億7949万円
2月15日自民党が政治資金収支報告書に不記載があった議員91人に聞き取り調査。32人が資金還流を認識、うち11人は不記載も認識

この事態を受けて、岸田首相が本部長を務める自民党の政治刷新本部は、党改革の中間報告をまとめ、派閥を「政策集団」として存続させる方針を打ち出しています。派閥の問題については、どう評価しますか。

藤村教授:

いちおう、派閥の資金管理団体としての役割を喪失させたので、資金を収集できなくなった点は一定の評価をできると思います。しかし、リクルート事件等のときにも1994年に派閥は解消されたのに復活してますから、効果があるかどうかは、今後をみないと判断できないです。

派閥にはメンバーに対して3つの機能があって、いわゆるカネとポスト、選挙のときの公認です。公認についてはかつての中選挙区制から現在の小選挙区中心の選挙制度になってずいぶん役割は減ってきて、今回の事件で、さすがにカネの収集や配分も減少するでしょう。残るのはポストですが、大臣や副大臣などの人事をどうするかです。ただ、私は、一般の国会議員は派閥がなくなってもあまり困らないけど、困るのは総理大臣になりたい人だと思います。自民党の総裁選挙は国会議員票の比率が高く、国会議員からの支持で総裁が決まりやすいです。今回も、総理・総裁を目指している茂木自民党幹事長がいちばん派閥の解散を嫌がっています。派閥の機能低下に関しては、一般議員より総理大臣を目指すリーダーの方により影響が出るのではないでしょうか。

中間報告は、議員に配る活動資金の廃止や政策集団(派閥)による政治資金パーティーの禁止などを盛り込みました。この政治資金にかかわる見直しについては、どう思われますか?

藤村教授:

政策集団の政治資金パーティーは禁止としていますが、そのほかのパーティーが残るかどうかがカギだと思います。リクルート事件をきっかけに、企業・団体は議員個人への献金を禁止され、その代わりに、税金で政党を助成しようと約300億円が政党助成金に使われています。もしパーティーが残ると、企業・団体が政治家に献金できる抜け道が依然残ることになります。まず、抜け道がおかしいですよ。

政権交代がないから説明責任を果たさない

ロッキード事件、リクルート事件など「政治とカネ」にまつわるスキャンダルは繰り返されています。「政治にはカネがかかる」と言われますが、何に使われるのでしょうか?

藤村教授:

事務所と秘書に費用がかかるのは、なんとなく分かります。国費で雇える秘書は3人までですけど、派閥のリーダークラスになると10人以上います。秘書の人件費などにかかるのは分かるんですが、やはり飲み食いなどにも使っています。政治家個人の政治資金収支報告書はときどき見ており、使い道は飲食費や贈答品が多いです。参加者や送り先を書かなくても、「会合費」、「贈答品」とだけ書けば良いので、第三者が妥当性を判断することすら困難です。

最近の世論調査で、今回の裏金事件を巡って「議員が使い道を説明する必要がある」という回答が8割以上に上りました。しかし、安倍派幹部らは政治資金収支報告書で裏金の使途を「不明」と訂正しただけで、岸田首相も容認しました。現時点では、国会でも使い道は明らかにされていません。

藤村教授:

政府、自民党の説明責任はまったく果たされていません。安倍派の幹部議員は、東京地検特捜部が捜査しているときは「捜査中」と答えず、終わったあとに1度会見した程度です。2月初めに自民党は裏金を受け取っていながら収支報告書に不記載だった議員リストを公表しましたが、網羅的でなく、まったく不十分です。

やはり、政権交代がないことが今回の政治資金問題の一因と思われます。有権者に選挙で落とされるという民主的統制があれば、説明責任ももう少し真面目に果たすでしょう。とくに、裏金問題の安倍派幹部は選挙に強いです。野党の立憲民主党は、政治資金パーティーの全廃や連座制の導入、政策活動費の使途公開など要求していますが、政権を取れば実施できます。政権交代がないために、ルール変更が難しい。政権交代がないことと個人が選挙に強いという、この2つが、説明責任や権力の監視にかかわってきます。結局、私たち有権者の問題でもあると思います。

自民党政治刷新本部中間報告の主な内容 (1月25日公表)
1政策集団による政治資金パーティーの禁止
2政策集団の収支報告書の外部監査を義務付け
3政治資金規正法等の遵守を徹底
4政治資金パーティーなど議員団体収入の銀行振り込みやオンライン提出を通じ、政治資金を見える化
5派閥は「お金」と「人事」から決別し、政策集団として存続
6夏季、冬季の所属議員への資金手当てを廃止
7会計責任者が逮捕、起訴された場合、代表を務める国会議員を党が処分できるように党則を改正

地方の選挙制度を比例代表に

2012年の第2次安倍政権以来、自民党の一強政治が長く続き、野党の勢いがなく、政権交代の実現可能性を感じさせません。

藤村教授:

2008~9年あたりの有権者の自民党への閉塞感は強く、それが2009年の政権交代につながりました。ところが、最近は旧統一教会問題や今回の裏金問題があっても、自民党に危機感もなければ、有権者に政権交代の期待感もさほどありません。そもそも、政権交代がないのは、野党が分裂していることが大きいと思います。小選挙区制度になっても、比例代表を並立しているので少数政党も生き残れるから野党が割れています。小選挙区だけだったら、野党がひとつにならないと勝てないです。小選挙区制は、多数派を形成しやすいので安定政権をつくることができます。一方、比例代表制は小政党も議席を得やすく、少数意見が反映されやすいです。選挙制度ごとに長所と欠点があり、選挙制度の選択はこうしたトレード・オフの問題があります。

ヨーロッパの選挙制度は比例代表が多く、過半数が取りにくいので連立政権が形成されやすいです。一般的に少数派というと、弱者やマイノリティをイメージし、心情的にそうした少数派の代表を支援したい気持ちになりますが、ヨーロッパでは移民を排斥するような少数派の極右政党も連立政権に入る国もあります。

今回の裏金事件に端を発した政治不信を払しょくするために、政党あるいは政治はどう変わるべきでしょうか。

藤村教授:

まず、地方政治が問題です。なぜ政権交代が起きないかというと、自民党は地方で依然しっかりとした選挙活動をしているのに対し、旧民主党系は地方議員レベルの十分な基盤がないので、選挙ではいわゆる無党派層の「風」に頼っています。地方から政治を変えていって、政権交代を伴う政党競争が必要だと思います。私は、特定の政党を支持しているわけではありませんが、政権交代は必要と考えています。そのためには、地方の選挙制度を変える必要があります。

いま、都道府県議会や市区町村議会の議員選挙は概ね中選挙区制を採用していて、例えば私が住んでいる西宮市は議員定数41人に対し2023年の選挙では66人が立候補し、わずか2%の得票率で当選します。中選挙区制では、西宮市の例のように2%程度で当選するので、大政党でなくても選挙に勝てるから野党が結集するメカニズムが働きません。もうひとつ地方の問題は無投票当選が増えていることです。2023年の統一地方選では41都道府県議会議員選挙の定数の4分の1が無投票当選でした。無投票の問題点は2つあって、議員の成り手がないということと、有権者に選択肢がないことです。民主主義の根幹である選挙が機能していません。

まず、地方の選挙制度改革を検討すべきです。ベストな選挙制度はありませんが、比例代表にすれば、選挙が政党中心になることで、有権者に候補者個人の評価を高めるための活動から解放され、女性や若者も議員に出やすくなり、地方議員の成り手不足も少しは解消されることが期待できます。

最後に、現在の研究内容を教えてください。

藤村教授:

従来から政治制度、議会、政党、議員を研究対象としています。その中でも現在は、「議員は公約を本当に守っているかどうか」を、選挙公報をテキスト分析と機械学習を用いて研究しています。Political Science Research and Methodsというジャーナルに条件付き採択されたところです。また、「日本ではなぜ世襲議員が多いのか」というテーマについて、昨年台湾とスイスのワークショップで報告し、現在論文投稿の準備中です。

略歴

2002年3月大阪大学法学部卒業
2004年3月京都大学大学院法学研究科修士課程修了
2007年6月ワシントン大学大学院国際学研究科修士課程修了
2009年3月京都大学大学院法学研究科後期博士課程指導認定退学
2009年4月京都大学大学院法学研究科助教
2010年3月京都大学大学院法学研究科後期博士課程修了 京都大学博士(法学)
2010年4月神戸大学大学院法学研究科准教授
2014年4月ハーバード大学ライシャワー日本政治研究所客員研究員
2015年4月ハーバード大学国際問題研究所客員研究員
2019年4月神戸大学大学院法学研究科教授

研究者