大西裕教授 

東日本大震災では、関西の自治体で組織する特別地方公共団体「関西広域連合」が、東北の被災自治体支援で重要な役割を果たした。被災自治体と支援側自治体をペアとし、復旧・復興をサポートする「対口(たいこう)支援」(カウンターパート支援)方式を導入した。この方式はその後の災害にも受け継がれている。自治体同士の支援の現状や課題、南海トラフ巨大地震を想定した展望などについて、法学研究科の大西裕教授に聞いた。

災害時の自治体同士の支援について研究するようになったきっかけは?

大西教授:

2011年に東日本大震災が発生した後、翌年から公益財団法人・ひょうご震災記念21世紀研究機構(以下、機構)の理事長に着任されることになっていた五百旗頭真・神戸大学名誉教授が「東日本の復興の過程で関西広域連合が果たした役割をしっかり記録に残し、社会科学の立場から分析しておくべきだ」という考えを示され、機構の研究課題として調査の依頼を受けたのがきっかけです。

関西広域連合は、東日本大震災が起こる前年の2010年、府県域を越える特別地方公共団体として全国で初めて誕生しました。当初は、大阪府、兵庫県、京都府、滋賀県、和歌山県、鳥取県、徳島県の7府県で、現在は奈良県、大阪市、堺市、京都市、神戸市も加入しています。

調査は、機構内の研究プロジェクトとして進められました。そこでの議論を受け、2017年に「災害に立ち向かう自治体間連携―東日本大震災にみる協力的ガバナンスの実態」という本にまとめました。

研究を重ねる中で、阪神・淡路大震災以降に進んだ自治体間連携の枠組みについても知ることとなりました。阪神・淡路大震災では、被災地の自治体に対し多くの自治体から支援の手が差し伸べられましたが、被災自治体側は支援を受け入れるスキームが未整備で、断らざるを得ない状況も生じていました。そこで自治体間連携の重要性が認識され、災害時を想定した基盤整備が進められたという経緯があります。

遠隔地から支援する仕組みが重要

自治体間連携の意義はどこにあるとお考えですか。

大西教授:

一般的に、被災した自治体は自ら被災者の支援を行わなければならないのですが、東日本大震災のような大災害の場合、自治体が行政機能の多くを失ってしまうため、他の自治体に頼らざるを得ない局面が出てきます。ただ、国や県は市町村と業務内容が異なるので、被災市町村が支援を仰ぐことができるのは市町村ということになります。市町村が担う業務は、避難所の運営、罹災証明書の交付など多岐にわたります。

また、物的・人的支援についてはNPOやボランティア団体の役割も重要で、その調整にも自治体がかかわる必要があります。こうした面でも、支援自治体が力を貸してくれれば大きな助けになります。

東日本大震災では、それまでに結んでいた自治体同士の協定は機能したのでしょうか。

大西教授:

姉妹都市などの関係性を生かして相互応援協定を結んでいたケースはありましたが、その多くは近隣自治体を対象にしたものでした。東日本大震災は被害が広域に及んだため、近隣では支援し合えないという問題が生じました。結果的に、遠方の関西広域連合の支援が効果的な役割を果たしたのです。

東日本大震災直後、関西広域連合は、当時の井戸敏三・兵庫県知事の強いリーダーシップで被災地への支援を決定しました。各被災市町村に対し、支援側の自治体が1対1で自己完結的に応援に入る対口支援(カウンターパート支援)方式を採用することで、効果的に業務を進めることができました。

対口支援の発想は、実は1999年に発生した台湾大地震にさかのぼります。その時、台北市は阪神・淡路大震災時の課題を教訓に、対口支援方式で被災自治体の支援を行いました。その効果が広く知れ渡り、2008年の中国・四川大地震の際には、中国政府が対口支援方式で被災自治体と支援自治体の割り振りを指定し,被災地を支援しました。四川大地震では、兵庫県も支援を行ったので、そこで得た知見が東日本大震災に生かされました。つまり、阪神・淡路大震災の教訓が回り回って東日本大震災で役立ったことになります。

 

民間団体との連携を意識した仕組みづくりを

 

大西裕教授(神戸市灘区の神戸大学) 

対口支援方式の課題についてはどう考えますか。

大西教授:

被災者支援については、さまざまなNGO・NPO、ボランティア団体なども応援に入るため、自治体がそれらの組織間の調整にかかわる必要がありますが、その方法については検討課題です。また、複数の自治体が一つの被災自治体を支援する場合、支援側の自治体同士の業務調整についても考える必要があります。いずれかの自治体が中心になり、現場の動きを統括できれば理想ですが、これまでの事例では必ずしもうまく機能していないという話も聞いています。

南海トラフ地震など、今後の大災害を想定して考えるべき対応は?

大西教授:

東日本大震災では、関西の自治体が東北の自治体を支援するという構図で、関西の自治体にマンパワーがあったので支援が機能しました。しかし、南海トラフ地震が発生した場合、関西も含めた経済の大動脈が大きなダメージを受けると想定され、例えば東北地方からの支援がどこまで行き届くのかという不安があります。

自治体間だけで支援を行うのは難しく、民間の力を借りなければならないでしょう。民間の力をどのように引き出し、どう支援につなげていくのかを考え、スキームを作っておく必要があります。民間組織の場合、役所の指示で動くのではなく、自分たちが必要性を感じている支援を行うため、自治体はあくまでも調整役としてどう機能できるかという点が課題ではないでしょうか。

東日本大震災の際は、兵庫県にも神戸市にも、阪神・淡路大震災を直接経験した職員がかなり残っていたわけですが、今は経験値が落ちている可能性もあります。東日本大震災以後の災害で応援に入った時の知見を、自治体の枠を超えて横断的に共有する仕組みも必要かもしれません。

ひょうご震災記念21世紀研究機構では、地方自治体における災害対応の中核を担う人材を育成しようと、専門研修を実施しており、全国の職員が受講しています。こうした取り組みを、ほかの組織にも広げていくべきだと考えています。

大西裕教授 略歴

1989年、京都大学法学部卒。91年、京都大学大学院法学研究科修士課程修了。博士(法学)。大阪市立大学法学部助手、助教授、高麗大学校(韓国)客員教授などを経て、2005年から神戸大学大学院法学研究科教授。日本政治学会理事長などを歴任。

関連リンク

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