長ヶ原 誠 教授 

パリ五輪・パラリンピックが熱戦を繰り広げた2024年夏、アメリカ・クリーブランドでは、マスターズスポーツ国際総合大会「北米マスターズゲームズ」(PAMG)が開かれた。人間発達環境学研究科の長ヶ原誠教授は、一人のアスリートとして、主催団体・国際マスターズゲームズ協会(IMGA)理事として、10日間の大会に参加、世界のライバルと肩を並べ感動を分かち合った。2027年には、「ワールドマスターズゲームズ」(WMG)関西大会の開催が迫っている。「スポーツプロモーション」を専門に研究を続け、WMG関西大会評議員でもある長ヶ原教授に、来る大会開催の意義、生涯スポーツが高齢化社会に果たす役割について聞いた。

参加型の国際大会に感動

ワールドマスターズゲームズとは、一般には聞き慣れない大会です。どんな大会ですか。

長ヶ原教授:

ワールドマスターズゲームズは、国際マスターズゲームズ協会(IMGA)が主催する中高年齢者のための国際スポーツ大会で、1985年以来、ほぼ4年ごとに開催されています。原則30歳以上の誰もが出場できるオープンな大会で、元オリンピアンでも、元プロ選手でも、元パラリアンでも、高校大学以降競技から遠ざかっているシニアアスリートでも、定年後にスポーツを楽しむ100歳のアスリートでも参加できます。年齢別に競い合い、幅広いアスリートがいるのも、大会の特長だと思います。私自身は1998年にアメリカ・ポートランド大会の陸上400メートルに初出場し、決勝で元五輪選手が隣のレーンにいたことの感動が忘れられず、WMGの日本誘致も含めて関わってきました。エリート選手の最高峰がオリンピックとすれば、この大会は生涯スポーツの最高峰の大会です。

今回参加した北米マスターズゲームズは、IMGAが管轄するもう一つの国際大会です。
世界を3分割する大陸別協会の運営ながら、世界どの地域の国のアスリートでも参加でき、4400人が70カ国から集まりました。今は大陸別大会ですが、今後は国際大会へ発展することがIMGA理事会で決まっています。国際大会が2年に1度になりますよ。

私もIMGA理事をしており、今回の北米大会には理事会メンバーとして大会運営を評価しながら、閉会式まで滞在するのが、ミッションとなっていました。理事はアスリートのモデルとして、できるだけスポーツを実践しなければならず、私は「ディスクゴルフ」という競技に出場し、年齢別グループで銅メダルを獲得しました。手のひらより少し大きなプラスティックの円盤を金属のかご目掛けて投げ、ゴルフのコースと同じ18コースを巡りながら、3日間のスコアの少なさを競う種別で、初めてメダルを手にしました。

メジャーリーグの公式戦で、国際マスターズゲームズ協会理事として始球式をする長ヶ原誠教授(長ヶ原
教授提供)

アメリカはスポーツボランティアの文化が根強く、みんなで歓迎している雰囲気がすごく伝わってきました。参加者だけでなく、同伴者もやってきて一緒に楽しみます。スポーツばかりでなく、観光も楽しめ、祝典のような感じで、ずいぶんと賑やかな雰囲気でした。ボランティアも、観戦者も、主催者も、みんなで盛り上げていこうとしていましたね。どの大会に参加しても、いいなあと思います。

アメリカでの歓迎ぶりは、いかがでしたか。

長ヶ原教授:

開催されたクリーブランドは、野球の盛んな街で、メジャーリーグのガーディアンズのホームスタジアムがあります。リーグ後半戦最初の試合に、ワールドマスターズゲームズ参加の皆さんも招待され、ホスト団体の誇る野球文化を体験しました。私がたまたま野球をやれたので、IMGA理事会を代表して始球式をさせてもらいました。その際に、場内アナウンスでワールドマスターズゲームズ関西大会や、マスターズ甲子園を主催していることを紹介してもらいました。

始球式では、ボールがキャッチャーまで何とかノーバウンドで届いたことと、ワールドマスターズゲームズ参加者の方々から「関西大会に行きます!」と言ってもらえたことが嬉しかったです。

3年後の関西大会に、決意新た

WMG関西大会をPRする絶好の機会になった?

長ヶ原教授:

メジャーリーグの舞台で関西大会をPRできて、私たちのミッションとしては成功だったと思います。北米からもできるだけ多くの人に、日本に来てほしい。 

関西大会は当初2021年に開催される予定でしたが、コロナ禍で2度も延期になり、2027年の開催となりました。過去に2大会が延期になり、中止した大会もありました。関西大会も普通だったら、止めてしまう状況だったと思います。しかし、それでも止めなかった。しかも、大会の規模も全く変えず、WMGとして過去最高の5万人の参加を目標にしています。開催に関わる人たちのスタミナ力は、すごいと感心しています。

コロナ禍で延期になったと考えるのではなく、今は、むしろ大会をPRする時間を与えてもらったと思っています。北米マスターズゲームズの感動が残っている今、関西大会を開く歴史的な意味を感じていますね。世界中の関係者は、招致活動から大会開催まで、おそらく最も持続したスポーツ大会になったと見ています。2013年に招致活動を始め、2度の延期を経て、14年かけて開幕するわけですから。

夏季が成功すれば、次は冬季大会

関西大会への思いも新たにしたのではないですか。

長ヶ原教授:

関西大会は注目度が高まり、すべてが右肩上がりの大会です。ワールドマスターズゲームズは、オリンピック・パラリンピック同様、夏と冬に大会を開いています。2027年に夏の関西大会を成功させて、今度は冬季大会を招致し、開催に結び付けられたらと期待しています。1964年に東京(夏季)五輪が開催され、1972年に札幌(冬季)五輪があったように。今回の関西大会のスキームは、冬季大会にも応用でき、今後の生涯スポーツ振興につながります。

関西に住む私たちは、大会にどう関わっていけばいいですか。

長ヶ原教授:

参加型の大会なので、各競技に参加してもらったら、楽しさがわかります。一人でも多くの人に世界デビューを果たしていただきたい。どんなふうに大会に出場するのかは選手の自由。友人同士なのか、昔の友人と一緒なのか、国を背負わない大会だから、多国籍チームでも出場できます。家族で、カップルで、親子で、夫婦で、3世代で、男女混合でも出られる。日本はカップルスポーツやファミリースポーツがあまり浸透していませんが、こういう国際舞台でメダルに向けて、家族で参加できる大会は他にはありません。

大会の全体の成功は、目標の参加人数5万人を達成することですが、そればかりでなく、大会終了後に国内でも誰もが生涯スポーツを楽しむ文化が根付いてくれたらと思います。

関西大会で早くから運営に関与し、大会レガシーにも関わりが深いと聞いています。

長ヶ原教授:

2021年の関西大会に向けて、レガシー創出委員会委員長として、「レガシー基本構想」を策定しました。通常は、大会の時にレガシーが生まれるものですが、関西大会は初めて大会の始まる前からレガシーを計画しました。大会の後に残したいものを、大会準備の段階から考えました。「個人を彩るレガシー」「地域を創るレガシー」「文化を深めるレガシー」「世界を広げるレガシー」「未来を育てるレガシー」という五つの分野でレガシーを定めています。ただスポーツイベントをやるだけでなく、スポーツ振興のために、この大会をいかに活用していくのかを、産官学民で考えました。私は「スポーツプロモーション」が専門で、生涯スポーツの文化振興を研究のテーマにしていますが、レガシーというのが大学の研究に一番近い分野だと思います。

私のゼミ(マスターズスポーツ振興支援室)が、大会招致の時から大会計画に携わり、大会ロゴやコンセプトを作りました。この大会を契機に何を活性化したいか、どんなレガシーを残したいか、研究的に言えば「仮説」を挙げたということです。レガシーで掲げられた仮説のゴールが達成されているのか、今はモニタリングしている段階です。3年後には、今度はレガシーがどう達成されたかを検証しなければならない。主催団体のIMGAからも期待され注目されています。

WMG理事だけでなく、元高校球児が出場するマスターズ甲子園実行委員長も務め、野球界での尽力も大きいですね。

長ヶ原教授:

高校野球OBであれば誰でも出場できる「マスターズ甲子園」を2004年から手掛け、神戸大学に事務局があります。今年で21年目になります。元高校球児は全国に200万人くらいいて、高校単位の同窓会チームが出場しています。2004年当初は82校でスタートし、今は716校が参加しています。予選大会から勝ち上がったチームが、毎年11月に甲子園球場で熱戦を繰り広げます。プロ野球選手の中にも高校の時、甲子園の土を踏めていない人は多く、この大会を目指す人も多いですよ。元プロ野球選手の桑田真澄さんも、PL学園高校の一員として出場しています。

するスポーツで、高齢者に躍動感

スポーツが、長寿社会で果たす役割をどう考えていますか。

長ヶ原教授:

高校・大学までは、「するスポーツ」が盛んですが、それ以降は出場できる大会が少なくなり活躍する舞台がなくなると、競技人口が減って、スポーツ文化が退化していきます。それを右肩上がりにするのが、「生涯スポーツ」です。日本では加齢に伴って激しいスポーツしないという考えが強いのですが、工夫の仕方によって激しいスポーツを楽しむことは可能だと思います。

本気でスポーツを楽しむ文化が、日本は、他の国と比べるとまだまだ低いと感じています。超高齢化社会を世界の先頭で走っていますが、活動的な加齢感が感じられません。生涯スポーツを振興することで、高齢者を躍動的に変えていくことが可能です。スポーツ文化そのものを全体で盛り上げていくためには、「するスポーツ」が一番大事です。

スポーツにおける夢は何ですか。

長ヶ原教授:

ワールドマスターズゲームズにしても、マスターズ甲子園にしても、学生とともに企画、運営し大会を育ててきた自負があります。今まで関わってくれた後輩に支える立場を担ってもらって、私は一人の現役選手としてプレーを楽しみたいものです。

マスターズ甲子園50周年の時に、私は米寿のプレーヤーとして出場したいですね。もちろん、ワールドマスターズゲームズにも出場しますよ。

長ヶ原 誠 教授 略歴

1988年3月鹿屋体育大学体育学部卒業
1990年3月鹿屋体育大学大学院体育学研究科修士課程修了
1990年7月鹿屋体育大学大学院助手
1998年7月カナダ・アルバータ大学大学院体育・レクリエーション学博士課程修了
1998年9月アルバータ大学体育・レクリエーション学部非常勤講師
1999年4月神戸大学発達科学部講師
2001年4月神戸大学発達科学部准教授
2013年1月神戸大学大学院人間発達環境学研究科 教授

研究者

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